第21話 目醒めと高揚
深夜に蒼桐はふと目を覚まして、用意されたバッグからPadを取り出した。rubyの時の癖で手のひらを向けて、あ、そうかと気がつく。
ここでは、rubyのような生体反応証明を送る必要はないのだ。自分の証明は全て軍が登録している。
それが、ごく普通な気がして来た。
自分が自分を知り責任を持つ。
当然のことではないか。
「しかし、すごいセキュリティだな」
引っ繰り返ると天井が見えて、そこに画面を映すことが出来た。手に持つ必要がないから、好きな姿勢で確認が出来る。
まず出て来たのは、phantomのガイドらしかった。「覚える必要はありません。睡眠時に自動インプットされます」とのこと。
軍の配置カテゴリが出てきた。
『アオギリの登録は、量子古代コンピューター整備、アスカの登録はphantomフィボナッチ数列研究に割り当てられました。これは、個人の特性で軍のQphantomが決めたものです。魂の奥底の望みをQphantomは読み取ります』
「脳の中を?」
『周波数特性です。ヒューマンの貴方は、為すべきことがある。AIハーフにはもっと世界を理解し、「目覚めて」もらう必要があるのです』
目覚め……。
蒼桐は深夜の部屋で、声を掛けた。このPCはrubyと違って穏やかだ。phantomのシステムがどれだけ高度かは、兄が送って来た封書のプロテクトで分かるし、ツヅゴウやハヤトの使っている技術で猶更理解しやすい。
――rubyは数千年遅れている....か。
手のひらの認証すら、古いとは……それなら、何故rubyの人々はヒューマノイドになりたがるんだ?
離れれば離れる程、蒼桐の脳裏は逆転して行った。rubyに居る時はphantomのほうが異質だったが、今、たった二日でrubyのほうがおかしい気になって来る。
「ヒトは、簡単に洗脳できる」
そんな見出しの本をどこかで見た。『ご質問は以上ですか』Padは次に軍についての心得を流し出し、蒼桐は瞼を重くして、ベッドに沈み込んだ。
民宿風の部屋は、どこか落ち着く……。
****
真っ白だ。そして漆黒。
一人で宇宙空間に立っている。
「えと……ここは……」
きゃはは。と女の子の声が響いた。なんだろう、と蒼桐はゆっくりとその声と光のほうへ泳いでいく。声を掛けようと思った途端、言葉ではない言葉が口から弾いて出た。
『おはよう、EARTH』
呼ばれた女の子はぱっと振り返る。
「え? 蒼……?」
それは飛鳥だった。青桐は驚くも、飛鳥が嬉しそうに走って来るので、思わず無意識に腕を広げた。
飛鳥は緑に透き通っていて、不思議な感覚だ。意識体なのだろうか? 夢では夢であると考えてはいけない。
「やっと、抱きあえた」
声に愛おしさを感じて、腕に力を込める。温かい。頬を摺り寄せて、愛情を贈ると、飛鳥は嬉しそうに頭を擦らせてくる。わきの下から腕を伸ばして、蒼桐の背中をゆっくりと撫でた。
「翼が、無くなっちゃったね……ここに大きい翼があったのに」
「いや、ないけど」
「あったの!……どうしよう、あたしのせいだ……」
脳裏がざらりとした。
――サバイバル×EARTHは続いている。続行する? もうやめる?
重い声が二人を包み込んだ。ここは、どこだろう?考えて顔を上げた。
「続行するよ。ダークネス」
自分の声で目が覚めた。傍には飛鳥が座っていた。
「魘されていたから、起きちゃった、汗びっしょり。大丈夫?」
パジャマ姿の飛鳥は初めてみた。モコモコの襟の長いワンピースに、フリル。それに同じシリーズのモコモコの上着を羽織っている。
「……なに」
「寝姿、可愛いなと思って。ちょっと、兄のことも含めてphantomが知りたくなったところだし」
「見抜かれてるのかもね。……ねえ、蒼、また、ツヅゴウさんに会えるかな」
「会えるんじゃないか?」
「接近したい時? 触れ合いたいときは呼べるんだよね」
変なことを。
しかし、飛鳥の眼は本気だった。潤んだ目に、緩い唇。
『やっと、抱きあえた』
夢の飛鳥を思い出して、蒼桐は速攻で立ち上がった。「シャワー浴びて来る!」と籠って口を押さえて昂ぶりを感じる。
rubyでは抑制できていたのに。
それなのに、ここでは触れ合えない。触れ合えないからこそ、こうなるなら
「~~~~~~っ……」
何と言っていいのか分からない感情が消えるまで、蒼桐は思う存分シャワー室にしゃがみこんだのだった。
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