第33話 伯井の過去ー②

 翌朝。お人好しの為せる技か。気になって、渉はそっと部屋を出て、クーリャを置き去りにした部屋を覗いた。クーリャは渉には気がついていない。ソファに座ったままである。


(やはり現実か)


 渉の前に、現れた男も、檸檬の堕胎も、蜂の女王の存在も。


 凹んで、外に出た。自分用にホットドックを購入、ふと蜂は何を食べるのかと思い立ち、コンビニで蜂蜜入りのプリンと蜂蜜を買い置きして、部屋に戻った。


クーリャは朝日に眼を細めている最中だった。


「渉? 出かけたから、見張りかと思った」


「朝飯買ってきた。僕は蜂じゃないからな」


 うん・・・と蜂が頷く。


「窓を見ていたのか。綺麗だろう?」


「凄いな、空から光が降って青く染まっていく。昨日は水が降ってそれも大層な美しさだった」


 朝日に透けた横顔は美しい。洗煉された気高き横顔。金色ではない瞳は光を吸い込んで、無数の光沢を讃えている。


「地球の空は綺麗だと聞いていたが、ここまでとは。私の星の空は常に赤かった」


「赤? 蒼空が?」


 そうだ。とクーリャは眼を伏せ、故郷に思いを馳せているようだった。


「常に女王争奪戦の戦いで男が死す。体液が充満しているのさ。ここはいいな。どんな人間も愛される資格がある」


 意味は分からなかった。ただ、言えるは、クーリャは思っていた以上に、物事を見ている。冷静な女王だと思う。


渉はごそっとコンビニの袋からハチミツとハチミツ入りのありったけの食材を並べてみた。だがクーリャは何故か渉の味噌汁に興味を示し、蜂が味噌汁をすすり、人が蜂蜜パンを齧るという奇妙なことになった。


 ――っと時間が。


穏やかで奇妙な朝食を済ませて、渉はクーリャを振り返った。


「大学に行くんだ。部屋から出るな。あー、クーラーはつけておくよ。干涸らびたりはしないよな。蜂は暑さに強いから」


「大丈夫だよ。こんな程度。私の星は灼熱だ」


***


『ミツバチの針には返し棘があり、皮膚に刺さると抜けなくなり、無理に抜けば毒腺ごと抜けて、ハチは死ぬ。


ミツバチはそれほどの覚悟を持って生きているからだ。目的を達成できないと悟ったときに彼らは自殺行為を行う。蜂は基本蜂蜜に手をつけてはならない。それは死を意味する』


(これじゃ、蜂蜜は嫌がるよな。……普通のご飯でいいか。水分多め……また味噌汁?)


 蜂蜜を食べると死? さしずめ「窃盗は死刑!」というものだろうか。


 大学の講義室の図書館。渉は蜂の生態の本を積み上げて没頭していていた。まず、蜂の社会学の本の一節にくまなく目を通すことにした。読めば読むほど興味深い。両親を殺した蜂への復讐は今や渉の目的になっていった。


 蜂を此の世から消し去りたい。なのに、部屋には女王蜂が帰りを待っていて……。


 明るく染められた白い館内は綺麗だが、時折本を探すのに苦労する。何冊か選び出して、貸し出し登録を済ませて外に出た。


 結晶が重なったようなフィルタリングの光が目映く世界に舞い降りている。


「1週間預かれ、か」


 追い出すことも考えたが、それはやはりあまりにもだと思った。クーリャの横顔は、何一つ疑いようもない。蜂の擬態能力は素晴らしいが、手の針が気に掛かった。


 蜂のクーリャは自分が当たり前だと見逃していたこと一つ一つに関心を示すも面白い。


 空が綺麗だ、空気が美しい、いろんな音がする。交尾交尾言うのさえなければ、見目も悪くない。あの緑の長い髪を散らかされるのは困るが、人型に擬態出来るので在れば、外にも連れてゆけるだろう。


 それにしても。


(何なんだ。あの黒尽くめの男は。AIDMAって言ってたっけ?)


