第17話 インタビュー ウィズ ネクロマンサー
本日は昼から企画会議があった。
実録タックルズの記者がそろう珍しい日だ。
もっとも、中には参加しない記者もいる。
仕事が忙しく、僕もまだ会ったことのない人も多いのだ。
今日の会議ではノイマ先輩の企画が審議されている。
その名も「ザ・死霊術!」
マイナーなジョブにスポットライトを当ててみようというのがこの企画のテーマである。
先日取材に行った薬屋のガンドーラさんの話を聞いて思いついたそうだ。
だけど編集長たちはあまりいい顔をしていない。
「わかっているっス。これだけじゃ世のゲス野郎どもにインパクトを与えないっていうんでしょう? 興味をひきそうな副題もちゃんと考えてあるっスよ」
編集長がノイマ先輩を睨む。
「だったら、もったいぶらずに言ってみろよ」
『死霊術でハーレムを作った男、っス』
「ほう……」
お、編集長が少し喰いついたぞ。
「過去にはそういう死霊術師もいたようです。伝説的なところだと、戦いの中で散った聖女をゾンビにしてコトに及ぼうとしたとんでもない輩もいたらしいっス。もっとも、そいつは仲間の戦士に滅多切りにされて死んだみたいっスけどね」
編集長は煙草に火をつけて大きく煙を吐き出した。
「おもしろそうじゃねえか。とりあえずやってみろ」
先輩の企画は無事に採用された。
先輩が死霊術師にインタビューをするというので僕も同行させてもらった。
場所は南東地区にある小さな酒場「オウンゴール」だ。
ここは昼から営業をしており、奥には半個室もある。
値段も安く使い勝手がよいので、実録タックルズの記者たちはしばしばここを利用するそうだ。
「チェイース、アンタらが雑誌の記者さん?」
現れたのはやけにチャラい死霊術師だった。
水色と緑に染めた長髪、そこにはオレンジや黄色の小さなリボンがたくさん結ばれている。
服装も派手で金の縁取りと朱色のレースをあしらったローブを着ていた。
死霊術師って、もっと暗い感じの人かと思ったんだけど、必ずしもそうではないようだ。
「どうもどうも、死霊術師のサイモン・ポーです」
「実録タックルズのプラットとコウガです」
ポーさんは親指をグッと立ててウィンクする。
「実録タックルズでしょ? 毎週買ってるよ。俺、大好きだもん! まさか自分がインタビューを受けるとは思わなかったけどさ」
「このたびは取材を受けていただきありがとうございました」
「いやあ、かえって照れちゃうなあ。本当に俺でいいの? 俺は死霊術師にしては変わっている方だと思うからさ」
「でも、若いながら大変な実力の持ち主とお聞きしました」
人は見かけに寄らないって言うからね。
ただ、ポーさんは外見がチャラいだけで、よく見れば独特な雰囲気を持っている気がする。
なぜだかわからないけど、感じるものがあるのだ。
「ほら、俺はギフテッドなんだよね。死霊術師のジョブ持ちなんだ」
「そういうことでしたか。こちらのコウガ君と一緒っスね。コウガ君もニンジャのジョブを持っているんスよ」
「おお、仲間じゃん! ヨロシクゥ!」
ポーさんは嬉しそうに僕と僕と握手する。
世の中にはフレンドリーな死霊術師もいるようだった。
注文した飲み物がそろうとインタビューが始まった。
「死霊術師はなかなかなり手がいないと聞いていますが本当っスか?」
「それは事実。やっぱ、気持ち悪いじゃん? 死体が相手だもん」
「そんなもんスか?」
「そりゃあそうだよ。死体が大好きって、もうそれは変態だからね。中にはそういうやつもいるみたいだけど、俺は嫌だな。ネクロマンサーは必ずネクロフィリアっていう偏見はやめてもらいたいよ」
ネクロフェリア……、つまり死体に性的欲情を覚える人たちのことか。
「性的な意味は抜きにしても、死体はやっぱり好きじゃないと?」
