第11話
(AI)
翌朝。
朝起きると妹はすでに学校に行っていた。毎朝欠かさず俺を迎えに来てくれるのが日課だった妹がいないのはどこか寂しい気もするが、まあ俺ももう高校二年生なのだ。そろそろ兄離れしてもらわないと困るしな……。
俺は朝食を済ませて顔を洗い、
(俺)
今日も今日とて不登校生活を満喫するのであった。
(AI)
◆◆◆
ピンポーン……。
ふと、インターホンが鳴る音に気が付いた。時計を見るとすでに昼前を指していた。いつの間にか寝てしまったらしい俺は寝ぼけた頭で玄関に向かうとドアを開けた。そこには妹が立っていた。今日は学校が休みだったのだろうか、私服姿の妹はその手に一枚のチラシのようなものを持っている。
「お邪魔しまーす!」
妹はそう言って俺の許可も取らずに入ってきたかと思うとリビングのテーブルにチラシらしきものをバン!と叩きつけた。そしてそれに書かれていたであろう事柄を俺に説明してきたのだった。
「何これ」
「見てわかるでしょ!文化祭のお知らせだよ!」
「文化祭?」
俺はチラシに目を落とした。そこに書かれていたのは『秋月祭』と大きく書かれた文字の下に、色とりどりに装飾されたパンフレットのようなイラスト、そして『参加者募集!』の文字だった。その内容によると、この学校では秋祭りと学園祭が重なるような形で開催されるらしい。今の時期は学園祭の準備期間で各クラスや部活動では出し物を企画したり練習をしたりしているそうだ。
(俺)
そしてその『秋月祭』は学校の生徒でなくとも出し物を企画することができるとのことだ。
「へえ、珍しいな。こんな制度聞いたこと無い。」
「去年も一昨年もやってたよ?」
不登校及び引きこもり特有の情報収集力の圧倒的な欠如。
「そ、そうだったっけ?」
俺はしらばっくれた。
(AI)
実際に自分の高校の学園祭がどんな感じなのかも知らなかったのだから。
「で、お兄ちゃん!お願いがあるんだけど……」
「なんだよ?」
「私と一緒にこの企画に参加してくれないかな!?」
「……は?」
俺は妹の一言に唖然とした。と、同時に嫌な予感がしたのであった。
◆◆◆
「ね~お兄ちゃんってば~!」
俺は妹に引っ張られていた。その手は俺の右腕をがっしり掴んでいて、離してくれそうもない。そんな妹は制服姿ではなく私服で、可愛らしいスカートをひらひらと靡かせながら歩くその様はまるでどこかのアイドルのようだった。
いや実際にアイドルなのだけれど……。
俺を連れ回しているこの少女、俺の実の妹である春乃凛は今や国民的アイドルなのだ。ちなみに芸名は『春野凛』で妹は現在人気絶頂中だ。
(俺)
うん、芸名にしては捻りがなさすぎる。もっとこう、「凛」を「鈴」にするとかもあっただろ。
何で「乃」だけなんだよ。
「ほら!一緒に『アレ』買いに行くって行ったでしょ!!」
「だからって引っ張るな!!わかったよ!行く!行くから!」
「変態!」
「何で!?」
妄想癖というかなんというか、凛は曲解してしまう癖があった。
(AI)
◆◆◆
「ただいまー」
俺はやっとの思いで自宅であるマンションの一室にたどり着いた。もちろん凛も一緒にだ。部屋に入ると凛は持っていた鞄からチラシを取り出して俺に見せつけてきた。そして俺が寝惚けて受け取らなかった文化祭のお知らせをもう一度見せられたのだった。どうやら行かなければチラシでぶん殴られるらしい……。なんて恐ろしい妹だ……。だが、俺が行かない理由をわかって欲しい、というかわかってくれよ頼むから!そもそも俺みたいな引きこもりが外に出たら目立つだろ?それこそ不登校の理由が世間に知れ渡ってしまう。それだけは嫌だ!俺は平穏な日々を送りたいんだよ。
「凛、何度も言うけど俺は……」
「お兄ちゃん!」
「う……何だよ」
妹の圧に負けてしまうダメな兄だった。
そんな俺に構わず妹はチラシを俺に押し付けてくると、俺のベッドにダイブして寝転がりこう言ったのだった。
「これ一緒にやろうよ!ね?」
その仕草が可愛くなかったと言えば嘘になるのだが……さすがにそんな可愛さにも屈しない俺であった。
「嫌だ、俺は行かないからな」
「お兄ちゃんのケチー!」
◆◆◆
結局チラシは俺の部屋に放置されたままだった。俺がしばらくチラシの存在を忘れていた頃、あの妹は何度も俺にこのチラシを押し付けてきたのである。どうやら俺を絶対に参加させたいらしいのだが……。そこまでして俺を参加させるメリットはなんなのだろう?凛には何か目的があるに違いないがそれがさっぱりわからない。何しろあの妹だからな……。
「おーい、凛?どこに行ったんだー?」
そんな俺は今、妹の凛を探して街中を歩いている。というのも俺がチラシから目を離している隙に、凛がどこかに消えてしまったのだ。スマホで連絡を取ろうにも繋がらないし、本当に困ったものだ。
「ったくどこ行ったんだよ……」
そう独り言ちながら歩いているとどこからか聞きなれた声が聞こえてきたのでそちらを振り向いた。そこには歌番組か何かに出ているのか可愛らしい衣装に身を包んだ少女がステージ上で歌っている姿が映し出されていたのだった。その少女は金髪ロングの髪を靡かせて、まるで天使のような笑顔でファンに手を振っている。
「凛……」
俺はその名前を口にしていた。そこにいたのは紛れもなく妹だった。画面に映る彼女はいつにも増して輝いて見える。それはきっと彼女がアイドルだからじゃないだろう。俺が今見ているのは『春乃凛』ではなく『春野凛』だったからだ。もちろんその格好が彼女に似合っているのは百も承知なのだが、それでも俺は妹の本当の名前を知ってしまっているから……どうしても意識してしまうのだった。まるで自分の妹が遠い存在になってしまったように感じるのだ……否、実際遠い存在なのだろう。
(俺)
家だって今は別の場所に住んでいる。ちなみに昨日俺の家にいたのは帰省的なアレだ。
(AI)
「はあ、早く見つけないとな……」
そう呟いてまた歩き出そうとしたとき、俺の目にあるポスターが飛び込んできた。それは『秋月祭』のポスターだった。その内容は簡潔にまとめられていて『開催は10月上旬』と書かれているのみだった。おそらくこの文化祭とやらが10月上旬に行われるということなのだろうが……いったいいつまで家に帰らないつもりだ、あの妹は。
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