 あいどま、あいどま? アイドマ? 


 検索で出て来たのは広告やアプローチ戦略やリーダビリティの類いばかりだ。そもそもこんな事情を抱える団体がそうそう検索に引っかかるはずもないだろう。


 渉はシステム手帳を出して、スケジュールを確認した。今日は午前中はじっくりと蜂についての生態をたたき込み、午後はバイトだったが、クーリャが心配だし、檸檬に会いかねないので休む判断にする。


午後二時の講義は受けて、帰宅しよう。


 確認を終えた渉の手から手帳が落ちた。


 校内に不釣り合いなスーツ姿の男、TAKUがまっすぐにこちらを見ていた。


「クーリャとはどうだ」


 行き交う生徒が物珍しそうにTAKUの姿と渉の姿を見て道を空ける。あのさ、と渉は相手の服装を睨みながら吐息をついた。


「言っておくけど、僕は宇宙人とHする趣味は持っていない。人選ミスだ」


「そんなことはない。AIDMAの照合は違わない。おまえでないと駄目な理由があるはずだ」


「あんた、結局何なんだよ?」


 TAKUは知りたいか?と口端を上げて見せた。


「知った以上は元の生活には戻れなくなるが、それでも? 契約と交渉と事情は違う。いくら俺でもイタイケな少年をそんな地獄には叩き落とす事は出来ないな」


「あの金、要らないからさ。百万分だけ、協力するよ。受け取って檸檬にやったから」


 TAKUの目が鋭くなった。


「覚えがない堕胎に金を払うか。箱庭みたいにちまちま物事を見ているから、真実が見えないんだ。まあ、だからこそおまえなのかも知れない。決して真実を見ない。その臆病者が孵化するのを愉しみにするとしよう。せいぜい足掻け」


 ――なんだよ、言いたい放題。


 だが、当たっていた。いちいち図星を指してくるTAKUの鋭さには何も言えずに終わってしまう。


真実とは何だ。今、ここに在るものだけが真実で現実だろ?


 その奥に何があると言うのか。誰もが裏切る。誰もが自己保身しか考えない。だから、自分だって保身に走って何が悪い。


 春風が明るいキャンパスに吹き荒れてゆく。桜の花びらが頬に当たって落ちた。


(だけどクーリャは違う)


 一度話してみるのも面白いかも知れないな。一週間の講義だと思えば。まさか昆虫社会学の専攻生に蜂の宇宙人が飛来するなどと、かのアインシュタインも驚きの話だろう。


 ――箱庭みたいにちまちま物事を見ているから。


 いちいち勘に触る言い方しかしてこないあの男には心底苛立つが。




「待ってよ、都さん!」


 何?と森嶋都は足を止めた。高級なイタリーの靴に、綺麗に整えられた肌に、見据えるような裸眼。キャンパスで一番人気の男は何十人目かの彼女を目で見やる。


「これっ」


 可愛らしいピンクのキャンバスケース。宝生檸檬は美術生だ。そのポケットから、白いハンカチに包まれた包みを手渡した。


「坂巻くんから預かった。都さんにって」


「は?」


「お金。百万あるって」


 にや、と顔が緩む。金はいい。いくらあっても。


「檸檬、これをあいつが? そんな金があるように見えなかったけど。金があるなら、大学の合間にあんな忙しいカフェでバイトなんかしないだろ?」


 ハンカチを解くと。予想通りだった札束がお目見えした。冷静に数えて、檸檬を引き寄せた。


「おまえ、可愛いね」


 檸檬の目が潤むのを目で映して、森嶋は言った。


「それにしても金って足りないよね。いくらあっても・・・いいし、さ・・・」


 森嶋はちらりと辺りを伺うと、檸檬を突き飛ばした。絵の具の入った箱が落ち、絵画用の筆やら絵の具やらが散乱する。


「言ってる意味がわかんないかなぁ? 足りねぇんだよ。おまえ言ったよな? 何でもする、だから坂巻を許せって? だったら、全部巻き上げて来い。他人の男の子供を腹に入れて、僕と付き合いたいならそのくっだらねー命をとっとと捨てて来るか、僕に金を出すかしろって話だよ」


