第20話
(俺)
少女と少年がそこに居た。
「…落ち着けってなんだよ!?凛は…戻ってこないんだぞ!!」
「いいや、助かるさ。」
音留、と名乗る少女は言う。
「景斗!『逆転』お願い!」
「はいはい……」
春乃凛の死をそのまま『逆転』させることはできない。なぜならば『変化』の神声者は誰からも干渉されないという能力の上で、世界を少しずつ変化させていったからだ。つまり特異点である。
しかし――
「死ななかったことにできるやつなら、いる――!」
――白石悠里、日向蓮、須杭晴の死を『逆転』させる!!
「お、守野くんじゃないか。ということは成功ってことでいいかい?」
「出てきて早々言う言葉がそれかよ…まあ、私もそうなんだけどな。」
「詠歌は、助かるってことでいいんですか?」
「だいじょぶだいじょぶ。そこは棗がなんとかしてくれるからさ。」
4人、生き返った。
「久しぶり、莉緒」
「悠里…!!」
再会を喜び、
「神懸さんも無茶なお願いするよねぇ…なんせ一回死ねってんだから。」
「そうだな、後で何か奢ってもらおう。」
「高いものは控えてくれると……助かるよ?」
冗談を言い合い、
「えっと、凛さんを助ければ良いんだよね。」
「ああ、とりあえずギリギリまで傷を『分割』してくれ。あとは『逆転』でどうにかする。」
いつの間にか妹も助かっていた。
「ね、落ち着いて正解だったでしょ?」
「……ああ、うん。上手く行き過ぎて怖いくらいに上手く行ってる。」
「あとは――」
そう言って音留さんは守野歩の方を向いた。
「君だけ、っていうのも違うけど。君はどうしたい?」
「……俺はこのままでいい。」
「本当に?」
「は?」
守野はおそらく豆鉄砲を食らったような顔と呼ばれるような顔でこちらを見た。
「本当に、いいの?」
「いやだから、良いって……」
「棗ちゃんも、翼さんもいるのに?」
「………」
神様はしばらく黙り込んで、言った。
「しょうがないだろ!!俺が世界をコントロールする神でいなきゃ、この世界は崩壊しちまうんだ!」
…そうだ。
当たり前のことである。神が居ない世界、調整するものが居ない世界は、破滅する。
「知ってるよ」
破滅するのだ。しかし――
「だから、代替案をもってきました。」
(AI)
音留さんはそう言った。
「代替案……?」
「そう。棗ちゃんにはもう説明したんだけどね?私は、
(俺)
神様が居ない世界を作ろうと思うんだ。」
(AI)
「……そんなことが、可能なのか?」
「もちろん」
そして音留は続けた。守野歩に向かって、こう言ったのだ。
「
(俺)
『編纂』――ああ、蓮ちゃんの能力ね?まずそれで、世界を『編纂』するんだ。つまり、世界のシステムそのものを変えるってわけ。でもそれじゃ、安定させられないでしょ?」
「そこで俺、件有多の出番。俺、具現化する能力なんだけどさ~じゃあそれ使って、神様活動を勝手にやってくれるシステムを作っちゃえば良くない?って話!」
…なるほど、つまりは――
「お前ら…世界そのものを『神』にするつもりか!?」
(AI)
「そゆこと!」
なるほど……面白い。確かに神様が居ない世界になれば、世界が破滅することもない。
しかし――
「
(俺)
駄目だ、能力がある。能力があるってことはつまり、永遠に『神』の痕跡を消せないんだ。」
「いいんじゃない?」
「はぁ!?」
俺は思わず驚いてしまった。
「神様はいるかもしれない、そんな曖昧な世界で良いんだよ。」
「そんなもん……かな。」
「そう、抱え込みすぎただけなんだよ。守野くんはね。」
(AI)
「抱え込みすぎた……」
そうだ。考えてみれば簡単な話だ。前世の俺は、ずっと凛を救いたかったんだ。でも、そんな俺が神のシステムを作り始めたらどうなる?世界を保つためなら何でもする。自分が消えたとしてもだ。それは凛を救えなくなるってことだろ?でも――
「これなら……救われるのか?」
神様は続ける。
「神とか居なくてもさ、皆が幸せになればそれでいいじゃん」
ああ――そうだな。これが音留さんなりの『優しさ』なんだ。
「そう、か……神なんていなくとも、いいのか……」
守野歩は力が抜けたように座り込んだ。
そして、こう言った。
「もう終わりにしよう……『編纂』」
瞬間――世界が一回転したような感覚を覚えた。そして――気づくと俺たちはもとの世界にいたのだった。
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