第4話

(AI)

「は?」

 棗も、悠里も、莉緒でさえも開いた口が塞がらない。

「まぁそんなんだから普通の生活ができないんだよな。学校にも行かせてもらえないし」

(……最近学校に来てない理由はこれか)

 守野歩に一抹の同情を覚える棗であった。


(俺)

「ああ、死んでるだろ?粉々ってレベルまでにな。でもこいつ…」

 有多さんがそう言うと、散り散りになっていた血が集まって再度『守野歩』を形成した。

「あいつは神と同等レベルの力を持った。あいつがいれば俺たちの目的は達成できる。」

「あの…」

「ん、どした?」

 棗は質問する。

「そもそも、目的ってなんなんですか?」

「あっれ、言ってなかったっけ?アタシたちの目的は世界平和。」

「いや…そういうのじゃなくて、もっと具体的な目標を……」

「神殺し。」

「え?」

 衝撃的なことが聞こえて硬直する棗たち。

「能力は万能じゃない。メリットがあればその分のデメリットも存在する。それが能力に現れるか生活に現れるかは人によって違うが、能力で幸福になるものは居ない。なぜなら能力は、『対価を支払った上での』能力だからだ。」

「じゃあ私やばいじゃん。」

 無尽蔵の生命力を持つ悠里ちゃんが言う。

「そう、だからその『神声者』を生み出した神を殺し、世界から能力を消すのが我々の目的だ。」


(AI)

「え、でもそんなことしたら能力者はみんな死んじゃわないですか?」

「能力者はいなくならない、能力がない世界になるだけだ。」

(なるほど、わからん)

 悠里はそんなことを思ったが口にはしなかった。

「えっと……それで、私は何をすれば……?」

 棗は遠慮がちに聞く。正直何も分かってない状態なのだ。

 そんな状態の棗に京也は言葉をかける。

「お前は守野歩と話してこい。」

(私!?)

 突然の指名に驚く。


(俺)

「えっと、何でですか?」

「守野歩に接触して一番怪しまれないのが、『歩くんが窓から飛び降りたことを知らないと思われている』君だからだ。」

「な、なるほど。」

(つまり警戒されないのが私だから…か。)

 合理的であると棗は判断した。

「わかりました。私、やります。」

「お、始めてでやるのか。さすが、音留とは違うな。」

「なんか言ったか京也」

「言ってませーん。じゃあ行ってらっしゃい。」

 最後まで仲のいい喧嘩をしながら棗を見送った京也によってテレポートが行われる。

「……っと。」

 着地した。


(AI)

 棗がいたのは、校舎裏だった。

「あれ、君は……」

 目の前には守野歩がいた。


(俺)

「あ、あれ?歩くん今日学校来てたっけ?」

「い、いやぁ……えっと、実はちょっとサボろうとしてて……」


(AI)

(これ怪しまれるパターンのやつなんじゃ……)

 歩は冷や汗を垂らす。

「どうしてサボろうなんて思ったの?」

「そ、それは……ほら、天気がいいから!」

「嘘ついてるね。」

 歩は焦りに焦っていた。


(俺)

「というか棗さんも何でここに?」

「そ、それは……ほら、天気いいしさ?」

「関係ないでしょ!!」

 お互いに不信感を募らせる。が、段々とお互い馬鹿らしくなったのか、いつの間にか二人は笑っていた。


(AI)

「あはは、おかしいね。」

「ああ、なんか馬鹿らしいな。」

(でもこんなに楽しいのは久しぶりかもしれない)

(守野歩と一緒にいるのはこんなにも楽しいのか……)

((なんだろう、この気持ち))


(俺)

 青春の1ページのようなモノローグをそれぞれ起こしつつも、会話は弾んでいった。


(AI)

「というか棗さん、こんなところに居ていいの?もう放課後でしょ?」

「あ、そうだった。」

(やばい忘れてた)

「歩くんも教室戻らなきゃだよ」

「おおう、忘れていた……」

(そういえば僕不登校児だった)

(学校行かないとな……)

 そんな会話をしながら二人は校舎へと戻っていった。そして何事もなく棗は帰宅した。

「ただいまー」

 その日の夜だった。棗は衝撃のニュースをテレビで知った。

『本日未明、○○県○○市でトラックが通行人を轢き、そのまま走り去ったという事件が発生しました。幸いにも通行人は軽傷で済んでおり、警察も操作を進めるとともに原因の究明にあたっています。続いてのニュースです――』

「え……」

 そのニュースを聞いていたのは棗だけではなかった。棗の母も見ていたのである。そして母はこう言った。

「棗……あなた学校行くとき気をつけなさいよ」

(あ、そっか……


(俺)

 これが多分、空で歩くんが轢かれたっていう話だ。)


(AI)

 棗は母のその忠告に対して、静かに頷いた。

「……うん。」

 そして時は進み、


(俺)

 といっても翌朝のことである。

「ふわぁ…」

(ん?なんか声低くなってない?)

 棗は鏡を見た。

「え、ええ――!?」

 その日の朝、九条棗は男になっていたのだ。

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