「自分はジョブが死霊術師だからこの商売をやっている、みたいなところがあるんだよね。あとさ、やっぱり死体は臭ってくるんだよ。だから家にはおいて置きたくないじゃん? みんな死体の置き場には困るんだ。俺たちにとっては商売道具なのにね」
死霊術師は死体を操って魔物と交戦させる職業だ。
ダンジョン探索には死体が必ず必要になる。
だけど、そうかといって自分の家に置いておくのは大変なようだ。
それはそうか、家に死体があるなんて僕だっていやだもん。
僕はポーさんに質問する。
「ではどうしているんですか?」
「俺は墓場に霊廟を借りているんだ。月に八万ゴールドも取られるけど、経費だと思って諦めているよ」
ダンジョンではやたらと強い死霊術師だけど、いろいろな苦労があるんだなあ。
「そうそう、ポーさんはクラウチアという死霊術師をご存知ですか?」
「知ってる! 百年くらい前の人だろう? 死霊でハーレムをつくったっていうふざけたおっさんな」
「その人っス。読者はその辺のことも気になると思いますので質問させてください」
「あはは、ナックルズらしくなってきたね。いいよ、なんでも聞いてくれ」
本誌の愛読家でもあるポーさんはノリノリだ。
「まずはお聞きしたいのですが、死霊術でハーレムを作ることは可能なのでしょうか?」
「うーん、理屈としては可能だと思う。でも俺はおすすめしないな」
「それはどうして?」
「まず美女の死体を探すのが難しい。しかも欠損のない死体となるとますます難易度はあがるだろう? 死体だから治癒魔法も効かないし、自己治癒もしない。俺たちができるのはせいぜい縫い合わせるくらいだぜ。萎えるだろ?」
なるほど、若い美女の完璧な死体などそうそうないわけだ。
「それに、死霊は操る数が増えるほど難易度があがるんだ。ハーレムプレイをするにはよっぽどの腕利きじゃないと無理だな。しかも自分が気持ちよくなっちゃうと集中が途切れて死霊が動かなくなるかもしれない」
「ああ、そういう問題もあるんスね……」
「相手がマグロだと俺はもえない。激しく動いてもらうとなると自分がエッチに集中できない。これって究極のジレンマじゃね? あと、これ言っちゃってもいいのかな?」
ポーさんは気遣うようにノイマ先輩を見た。
だが、それはいまさらだろう。
「私のことはお気遣いなく」
「死霊には痛みも快感もないんだ。向こうがその気になってくれないと虚しいだろう?」
「お人形じゃダメっスか? そういうお店を取材したこともありますが」
「俺はダメだなあ。コウガ君も嫌じゃない?」
いつの間にかコウガ君扱い?
フランクにもほどがあると思うけど、こういう性格の人なのだろう。
それにラブドールが苦手という点は賛同できるな。
「自分も反応がない相手とはちょっと。ていうより、愛のないエッチはあんまり……」
「ぶははははっ、コウガ君、純真じゃん! でも、そういうの嫌いじゃないよ!」
ポーさんはうれしそうに肩を組んできた。
「まあ、やっぱりアヒン、アヒン言ってくれないと男としてはもえないわけですよ。死霊術で言わせることもできるけど、やっぱり虚しいからなぁ」
「ポーさんはけっこうデリケートですね」
「愛を求めるコウガ君ほどじゃないよ」
先輩は僕らの言葉を聞きながら熱心にメモを取っている。
ちょっと恥ずかしい……。
「あとさ、病気だって怖いじゃん」
「病気っスか?」
「だって相手は死体だよ。事故で死にたての死体なら平気かもしれないけど、何日も経っていたら怖いって。なんか読者の夢を壊しているみたいで悪いけどさ」
「いえいえ、
取材は二時間ほどで終了した。
「死霊術師ってあんまり友だちがいないんだよね。正体がバレると引かれちゃってさ。今日は楽しかった。もしよかったら今度一緒に飲みに行こうよ!」
ポーさんは元気いっぱい手を振って街の雑踏の中へ消えていった。
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