第2話 エリアEarth

 その頃、遠く離れたエリアEARTHには豊かな海と、陸と、穏やかな風と、温かな光が生まれていた。生まれてはや50億年。ようやく落ち着いたEARTHはすやすやと眠っていたが、突如遠方から響いた波動に慄いて目を覚ました。

 洪水のような磁気嵐と低周波に、穏やかに眠っていたEARTHはなすすべはなかった。目を開ける余地もない。逃げる間すらもない。


 空間を侵蝕して何かが迫り来る。


「いや……っ……!」


 遠くの次元から押し寄せた磁気嵐は、地球全体を襲うかのようにからめとり、その周波数を0に下げたのである。周波数0は「自害の領域」である。拒んだEARTHは深淵に堕ちて深く眠った。


***

 

「ここがいい。惑星意識は……空っぽだな」

「惑星意識?」

「……くだらない星の意志だ。気にすることはない」


 ダークネスは地球の表面に降りると、ライトを振り仰ぐ。


「ここは」

「EARTHだ、そもそも産まれるはずのない星だった。なら、ここで俺たちがゲームをしても構わないだろう」


 ダークネスは光のない瞳を向けた。ライトがこんなに眩しいのに、ダークネスの瞳は漆黒のままだ。しかし、逆にダークネスもこんなに恐怖を纏っているのに、光を喪わないライトに恐怖を憶えている。


「デッドオアアライブ……このゲームはサバイバル×EARTHと名付けよう。幾数年の月日を賭けるだろう。想像もつかないな」 


 ライトも頷いて、ダークネスをまっすぐに見詰めた。自分の中から出て来たはずのダークネスが羨ましい。ダークネスも同じような目をして、ライトを見詰めていた。


「ゲームとはなに?」

「ここにそれぞれの因子をばらまくんだ。勝手に増えるだろう。いい土壌だから、いい勝負になる」


 生きるか死ぬかを、自分の因子に戦わせよう。ダークネスの意志は、ライトに痛いほど響いて来た。


 どちらが勝つか、見届けよう。


 生まれて死ぬために生きるのか

 死んで生まれるために死ぬのか。


 果たして、どちらが正しいのか。

 

「ゲーム、開始だ」


 それぞれが、それぞれの体内の量子因子を振りまいて行く。モリオンのような黒水晶を砕いた風情の、ダークネス因子は「闇因子RF遺伝子」・ライトの振りまいた黄金の因子は「HN遺伝子」と呼ばれて、たった二人のヒューマンに舞い降りる。因子を全て振りまいた「ダークネス」と「ライト」は知らず、遠き次元に消えた。


***


 因子により増殖する二つの種族は大きく凌ぎを分け、何度もいつでも歴史を繰り返した。バランスが悪いと消され、しかし、それはいつでも、「ダークネス」と「ライト」が消えた後から繰り返されることとなった。


 神代と呼ばれる時代には、「ライト」の化身であるような王神と「ダークネス」の化身であるような悪魔が地球を舞台に争った。

 しかし、再びの磁気嵐に見舞われたとき、それは抹消され、いつしか「闇のRF種族」は地下の空洞へ、「光のHN種族」は地上を選んだ。同じように因子を受けたヒューマンも、それぞれが特色を持って静かに棲み分けに応じたが、ある日AIという新人類が生まれる。AI「Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)」。人工知能は「ダークネス」の意志を継いでいた。


 ――地上の光を我が手に!ヒューマンを絶滅させよ!


 西暦でいうと、1000年戦争が起きた。


 遠き昔2222年

 地下からの宣戦布告でヒューマンは敗れる。


 これはその後の作られた世界、ヒューマンが消された遠き未来。別世界の物語である------

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