第6話 しばしの別れ
「エンマ。頑張って来るんだぞ」
「プヒン?」 (ん? 何が?)
いつも通り厩舎員の人が来たから、今日も変わり映えしない放牧かと思ったら、何故か激励された。何の事だろう?
「エンー! エンー!」
「舞。エンマに頑張ってねって言うんでしょ?」
「プヒヒヒン!」 (おいおい。プリティな娘さんが泣いてるぞ!)
なんやなんや? なんか目の前には馬が乗る感じの車もあるし。
もしかしてどこかに売り飛ばされるんだろうか? ちょっと、説明が欲しい。
あまりにも急展開でついていけないよ。
「プヒヒヒン」 (説明責任ってのがあると思うんですよ)
とりあえず厩舎員の人に引っ張られるのを無視して、逆に俺がグイグイ引っ張る。
プリティアイドルの元へ行き、鼻を寄せてあげる。こうしてくれると撫でてくれるんだ。
「がんばっべねー!」
「プヒヒヒン」 (おかのした)
泣いててほぼなんて言ってるか分からななったけど、頑張ってねという事は理解した。
何を頑張るのか分からんけど。
あ、もしかしてレース?
とうとう俺のデビュー戦ですか?
なるほどなるほど。それならドンと来いですよ。札束を咥えて帰ってくる準備は出来てますぜ。
俺がプリティアイドルをお金持ちにしてやるからな!!
って事で馬運車へ。そう言うらしい。
お兄さんとかが喋ってるのを聞いた。
なんかお兄さんも同行するっぽい。
ってか、俺の馬主的な人はお兄さんなのかな? 牧場の人と別ってイメージなんだけど。
あれ? 馬主さんがお兄さんじゃないと牧場にお金は入らない? ちょっとそれは困るな。お兄さん、俺を売り払ったらただじゃおかないぞ! 馬房から脱走してやるからな!
なんて事を思ってたら寝てた。
能天気とか言わないで。なんかガタゴト揺られるのが気持ちよくて。
ちょっと横になって考えるかと思ったら、いつの間にか寝てて目的地に到着した。
「エンマの様子はどうだ?」
「プヒン?」 (ここはどこ?)
「最初の五分ぐらいは苛立ってる様子でしたけど、横になったらすぐ寝ましたね。図太そうで良かったです」
「輸送に強いのも才能だな」
失礼な。図太いって褒められてる気がしないんだが? 俺だって出発前は色々考えてたんだぞ! あの良い感じの揺れがいけない。
電車と同じだ。気付けば寝てるんだ。
それに、俺が横になって寝るもんだから、クッションみたいなのが俺専用であるんだよね。ほら、あの人を駄目にするクッション。
名前なんて言ったかな。忘れたけど、あれは人だけじゃなくて、馬も駄目にしますよ。
「おっ! この仔がエンマダイオウですか! 真っ黒ですねぇ」
「ええ。見た瞬間にピンと来たんです。大層な名前になってしまいましたが、その名に負けないように頑張ってほしいところです」
俺がそんな風に寝てたのはクッションのせいですと自己弁護してたら、上機嫌の知らない人がやってきた。
ふむ? 俺のフルネームは地獄の閻魔さんでしたか。エンマダイオウ。良いじゃないか。気に入りましたよ、お兄さん。
ところでここはどこで、この人は誰だろうか? 多分見た事ない。俺が競馬に詳しかったら顔を見たりしたら分かるんだろうか?
「走るのが好きな仔ですから、調教は嫌がらないと思います。よろしくお願いしますね、一永調教師」
「こちらこそよろしくお願いします。新しいオーナーブリーダーさんの初めての馬を預けてもらって光栄ですよ」
「あははは。滝騎手の紹介もありましたから」
ふむん? 調教師? 俺の訓練をしてくれる人って事かな?
もしかしてまだレースじゃない? ぶっつけ本番で人を乗せてレースかーとちょっと覚悟してたんだけど。
って事はここは訓練場的なサムシングか。
なるほどなるほど。理解理解。
「一歳にしては良いトモをしてますね。バネも中々。馬体もガッチリしてますし、これが零細血統とはとても信じられません」
一永調教師? が、俺の様子を見ながらペタペタと触ってくる。セクハラだよ?
男に触られる趣味はないんだが。女性の調教師さんとか用意してくれませんかね。
それなら俺も頑張っちゃうよ。
その願いが通じたのか、やって来たのは20代後半? 30代前半? それぐらいの気が強そうな美人女性の厩舎員がやって来て、俺をどこかに連れて行く。
お兄さんと調教師さんはまだ話があるみたいで、建物の中に入って行った。
「これからあなたのお世話をする事になった牧瀬よ。よろしくね」
「プヒン!」 (ほう!)
ほう! ほうほう! ほうほうほう!
どうせおっさんなんだろうと期待してなかったが、なんたる幸運。
こんな美人さんに面倒を見て貰えるとは。
身体を洗ってくれたり、ブラッシングもしてくれる訳でしょ?
大丈夫かな? エンマのコエンマをおっ勃てたりしないだろうか。ちょっと前世でも女性経験があまりなくてですね…。
こんな美人さんにあれやこれややられると、心配ですな。自制心が試される。
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