第5話 捨てられた!


 第十三層までの道のりは地獄そのものだった。

 ダンジョンへ入ってからすでに十五日。

 背中の荷物は少しずつ減ったけど、ポーターの数も一人、また一人と減り、十人いたポーターも今や五人しか残っていない。

 もちろん魔物に殺されてしまったからだ。

 ひょっとしたらそのことさえも、ポントラックの計画だったのか?

 人数が減れば、それだけ支払う給金も少なくてすむ。

 こんなことは考えたくなかったけど、冒険者たちはそうかと思わせるくらいに冷酷だったのだ。

 ポーターが死んで悲しいそぶりを見せる冒険者なんて一人もいなかった。


 悲劇は続いたけど僕たちはどうにか第十三層までやってきた。

 そして冒険者チーム・グランソードはなんとかサイクロプスを討伐することに成功した。

 本当に激しい戦いだったよ。

 マジックトラップに引っかかってその場を動けなくなったサイクロプスだけど、鉄柱を振り回して応戦していた。

 七人いた冒険者のうち、剣士の一人が死亡したほどだ。

 それでも、どうにかこうにかチームはサイクロプスにとどめを刺した。


「これで五〇〇万ゴールドは俺たちのものだ!」

「Aランクチームへの昇格もな!」


 たしかに偉業を成し遂げたかもしれないけど、こいつらは仲間の死を悼むことさえないようだ。

 それが不快だった。


「見ろよ、サイクロプスの眼だぜ!」


 地面に倒れていたサイクロプスの死体が煙となって消え、後には巨大な宝石が残された。

 これは非常に価値のある宝玉らしい。


「ついていやがる! こいつの出現確率は25パーセントっていうのによ!」


 冒険者たちは浮かれ騒いでいたが、少し休憩すると撤収準備にかかった。

 辛い道のりだったけど、これでようやく地上に帰れる。

 まだまだ危険は続くだろうが、それでも希望は見えてきた、ポーターたちはそう思っていた。

 ところがポントラックはとんでもないことを言ってきたのだ。


「さてと……、楽しい探索だったが、お前たちポーターとはここでお別れだ」


 なにを言っているのか意味が分からない。

 ソルさんがまたも抗議した。


「お別れってどういうことですか!」


 ソルさんの詰問にもポントラックのヘラヘラした態度は変わらなかった。


「な~に、食料が底を尽きかけているんだ。お前たちに食わす分がなくなってきちまってな。後は自分たちで背負って帰るからよ、お前たちはお役御免だ」


 開いた口がふさがらなかった。

 たしかに食料が足りなくなっていることは薄々感じていた。

 だけど、やりくりすればなんとか地上までは戻れると信じていたのだ。


「食い物はいりません。水だけでいいので連れて行ってください!」


 ポーターの一人が頼み込む。

 だけど、ポントラックの態度は変わらない。


「お前たちを守りながら戦うのは大変なんだよ。それだけ移動速度が遅くなっちまうからな。悪く思うなよ。ま、殺されないだけましだと思ってくれ」


 冒険者たちは残りの食料と財宝を自分たちで背負って行こうとする。


「待って!」


 一人のポーターがポントラックの足に縋りついた。


「行かないでください!」

「ったく、面倒だな……」


 次の瞬間、鋭い蹴りがポーターのみぞおちに突き刺さっていた。


「ぐっ!」


 のたうち回るポーターを冷たく見下ろしポントラックは背を向けた。


「ついてきたらぶっ殺すからな!」


 これが人の所業か?

 奴らの後ろ姿は魔物よりも凶悪だった。


 取り残された僕らは途方に暮れたが、グズグズしている暇はなかった。

 いつ、新たな魔物が現れるかわからないのだ。


「通りすがりの冒険者に保護してもらえるかもしれない。とにかく帰ろう」


 ソラさんはそう言ったけど、そんな可能性は少ないとみんなはわかっていた。

 サイクロプスが暴れているという情報のせいで、この階層付近に冒険者の姿は少ないのだ。

 だからと言って諦める気はないけどね。

 背中の荷物がなくなったので、僕は持っていた杖を捨てた。

 代わりにクナイと手裏剣を両手に装備する。

 絶対に死ぬものか!

 生きて再び地上を見る。

 そして、今度は絶対に冒険者にはならない。

 こんなところは二度とごめんだ。

 

「煩悩即菩提……」


 真言を唱えて気配を消す。

 闇は忍者の味方である。

 薄暗い通路を僕たちポーターは地上に向けて歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る