 座り込んだ檸檬の髪を掴んで、森嶋は囁いた。


「それとも坂巻の金のルートを掴むか・・・・・・おかしいだろう? 大学生に百万ぽーんと出すような金融企業なんか在るはずがない。ないヤツからむしり取るのが面白いのに、こうも素直に出されるのは癪だ、こんなもの受け取る気にもならないな」


「あ!」


 檸檬の目の前で、森嶋はくくっと笑って煙草を咥え、その札束に近づけた。

「さようなら」


 灰と化して、風に消えてゆく。


 あとはこの人に気づかれなければいい。檸檬は灰だらけになった自分とシンデレラの立場を重ねていた。きっと最後に幸せになれる。そう信じて。


***


「予想を裏切り、金が嫌いなようだな。森嶋都。燃やすとは恐れ入るよ」


 森嶋はふいに響いた声に顔を顰める。男の声は好きではない上、一番嫌いな美声だ。美声は自分だけで結構だ。この世の男は全部自分より格下であらなければならない。


「生憎、俺の足を止められるのは女だけだよ。それか、金か」


「嫌いなものほど、求めるか? そら」


 言った足下に札がばらまかれた。驚きで足を止めた森嶋の横でくくっと笑い声。


「確かに足を止めたな。おまえのような男が丁度いい。さて、交渉と行くか。ああ、坂巻に金をくれてやったのはこの俺だ。坂巻渉には十億の約束を取り付けたが拒否された」


「十億?!」


「だが、交渉次第では、おまえに全部やっても構わない」


 森嶋の喉が大きく鳴った。


「美形ならではの性悪な表情」とTAKUは呟き、アタッシュケースを持ち上げた。


「事情があってね。おまえのような男を捜していたんだ。非情こそが処世術だとおまえはすでに把握しているようだ。坂巻のような慎重派の男は大成しないだろう。野心こそが糧。違うか?」


「条件だ。坂巻は何を引き受けてそんな大金を」


「その前に。おまえの口から坂巻を付け狙う理由を吐露しろ。全部話せたら権利をやる」


 森嶋は途端に黙り込んだ。TAKUの容赦のない言葉はまるで研ぎ澄まされたナイフのように森嶋の心に突き刺さった。だが十億。十億の前には自尊心など霞む。


「つまらん理由だよ。俺の父の再婚相手が坂巻の母親だった。俺は会いたくて父を探したら、蜂で殺されてた。スズメバチの毒だ。元凶が渉だって知ったとき、俺は命を賭けて復讐することにしただけだ」


「本当につまらん理由だったな。スズメバチには数箇所刺されたくらいの毒量では死ぬことはない。抗原抗体反応(免疫反応)に伴うアレルギー性ショック死か」


「……詳しいな」


「過去にハチに刺された経験があると、体内にはハチ毒による抗体が作られる。二度目にハチに刺されたときに、稀に抗原(ハチ毒)によるアレルギー反応が生じるんだ。このアレルギー反応は、発症までの時間が極めて短い即時型反応(Ⅰ型)で、短時間(数分~30分以内)のうちにアレルギー症状が表れる。呼吸困難や血圧低下などの全身的な反応をアナフィラキシーと呼び、生死に関わる重篤な症状を伴うものをアナフィラキシーショックという。症状がでるまでの時間が短いほど重症になる可能性が高く危険」


