第7話 育成牧場
☆★☆★☆★
「あれが滝さんがどうしても乗りたいって言ったエンマダイオウですか」
「生まれたばかりの時に言われた時はびっくりしましたけどね」
「あの人に頭を下げられたら、よっぽどの事がないと断れないですよね」
苦笑いしながら答える二人。
オーナーの花京院政宗はこの人も充分凄い人なんだけどなと思う。
かつての騎手時代は天才と言われ、通算勝利数は2000以上。重賞勝利数は200超え。
G1も45勝と充分の実績を残している。
調教師に転向してからは、堅実に実績を積み上げているものの未だにG1勝利はない。
まだ調教師になってから数年だが、そろそろ結果が欲しい。
そう思ってたところに、滝がどうしても乗りたいと言った馬が我が厩舎にやってくる。
一永はその馬が来るのを楽しみにしていた。
「実際に走るのを見るのが今から楽しみですよ」
「まだまだ新米ですが、その私が見ても中々のモノだと思いますよ。一永調教師には期待してます」
「プレッシャーですね」
その後も雑談しながら、話はエンマダイオウのデビュー戦。厩舎に向かいながら、話を続ける。
「プヒヒヒン」 (お兄さんだ)
足音が聞こえたのか、エンマが医師のチェックを受けつつ顔を上げる。
「人懐っこいですね」
「そうですね。あまり人が居ても気にならないタイプだと思います。ただ、うちの牧場には他に馬が居なかったので、馬と走らせてみてどうなるかが分かりませんね」
「プヒン」 (もうレース?)
エンマダイオウは耳をぴこぴこさせて、二人の話を聞いてるように見える。
それがなんだか可笑しく、二人して笑ってしまった。
「これから頑張るんだぞ」
「プヒヒヒン」 (任せろ)
☆★☆★☆★
牧瀬さんと楽しくお喋りしてるとお医者さん的な人がやってきた。
なんか色々調べられたけど、特になんともないらしい。
その後にお兄さんともう一人の男の人がやってきた。さっき調教師って言われてた人だ。この人が俺の特訓的なのをしてくれるんだろうか。名前的に。調教なんていかにもって感じだし?
じゃあ牧瀬さんの役目はなんだろうか? 俺の面倒を見てくれるって言ってたけど。
厩務員ってやつか? なんか聞いた事があるようなないような。
出来ればこのままずっと美人さんにお世話して欲しいもんです。
そこからは本格的な競馬っぽい訓練が始まった。いやー、初めて俺と同じ大きさぐらいの馬を見た。結局実家ではお友達が来る前に移動しちゃったからね。
「プヒヒヒン」 (なんやねん。やんのか?)
「ブヒン」
何故かときたま俺にメンチ切ってくる奴が現れる。最初は無視してたんだが、なんか鼻で笑われた気がして。
それからは俺も同じくメンチ勝負に持ち込んでいる。俺が言われたら怖い関西弁で勝負だ。これで大抵勝てる。
「プヒヒヒン?」 (この場のボスは我ぞ?)
「ブヒヒン」
そしてメンチ勝負に勝つとそこからは大人しくなる。俺はいつしかボスを自称していた。これが正しい対処法なのかは知らぬ。
馬の言葉は分かりませぬゆえ。
時には後ろ脚とかで蹴ってこようとする馬もいる。そういうのは、華麗に躱してからわざわざ顔の前までいき頭で小突く。分からせるまで何度もやれば、やっぱり大人しくなる。
そして、とうとう俺の背中に人が乗った。
なんか違和感が凄い。人を背中に乗せてそれなりのスピードで走れるってのは全能感があるけど。まあ、慣れたらなんとも思わん。
でも乗る人によって、走りやすいとか走りにくいがある。なんかやたらと重く感じる人がいるんだよね。これが騎手の上手い下手とかに関係するんだろうか。ちょっと下手っぴの人にはあんまり乗って欲しくないですねぇ。俺に乗る予定だって言ってた滝さんは大丈夫かな? レジェンドなんだし、大丈夫だよね?
「エンマは良い仔ね」
訓練自体は1.2時間で終わるから、ちょろいもんだ。実家の牧場で朝から夕方まで走り回ってた時はもっとキツかった。坂道とか特にね。ここの訓練も乗ってる人の指示に従ったりするのが面倒なだけで、訓練自体は軽い。
なんか鈍りそうだから、もっとがっつりやりたいんだけど。コミュニケーションが取れないって不便だね。
そんな事を思いながら牧瀬さんにブラッシングをしてもらう。こんな美人にやってもらうなんて、最高ですよ。あ、そこもう少し強くお願いします。
そこでもしばらく訓練されると、また馬運車で場所を移された。なんか前の場所より更に競馬っぽい場所だ。
やっとレースかな? 流石にずっと訓練は飽きてきましたよ。
そういえば、最近滝さんの姿を見ないな。
もしかしてエンマ君より良い馬を見つけたのかな? それだったら悲しいですよ。
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調教師さんも実在の人とは全く関係がありませんからね。ええ。関係ありません。
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