第12話

(AI)

「あ!お兄ちゃんやっと見つけた!」

 凛は俺の姿を確認するなりそう言って近付いてきた。俺は今公園にいるのだが、そこのブランコに座ってぼーっとしていた。凛が見つからないので公園に探しに来たら凛もここに現れたという形なのだが……。

「まったくもう!急にいなくならないでよ!」

「いや、それはお互い様……」

 俺はつい言いかけていた言葉を引っ込めた。なぜなら俺の視界の端に『秋月祭』の文字が映ったからだ。今目の前にはチラシやらパンフレットやらを抱えた妹の凛がいるわけで……嫌な予感しかしなかった。だから俺は妹に向けてこう言ってやったのだ。


(俺)

「俺の家にはお前を泊める部屋なんてないぞ」


(AI)

「えぇ!?じゃあ野宿しろっての!?」

「いや、そうじゃないけど……」

 凛があまりにも衝撃的なことを口にするので、思わずツッコミを入れてしまった。というか高校生の男女が一つ屋根の下で寝泊まりするなどあってはならないことだろう。俺は不登校だけど常識は弁えているつもりだぞ?それに妹だって嫌だと思うのだが……。まあ、この様子だと意外と大丈夫そうだが。でも一応念を押しておかなければ気が済まない。そう思い凛に問い正したのだが返事は予想を遥かに上回った


(俺)

 ものだった。

「じゃあいいよねっ!子供の頃も一緒に寝てたし!」

「………」

 子供の頃と今は違うんだよ、と一発ぶん殴ってやりたい。

 いや、お前はいいんだろうけどさ。俺がまずいんだよ。

 実の妹に欲情するとかありえない。


(AI)

 さすがにそれはまずいだろ。

「じゃあ早く帰ろ!」

 凛は強引に俺の手を取ると走り始めた。そしてそのまま家に直行したのである。その間俺はひたすら妹の手の感触に意識を向けないようにして耐えるのであった……いや、無理だろ普通に考えて!


 ◆◆◆


「お兄ちゃん!晩御飯はどうする?」

 そんな妹の一言でふと我に帰ると、そこは見慣れたリビングだった。どうやらあの後いつの間にか眠ってしまったらしい。外はもう真っ暗で夜になっていた。俺の正面に座った凛は頬杖をついてこちらを見つめている。

「あ、ああ。凛が作ってくれるのか?」

「もちろん!何食べたい?」

「……オムライス」

「オッケー!」

 そう言うと凛はエプロンを身に付けてキッチンへと向かった。どうやら本当にご飯を作ってくれるらしい。なんというか……まるで新婚さんみたいだ。いや、何を考えているんだ俺は。相手は実の妹だぞ?まあ今は他人のようなものか……いややっぱり実妹だぞ?なんかよくわからなくなってきたな……。

 そんなことを考えているうちに料理ができたようだ。テーブルの上に並べられていく料理を見て、俺は思わず感嘆の声を上げた。

「おお……すげえ」

「えへへ~!そうでしょ?お兄ちゃんのために頑張ったんだよ!」

 そんな凛にお礼を言いつつ俺は手を合わせてから食べ始めた。やはり美味しい。正直プロ顔負けの味だと思うくらいだがそれを言うと調子に乗りそうなのでやめておこう……なんて思いながら夢中で食べているとふと視線を感じた。顔を上げると目の前に座った凛が俺の顔をジッと見つめているではないか!なぜ!?なんかまずいものでも入っているのだろうか?それとも俺の顔に何かついているのか?

「な、なんだよ?」

「いや?なんでも」

 凛はそれだけ言うと自分の分のオムライスを食べ始めた。いったいなんだったのだろう……。まあ気にしないでおくとしよう。それからしばらく沈黙が続いたが、それは凛が唐突に口を開いたことによって破られることになる。

「ねえお兄ちゃん」

「どうした?」

 俺はスプーンを動かす手を止めて聞き返した。すると妹はどこか悲しそうな表情でこう言ってきたのである。

「お兄ちゃんは私の事好き?」

 そんな質問に俺は面喰らった。一体何を聞いてくるのかと思えばそんな事か。


(俺)

「嫌いじゃねえよ、兄妹だし。」

「そういう意味じゃなくて」


(AI)

「じゃあどういう意味だよ」

「異性として好きなのかって聞いてるの」

「…………」

 俺は固まってしまった。妹にそんなことを聞かれる日が来るなんて思ってもみなかったからだ。でも正直どうなんだろう?兄妹として好きか嫌いかで言ったら間違いなく前者だ。だがそれはあくまで兄としての愛情であり異性として見ているかどうかは別問題なわけで……しかしここでなんと答えればいいのだろうか?

 素直に答えるべきなのか、それとも適当に誤魔化すべきなのか……ああ!どうしたらいいんだ!?教えてくれ未来の俺よ!!

 どうなんだ!答えてくれ!

 俺は過去の自分に助けを求めた。だがもちろん返事はないわけで……。仕方がないので正直に答えることにした。まあどうせ嫌われているだろうし、最悪このまま家から追い出されるかもしれないが、その時はその時だろう……と諦めていた。

「えっと、好きか嫌いかで言ったら好き……かな?」

「……ほんと?」

 凛は意外そうな表情を浮かべていた。まさか本当に好かれているとは思っていなかったらしい。まあ確かに普通じゃないとは思うぞ?実の兄を異性として好きになるなんて普通はありえないからな。

「いや、本当だけど」

「ほんとにほんと?」

「何回聞くんだよ……本当だよ」

 俺がそう言うと凛は満面の笑みを浮かべた。そして俺に抱きついてくるではないか!一体なんなんだ!?突然のことに動揺していると、彼女は耳元で囁いたのである。

「私も好きだよ、お兄ちゃんのこと」

 その瞬間に俺の顔が熱を帯びていくのを感じた。きっと赤くなっていることだろう。

 俺はそれを誤魔化すかのようにご飯を掻き込むと急いで部屋に戻ったのだった……いや違うか?逃げたと言った方が正しいかもしれない……。

「よし、諦めるか」

「何を?」

 唐突に聞こえた声に振り向くとそこには妹がいた。どうやら追いかけてきたらしい。こいつどんだけ俺に執着してんだよ!?と思いつつも俺は平静を装って答えたのだった。


 ◆◆◆


 翌日、凛はいつも通り学校に行き、俺は家でゴロゴロしていたわけだが、なぜか落ち着かなかったのである。理由は簡単だ、凛が家にいないからである。いつもは鬱陶しいくらい纏わりついてくる存在がいないというのは何とも寂しいものだと感じたわけなのだが……そんなことを考えていても仕方がない。


(俺)

「ま、あいつはちゃんと学生してるんだもんな」

 俺とは違って。

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