「すぐに病院に行けば助かったのかも知れない! 渉が喚いたんだ。渉も刺されていた。ミツバチに」


「ミツバチ……?」


 さくりとTAKUは付け加えた。


「俺からすれば、おまえの方がよほど男らしい。男は野心でこそ輝くもの。坂巻渉には野心がない。だから宝生檸檬はおまえの側にいるのだろうからな」


「あんた、何者だよ」


 TAKUはニヒルに微笑んだ。


「AIDMAのしがない官吏だ。では条件を出すとするか。十億はくれてやろう」


渉はカレンダーを持ち上げた。蜂の女王、クーリャとの出会いよりもうすぐ4日が経つ。


 ――なんだかんだで、折り返し地点。


「じゃあ行ってくるから」


 ダイニングを覗くと、クーリャはまた窓の近くで蒼空を見上げていた。


(んっとに、地球の蒼空が好きなんだな)と意外な生態に微笑ましさを覚える。鍵を手に玄関に向かうと、ヒタヒタと足音。振り返ると、クーリャがいそいそとついて来ていた。


「大学」と短く告げたが、クーリャは変わらない妖艶な微笑みを浮かべて告げた。


「交尾はいつする」


「しないって言っているだろう! きみには当たり前の言葉が、僕には過激すぎるんだよ。いいか。地球では交尾は「大切な人」としかしない」


 言い切って、脳裏の森嶋を見つけた。


「あー……稀に昆虫のような輩もいるが。分かる? 好きな相手だから、体を結んで、受精しようとするんだよ」


「好きな相手とは。ああ、優秀な種を持っている雄ということか」


「ちがう」渉は随分、クーリャと会話するようになっていた。


 クーリャは相変わらず交尾交尾言うものの、基本的に大人しい猫に近い。ただ、クーリャの大胆さは時折渉を悩ませる。


「腕でも組んでみるか。おまえの散らかした本にあった。やってみたい」


「……針で僕を刺すなよ。蜂は二度とゴメンだ」


 クーリャの右腕には、隠しようもない針が突き出ている。女王の時の名残だろう。それは五センチほどで、ぶかぶかのセーターで隠せることは隠せる。


 ――チク。少しだけ先が当たった。


「恋人は離れずにいるものだと思わないか?」


「勝手にしろ。遅刻する。ついてきて」


(このハートフルなやり取りすら、あの男TAKUはどこかで見ているのだろう。もう知るか)


 それにしても。渉は今日のカリキュラムを思い返した。


『蜂の生態と生殖機能』……専門家が同席して良いのだろうか。


***


 大学のキャンパスは広く、学生たちがポーチにたむろしているお陰で、クーリャを連れていても目立たない。時折足が宙に浮くので、しっかりと歩かせて、珍しい草花を見る度にしゃがみ込む女王を促すのは大変だった。


「大人しくしていろよ。レポートの課題なんだから。ここの教授、自尊心高いからさ、間違っていても突っ込むなよ」


 小声で告げて、肘を突いた。教室には30人ほどの生徒。まさか、ここに蜂の宇宙人女王がいるだなどとは思いもしないだろうに。


 ――僕、落ち着いているな……檸檬の一件も。動揺すらしていない。


 教授の姿が見えた。厳格な教授の講義に、みなの緊張が高まった。ホワイトボードに教授は「女王物質」と書き、資料を持ち上げる。


(よしよし、大人しくしててくれ)


『――進化の系統樹の上でアリに最も近い親戚に当たるのはハチの仲間で、彼らもまた女王を中心とした高度な社会を作り上げる。一つの巣に女王は普通1匹で、数万の働きバチに身の回りの世話をさせながら7年ほど生き(働きバチは一月ほど)、1分に2個のペースで卵を生み続けるのだ。女王と働きバチは同じ卵から生まれるのに、これほど運命が分かれるのはなぜか?』


 クーリャは講義の途中で動いた。


「何故か、言ってみるがいい」


(ば、馬鹿!…… 聞こえて、ない、よ、な?)


