第44話 ランドルの思惑

***


「ランドル~~~」


 一方、phantomに残る飛鳥とランドルである。ア アストラル体も慣れて来て、飛鳥はランドルの位置も把握できるようになっていた。ランドルはランドルで変わらずに何かを引き出そうとphantomとにらみ合いしつつも、飛鳥の反応を拒絶はしなくなった。


 ランドル自身、その変化には気づいていた。蒼桐がいないから安心し切っているのだと。


(僕が、ツインソウルの運命を信じる日が来るとはね……)


 飛鳥のことは知っていた。しかし、その近くに蒼桐がいるのを知った時に、ランドルに駆け抜けた感情がある。


 軍部訓練の感情抑制操作エモーショナルコントロールなんて意味を為さなかった。


「なんだ、僕は忙しい。アストラルに存在できる時間も、限界があるんでね」


「「良く見ておくんだな。この世界を暴走させたのは愛を抑制した機関。彼らはトラベラーズ犯罪者集団で、この世界を破滅に導いたんだ。AIとヒューマンの闘いも、永遠に終わるわけがないんだ飛鳥。それは全てプログラムなのだから……」って話」


 飛鳥は声真似をして、ふわりと翼をはためかせて降りて来た。いつのまにか翼のコントロールを覚えている。

 笑うしか能がない霊魂の亡霊の結晶群の中で、なんと生命力にあふれているのだろう――


「ああ、言ったよ。ちょっと待て、きみの抜けた人生を修復しているけど……失敗した」


 何度やっても、飛鳥の代わりの個体は、蒼桐の側に並ばない。飛鳥との未来を当てはめているのに、蒼桐は何度やっても、phantomの絶望の未来に来る道を選ぶ。


「やーめた……で、何? お話でもしたいのか」

「うん、お話、しよ」


 にこっと笑われて、ランドルは「嫌だね」と口早に告げる。肉体が無くて良かった。Phantom政府軍の司令長官の鼓動なんか響いたら、どうやって恰好つけろと……


「なんか、空気が温かくなった気がするんだけど。ランドル、熱でもあるの?」

「気のせいだ。気のせい! ついでにここはアストラル世界だ。熱なんか存在……」


 ……するのかよ。


 冷たい結晶群の中で、ランドルは額に手を当てて、目を逸らした。


「いや、いくら五次元以上でも、それはねぇだろ!ないないないない!」


 咄嗟に頭を振って、結晶群に頭をしこたまぶつけてしまい、冷たい感覚に正気に戻った。


「すまん、何」

「ちょっと、血!! 何やってるのよ!」


 ああ、冷たいの、僕の血ですか。


 ……本当に何をやってるんだろう。しかし、飛鳥の機転は見事だった。翅を引き抜いて、額に当てた。真っ白な光の翅は血を吸いこんで上部に舞い上がって行く。不思議な世界だ。ここは。


「……いや、きみが変なこと」

「言ってないよ?」


 ……言っていないな。


(変なのは、僕だ。分かっていた。だから、あの時閉じ込めたんだ……)


 本当は、嬉しかった。


 やっと、ツインソウルに出逢えて、約束を果たせると魂が喜んでいたんだ。でも、きみの側には違う存在の「オーバーライト」がいたから――


(言えるわけがないな)


 諦めて、飛鳥の隣に座った。かなり高い。それでも飛鳥は怯えずに隣にいる。


 ――アストラルにずっといられたら、飛鳥葉菜と。


 思いつくなりランドルはまた頭をぶいんと振ったのだった。


***


「もう、ランドル、変」


 再び飛鳥の翅の治療を受けながら、ランドルは憮然としている。すこし、蒼に似ていると思うと、飛鳥は飛鳥で泣きたくなる。


「……蒼、ちゃんとやってるかな」


「きみのいない世界線を作り上げようとしたけど、何度やってもphantomのアストラルに来るのだと利かない。何かに守られているのか、rubyの民は」


「え」


「きみがここにいる時間、あちらでは五年が過ぎる。他の存在を容易したけれど、一向になびかない。彼は、もうすぐここに来る。伯井がいるからな。……このままでいくと、伯井のバディになって現れる。それまでの時間、EARTHの昔話でもしようか」


 ――蒼が、ここに現れる……私はどうすべきなのだろう。

 

とりあえず、ランドルから聞けることは聞いておきたい。飛鳥はランドルに向き合った。どこかでみた顔が記憶に重なる。


 ――僕と、きみで、ゲームをしよう。


 確かにどこかでそう言ったのだ。『僕』から。

 君と遊びたいと産まれたままに。

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サバイバル×EARTH【ゲートウェイが終わるまで】 天秤アリエス @Drimica

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