第4話 親離れ


 ある日の事。

 いつものようにママンと牧場で走り回って鍛えるぞと気合を入れてると、何故かママンだけ連れて行かれた。


 「プヒン?」 (なんで?)


 新しく雇われたであろうおっちゃんに聞いてみる。なんか急に人が増えたんだよね。

 まだ俺とママンの二頭しかいないのに。


 「エンマも親離れか。そんなに取り乱さないな?」


 なんと! 親離れとな?

 まだ1歳にもなってないんだが?

 流石に早すぎない? 馬ってそんなもんなのかね?


 まぁ、寂しいけどそういう事なら仕方あるまい。俺は食べられない為に、そしてこの牧場にお金を落とす為に頑張って100億円稼ぐとしよう。あの可愛いちびっ子か路頭に迷わないようにしないとな。



 「おーい! エンマー!」


 「プヒヒヒヒン」 (また来たな。有名人なのに。意外と暇なのか?)


 親離れしてからもしばらく。

 段々寒くなってきたなーなんて思ってたら、滝さんがやってきた。

 騎手って土日以外は休みなのかな? 馬の練習、調教だっけ? そういうのをしないといけないと思ってたけど。


 この滝さんは月一ペースで俺の事を見に来てくれる。乗りたいって言ってくれたのはリップサービスだと思ってたけど、どうやら本気らしい。


 まあ? 100億稼ぐ(予定)の馬ですし? 目の付け所は悪くないんじゃないかな! わはははは! ……100回もレースするのは嫌だな。

 1億以上の賞金があれば、回数が少なくて済むかも?


 「プヒヒヒン」 (一番稼げるレースっていくらくらいなんですかねぇ)


 5億とか? それなら20回で済む。

 それぐらいなら頑張っちゃうよ。

 競馬の知識があんまりないのが痛いな。

 ちょっと本とか持ってきて勉強させてくれませんかね。


 「うんうん。成長してるな。予想以上だ」


 「プヒン」 (そりゃね)


 滝さんは満足気に頷いてにんじんをくれる。これ、草より全然美味しいから好き。

 最初は生で食べるのに抵抗があったけど、草を食べてるのに今更かと思い直した。

 俺も着実に馬に適応してきたね。


 馬体が成長してるのは日々の特訓の賜物だ。牧場に出されたらとりあえず疲れるまで走り回る。疲れたら休憩。草をもしゃもしゃ食べてまた走る。

 あんまり好きじゃないけど、坂道もしっかり活用させてもらってる。


 俺の飼い主のお兄さんが言うには坂道を走ると良いトレーニングになるそうだ。

 しんどいから好きじゃないんだけどね。


 で、厩舎に戻ってきたら、ご飯を食べてゴロンと横になって爆睡だ。

 良く食べて良く走って良く寝る。


 この鍛え方が果たして合ってるのかは分からないけど、滝さんが満足気にしてるのなら良いだろう。これからも怪我に気を付けて頑張る所存です。筋肉痛、コズミって言うらしいけど、最初の方は酷かったんだよね。

 殺処分されるのかとビクビクしてました。





 「プヒヒヒン?」  (ここって北海道だよね? 寒いし)


 寒いなーなんて思ってたら一気に冷え込んできた。雪も降ってるし。おっちゃん達が忙しそうにしてらっしゃる。

 寒い・雪=北海道って勝手に思ってるけど、ここってどこなんだろうね。牧場も北海道のイメージが強いし。


 「大人しいと思ったらはしゃぎ回って。お前は良く分からん馬だな」


 「プヒン」 (ほっとけ)


 雪だ雪だとはしゃぎ回ってると、いつも主に俺の世話をしてくれるおっちゃんが呆れたように俺を見る。

 大人しくしてるのは良い子ちゃんアピールのためだ。


 「この牧場ももう少ししたら忙しくなるぞ。そのうちお前にも友達が出来るかもな」


 俺の首辺りをポンポンして、喋りかけてくるおっちゃん。

 友達とな? とうとう俺以外にも馬が来るのか? なんか立派な場所なのに、相変わらず俺しか居なかったからな。


 「それも仔馬が生まれてからだが。仲良くするんだぞ?」


 「プヒヒヒン」 (任せとけ)


 ここでの全てを教えてやろう。日当たりの良いお昼寝スポットだったり、美味しい草が生えてる場所だったり。

 良く寝て良く食べ良く遊ぶ。これをみっちり後輩に叩き込んでやる。


 問題は俺が馬の言葉を理解出来ないところだな。俺が喋ってるのも伝わってるのかが分からない。ママン限定かな?

 後輩とコミュニケーションが取れれば良いんだけど。


 

 

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