 教授はじろりと渉のほうを見たが、誰が喋ったかは突き止める気はないようだった。


(クーリャ、静かにしていろ)


『働きバチは幼虫の期間花粉や蜜だけを食べているのに対し、女王は生まれた時からローヤルゼリーと呼ばれる栄養価の高いミルクだけを食べて成長する』


 ――へえ……特別待遇か。すると、こんな不遜な女王に育つわけ。


『成虫の女王が出す「女王物質」だが、女王物質は女王バチの大顎腺から分泌され、働きバチは盛んにこれをなめる。しかし女王物質には卵巣の発育を抑える作用があり、これをなめたハチの生殖能力を失わせてしまう。いわば階級制度を維持するためのフェロモンであるわけだ。

 ミツバチの女王物質、9-オキソデセン酸。女王バチが突然いなくなった場合、働きバチは急きょ若い幼虫を探し出し、ローヤルゼリーを与えて後継者を作り出す。それもいない場合には、女王物質によって抑制されていた働きバチの生殖機構が復活し、卵を生めるように変化して急場をしのぐ。ややこしいシステムにはちゃんとこうした意味が」


と思った瞬間、クーリャが手を上げた。


「質問かね」と教授の皺が上がった。


「指摘だ。今の説明は間違っている。女王物質(queen substance)がさもフェロモンのように言っているようだが、実際の女王物質(queen substance)は違うぞ」


(ば、馬鹿っ)


「それはプライマーフェロモン。受容した個体の内分泌系に影響を与えるものと人のフェロモンは一緒にはならぬ! 良いか! 教えてやる! ハチやアリなど社会性昆虫は階級分化物質や女王物質と言われるものによって、階級社会の形成と維持をしている。女王バチが発する女王物質(queen substance)は、他の雌の卵巣の発育が抑えられて、働きバチとしての行動を起こすようにするよう働く。もし、女王が死んだ場合、この物質の供給が途絶えるので、働き蜂や幼虫の中から生殖能力のあるものが現れ、新たな女王となる場合も・・・・・・」


 教授がぶるぶると真っ赤になって揺れ始めた。


「ほら! 言っただろ! 教授は自尊心が高いのだと!」


「指摘のどこがいけない。女王は魔法使いではない。母親だ。人を害虫のようになんだ」


(いや、地球では害虫なんだけど)


 無理矢理細い腕を掴んで、座らせた。クーリャは「こんな低脳な知識しかないとは」とぶつくさいいながら長い足を投げ出している。


「女王の世界は過酷だ。フェロモンだけでやれるものか。支配には数多の知識や権力が」


「あのさ。少しは遠慮しようよ」


 渉は大学ノートを開きながら、クーリャを見つめた。


(本当に遠慮しない。少し、羨ましいよ、クーリャ、きみの性格が)


「遠慮?何故だ。わたしは元々」


***


 クーリャはそこで言葉を止め、なんでもないよと顔を背けた。


 渉の体内に卵を産み付ける準備は整っている。そうして育った子供たちは今度はこの地球のあらゆる人間を糧とし、ここは第二のハチビリア=イーストの故郷となる。


滅んで、消えゆく星の新たなる未来へと。もはや見届けられない母なる星の見届けられなかった未来を見るために。


 ……などとは言えないがな。


「ともかく、女王の生態なら、今夜教えてやる。渉、あの嗄れた雄は当てにするな」


「そりゃ……専門家にかかればね。どうしてくれるんだ。レポートのレベルが上がってしまっただろ」


 頭を抱えながらも、渉の目は綻んでいた。ハチビリアには、こんな優しい雄はいない。


 AIDMAがなぜ、渉を引き合わせたのか、なんとなく、察しがついた。


 AIDMAの連中にとっては、クーリャは害虫だ。地球を護りたいに違いない。だから、蜂を怨んでいる渉のそばに置いた。


しかし、誤算は渉のこの性格だ。


 蜂は蜂を怨まない。そこに運命を受け入れる覚悟が備わっているからだ。


しかし、運命を受け入れない人は人を憎む。彼らは決して万能ではないからだ。


 渉は、万能だ。


「わがままを済まない」


 小さく呟いたが、渉は必死にノートに書き付けている。蜂、生態、女王物質。……クーリャの出る幕ではない。


 ここは、見守ろう。


3000匹の母親だ。一人増えたところで、問題はないよ。


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