第13話

(俺)

過去編、というにもなかなかしょうもない話ではあるが、語ろうと思う。

「アイドル?」

「そう、私アイドルやろうと思うんだ!」

「なんでいきなり……」

なんてことない会話だ。いや、なんてことないわけじゃないんだけど。


(AI)

凛は昔から突拍子もないことを言う奴だったからな、今更驚くこともない。とはいえいきなり『アイドルやる!』と言い出したら困惑もするだろう?誰だってそうだ。

「だって楽しそうじゃん!」

「まあ、うん」

正直言って全く興味はないのだが一応同意しておくことにする。ここで否定したらまた面倒なことになるのは目に見えているからな……多分だけど……いやでもこいつの場合むしろ面白がってもっと面倒なことをしてくるかもしれないな?とにかくここは穏便に済ませるに限る。


(俺)

どうせ途中で飽きるか現実が見えてやめるだろう。

「やってみたらいいんじゃねえか?社会経験とかになるだろ。」

「やっていいってことでいいんだよね!?」

「勝手にしろ」

そのうち戻ってくるだろうと思い、俺は適当に返事をしてしまった。

がまさか本当にアイドルになって帰ってくるなどと誰が思うだろうか。


◆◆◆


それから約一年半が過ぎ、俺はどうしたかと言うとまあ普通だった。

妹がアイドルになったくらいで劣等感を感じて引きこもり、不登校――なんて言うようなことはなく、まあそこそこの人生を送っていた。

高校生になったが俺は、「妹は一応アイドルをやってるが、まあ俺は一般人でいいだろう」くらいの気持ちだった。アイドルの兄がまた何かの有名人という話も珍しくはないが、逆に兄が何でもない場合も全然多いのだ。

だったら別にいいだろう。

しかしそんな平穏な日々は突如終わりを告げた。

「は?」

「いえ、ですから……」

「聞こえてるよ、だから『は?』って言ってんだろうが。」

「……申し訳ないです。」

いや、違う。

お前に謝って欲しいんじゃない。

謝って欲しいのは母を殺した犯人だ。

「…その犯人は?」

「もう既に捕まっています。」

「一週間も経たず、か……警察は優秀だな。そんなに優秀なら未然に防いでくれればいいのにさ――」

そんなしょうもないことを行ってしまう自分に罪悪感を覚える。そんな事を言っても母は戻って来ないというのに。


◆◆◆


一ヶ月がたった。

まあ、犯人には普通に有罪判決が出たらしい。そりゃそうだ、人を殺してんだから。

「大丈夫か?……俺。」

自問自答。いいや、答えてないからこれはただの自問だ。

妹は仕事で忙しいし、俺はというと母親が死んだショックで引きこもりになっていた。というか、逆になんであいつはあんなに仕事に集中できるんだよ。

「いや、これは逆ギレ……だな。」


(AI)

母は殺されたのだ。それを別の要因に持っていったらいけないだろう。

「でも……いや、ううむ……」

考えても仕方ない。俺がそう納得しかけた時、来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。はい、今絶賛引きこもり中ですけど?という文句をぐっと堪えて玄関に向かうとそこにはやはりというかなんというか……妹の姿があった。


(俺)

「……早くないか?」

「早いって?」

「お前がこんな時間に帰ってくるわけないだろ。」

「ああ、時間のことか。そうだよ、今日はたまたま早かったの。」

………。

そんなわけがない。

だってこいつは今や、大人気アイドルなのだから。

「ねえ、兄ちゃん。」

最近半反抗期気味の妹は『お兄ちゃん』と呼ぶのを辞め、『兄ちゃん』と呼んでくる。

まあ、すくすくと育っているのだろう。

「……なんだよ」

「遊園地に行きましょう。」

(AI)

「は?」

こいつついに頭でもおかしくなったのか。遊園地?芸能人が?バレたらとんでもないことになるだろう。そもそもどうやって行く気なんだ。

「変装するに決まってるでしょ」

俺の心を見透かしたようにドヤ顔でこちらを見てくる妹に、無性に腹が立ったが、それを隠して言う。

「なんで今


(俺)

なんだよ。」

俺は今落ち込んでるんだ。そんな中遊園地に行ったって楽しくないだろう。

「チケットが今日の分しかないから。」

「は!?もう取ってんのかよ!?」

「兄ちゃんに拒否権はないんだよ。」

……全く、用意周到なやつだ。


(AI)

「わかったよ、行けばいいんだろ行けば」


◆◆◆


電車に揺られること一時間。着いたのはここらでは有名な遊園地だった。そこまで大きいところではないが、俺みたいな引きこもりには充分すぎるほどだ。それに妹と一緒というのも気楽でいいかもしれないな、と思ったりしていた――その時までは。

「なあ


(俺)

なあ。あれ、春野凛じゃね?」

「え!ガチじゃんやば!!」


(AI)

「顔ちっちゃいし可愛いじゃん!」

「スタイルやば!!」

……これだよ。

まあ、そりゃそうだよな。大人気アイドルがこんなところにいるのだ。バレるに決まってるし、それでなくても注目の的だ。しかも今日は平日なので家族連れが多いため、子供の大声も相まってすぐに人だかりができてしまったようだ。俺はというと妹に引っ張られてついて行っているだけにすぎないので特に問題はないのだが……いや問題しかないわ!!バカか俺は!というかこいつなんで変装とかしないんだよ!!


(俺)

「やばっ……逃げるよお兄ちゃん!!」

そう言って凛は――春乃凛は俺の腕を引く。

「ちょっ――」

二人の兄妹は全力で走った。

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