(AI) 1章『勇者の覚醒』

第1話

(AI)

 ガタンゴトンと揺れる電車の中、女子高生・九条棗くじょういつきは参考書を読み耽っていた。その精悍な顔付きからは確かな知性が滲み出ている。

「ふう……」

 一通り読み終えると、棗は息をつく。その表情には満足げな色が浮かんでいた。

 今日は土曜日であり学校はないのだが、棗はいつものように予備校へと足を運んだ帰りであった。電車で一時間半もかかる場所にあるため、帰宅する頃には日が沈んでいるのもいつものことだ。

(さて……)

 席を立ち、空いた席を探すために車内を見渡す。休日の帰りということもあってか電車内は空席がないくらいに混雑していた。吊り革に掴まる乗客、座席に座る乗客、床に直接座る乗客など様々だ。

(ん……?)

 そんな中で、棗は見付けてしまった。車内の隅にある四人掛けの席。そこには二人の女子高生が座っていた。一人は黒髪の落ち着いた雰囲気の少女で、もう一人は対照的に明るめな印象を受ける少女だった。二人は互いにもたれかかるようにして眠っているようであったが……なんと二人の腕には手錠がかけられていたのである。

(こ、これは一体どういうことだ?)

 棗はその光景に驚き、固まってしまう。その女子高生二人は手錠で繋がれていたのだった。

「ん……」

 二人が目を覚ましたらしい。黒髪の少女がゆっくりとその瞼を開いた。そして隣に寄りかかっていた友人の顔を見てにっこりとほほ笑むと……なんと友人の頬に口づけをした!

(なっ!)

 驚く棗を他所に、二人はそのまま再び眠りについてしまったようであった。

(こ、これは一体どういう状況なんだ!?)

 あまりのことに動揺する棗だが、それでもなんとか平静を保ち


(俺)

 声をかけた。

「あ、あの…」

「ああ、すいません」

 ちゃんと常識はあるようで、棗が声をかけるとその女子高生たちはすぐに手錠を隠した。

「でも、そろそろ限界だったので。」

「限界…?それってその…待てなかった、っていうことですか?」

 棗は少し顔を赤らめて言った。

「ああ、いえ、そういう艶っぽいのではなくてですね。」

 その女子高生は言葉を濁す。しかし少し悩んだ後棗のことを信用して、その理由について話してくれた。それは棗にとって、いいや、日常を生きる者にとって衝撃的なことであった。

「この子は私の『命』を吸って生きてるんですよ。」

「『命』…?」

「養分と言っても良いかも知れません。まあ、とあることがきっかけでこの子は私の生命力、つまり『命』を養分としてしか生きていけなくなってしまったんです。私もこの子のことが好きなので良いんですけどね。」

「共依存とか、そういうやつでも…?」

「まさか、依存という関係で済むならどれほど良かったか。これはそんなきれいなものじゃなくて、もっと禍々とした――呪い、とでも言うんですかね。」

 棗の目は先程までの参考書を読んでいたときの目とは違い、きらきらと輝いていた。


(AI)

 まるで憧れのヒーローに出会ったかのように。

「すごいですね……っ!」

 しかし棗の反応に、その女子高生たちはキョトンとしてしまう。

「え……?」

 そして棗もまた、自分の反応があまりにも恥ずかしいものであったと気付いて顔を赤くしていた。しかし棗はそんな反応を取り繕うかのように慌てて言葉を続ける。

「いや、その……命とか吸って生きてるってかっこいいなあって……」

 その言葉に二人は顔を見合わせる。そしてクスリとほほ笑むと口を開いた。

「それ分かる」

「うん」

「そういえばまだ自己紹介もしてなかったね。私は篠宮莉緒しのみやりお。高校三年生で、その『命』を吸って生きてる方の女の子です」

 黒髪の女子高生・篠宮はそう言って軽く会釈する。

「私は九条棗と言います。私も高校三年生で、剣道部に入ってます。よろしくお願いしますっ!」

(やばい……なんか『命』を吸うっていうワードが頭から離れなくなってきたぞ……)

 つい先程見た光景が頭の中で再生される。と同時に顔が


(俺)

 赤くなる。

(『命』を吸う、か。)

 そんなきれいなものじゃない、と彼女たちは言う。

 しかし棗にとってその行為はとても美しいものであった。

 誰かが誰かのために命を削って命を与える。それだけでもう尊ぶべきことなのに、そこに愛情がある。

(この二人の関係性…好き!)

 棗は学校の中では頭の良い方である。

 しかしだからといって生活まで頭がいいかと言われると、そんなことはなく。普通の女子高生としての生活を謳歌している。その一つとしてあげられることはがライトノベルの愛読だ。

 端的に言うのであれば、棗は重度のカプ厨だった。


(AI)

 そして今、棗の目の前にはそんなカプ厨が求めていた究極の関係性が広がっていたのである。

「九条さんは普段は小説とか読むんですか?」

「はい!ライトノベルを読んでますっ!」

「わあ!私もよく読むんですよ、最近だと『世界で一番美しい女の子』がお気に入りで……あ、でも最近のイチオシは『その初恋は永遠に美しく』っていう作品なんですけど」

(『世界で一番美しい女の子』ってこの前アニメ化してたやつだ!)

 そんな莉緒の巧みなトークに、棗はついていくので精一杯だ。

「え、えーと……」

(やべー!色々話したいけど上手く話せる自信がない……!)

 そもそも今までアニメの話をするような相手がいなかったのだ。緊張するのも仕方がないと言えるだろう。

 そんな棗の様子に、莉緒も少し考える素振りを見せた。そして何かを思い付いたかのように再び口を開く。

「九条さん」

「は、はい!」

 勢い余って返事をすると、それに苦笑いをしながら莉緒が続けた。

「良かったら、ライン交換しませんか?」

「えっ、いいんですかっ!?」

「もちろんです。同じ趣味を持つ友達なんて初めてですから」

 その言葉は棗にとってこの上ない喜びであった。

(ああ……っ!私は今日という日を忘れない……っ!)

 今日という日のことを生涯忘れることはないであろう、と棗は思った。そしておもむろにスマホを取り出し、莉緒と連絡先を交換するのだった。

(ああっ……!九条さんとのラインの友だち欄に篠宮さんがいる……!)


(俺)

「あ、ずるーっ。じゃあ私も交換しよっかな。」

「あ、え、えーと」

「ああ、まだ名前言ってなかったっけ。


(AI)

 私は白石悠里(しらいしゆうり)。篠宮とは同い年で、高校三年生です。よろしくねっ」

「よろしくお願いします……!」

 莉緒と交換した連絡先に、悠里のものが追加される。

(やばい……今日私死ぬのかも)


(俺)

 夢のような現実に心を踊らせながら、棗の非日常的な二日間は始まった。

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