第28話 元凶の正体、そして聖剣の輝き
街から騒がしい音が聞こえてきた。
冒険者の叫び声、ガサガサと地面を踏みしめる音、よく見れば赤い光が過ぎ通っていく。
「気にする必要はありません。あなた方が彼を倒せば、すべてが終わる。今は後ろを向くより前を…………向きなさい」
何も言っていないのに、アルファと名乗る騎士は俺のほうを向いて言った。
わかっている。わかっている。覚悟していたつもりだ。
「わかっています」
アルファ騎士の後ろをついていく。どんどん森の奥へと入っていき、かすかだが魔物特有の匂いが漂う。徐々に濃くなっていく中で、ガサガサと近づいてくる音が聞こえた。
俺はすぐに剣を引き抜き、周囲を警戒した。
犯人は今、ほとんどの魔物を街に送り込んだ。だが、すべてじゃない。俺たちが近づいたと分かれば、すぐに始末しに来るはずだ。
それが追い込まれた犯人の心理だ。
だが、アルファ騎士は腰に携えた剣を引き抜くことはなかった。
「安心してください、たしかに魔物はこちらを警戒しているようですが殺気はありません。進みますよ」
「わ、わかりました…………テラ?」
テラもまた警戒して杖を構えたが、その場で踏みとどまっている。
「どうしたんだよ?早くいくぞ」
「あ、うん」
奥へ奥へと進んでいき、ついには魔物特有の匂いがはっきりと感じられるほど進んでいた。
「そろそろです。お二人とも構えてください」
目先には木々のない広い空間が見える。
あそこに犯人が…………。
時間をかければかけるほど、街を守っている冒険者、ダンクやルナに負担をかけることになる。だからこそ、やるなら短期決戦だ。
「では、行きますよ!!」
「はい!!」
俺、そしてテラとアルファ騎士は武器を構えて、広々とした空間に入った。
鼻をつまみたくなるような匂いが漂っている中で、ティールキャットに囲まれているフードを被った男が中央に座っていた。
「あいつが元凶…………」
フードを被ったそいつはゆっくりと立ち上がり、地面に突き刺さっている剣を引き抜き、剣先を向けてくる。
「…………え」
相手の剣を見たとき、俺は目を点にして、一歩後ろに下がった。
「どうしたの?」
「ど、どうして…………どうして、その剣をお前が」
目が泳ぐ、呼吸が浅くなり俺は力強く剣を握った。
「レイン?」
「お前、その剣、どこで手に入れた。その剣は、俺の大切な、大切な親友のゲニーの!!!」
そう、俺が見間違えるはずがない。
ゲニーは兄さんと同じように冒険者に憧れて、成人を迎えた日に冒険者になった。その時に買った剣は決して高い剣ではなかったけど、ゲニーはその剣を大切に使っていた。
今でもだ。毎日、刃がこぼれるたびに手入れして、そんな光景を見ていた俺だからわかる。
「ゲニーの剣をどうして!!!」
心の底から怒りをぶつけるように叫んだ。
こんなに感情をあらわにしたレインを見たことがないテラは動揺しながらも状況が理解できないでいる。
そんな中、フードを深く被るそいつはゆっくりと口を開いた。
『お、俺は………お前が憎い、どれほどお前がいなくなればいいかと願ったことか』
すりつぶされたような声だが、野太さ、口調から男であることがわかる。
その男から発生られるのは間違いなく魔物が放つ特有の匂い。それに加え、膨大な魔力、只者でないのは間違いないだろう。
だが、そんなことが目に入らないほどレインはゲニーの剣を持っていることに怒りを覚えている。
『やっと俺の願いが叶う。やっと、やっと、やっと、やっと、やっと…………やっと』
ふと風が吹く。優しくて撫でるような風は男のフードを
『レイン…………』
その素顔を見て、俺はあっけにとらてしまう。
俺の親友、俺に手を差し伸べてくれた大切な友、幼馴染。目をつむれば村での楽しい思い出を鮮明に思い出せる。
そう、本当にかけがえのない大切な親友。
「げ、ゲニー、なのか」
やつれた顔、濁った肌、乾いた唇、俺の知っているゲニーとはほど遠いその姿は別人だ。だが長年、10年も一緒にいた俺だからわかる。
どれだけ変わろうと、ゲニーであることを。
『レイン…………俺の願いのために俺と戦え』
□■□
その頃、街では住民を守るために、ティルミナ聖教の騎士、そして冒険者はゴブリン、ワイルドウルフ、オーク、そしてティールキャットと戦っていた。
「なんとしても街に魔物を入れるな!!」
ザルド聖騎士の指示のもと、着実に魔物の数を減らすが、それでも次々と森の奥から姿を現す。
「明らかに魔物の力が強い。やはり、何者かに操られているのか」
本来、苦戦するはずのないゴブリン、ワイルドウルフ、オークだが、かなりの苦戦を強いられており、すでに何人か死傷者が出ている。
今はまだ、ティルミナ聖教の騎士たちが機能しているから、なんとなっているが、このままでは数で押し切られる。
運がいいとすれば、ティールキャットの数が意外にも少ないということだが、それは今だけかもしれない。
ティールキャットが殺されれば、スキル共感で仲間に知らされ、続々とティールキャットが迫ってくる。そうなれば、最悪な事態になりかねない。
「時間を見て、交代し、防衛に徹せよ!!」
体力と気力、そして周りの雰囲気、今はまだやる気に満ちているが、あと1時間もすれば、崩れ始める。
ここは一つ、私が皆に勝てるという希望を見せなくては。
そう決意したザルド聖騎士はみんな防衛している中、防衛網の外に出た。
「ザルド聖騎士!?いったい何を!!」
聖騎士になるにはティルミナ聖教の騎士として3年間を過ごし、数々の試練を乗り越えた者にしかなれない選ばれた存在。
ティルミナ聖教の聖騎士は現在、666名でその実力は冒険者で例えると六つ星冒険者のほどと言われている。
しかし、聖騎士はその力を自分の意志で使うことはできず、教皇様、もしくは聖女様の許可なしでは本来の力の使うことができず、いつもは本来の力の2割ほどしか使えない。
だが例外はある。それは寿命を使うことだ。寿命を使うことで私は本来の力を使うことができる。
「私の意志に応えよ!!聖剣ヴァルゼール!!!」
叫ぶザルド聖騎士、その言葉に剣は応えるように眩い光を放った。
大気に存在するすべての魔力を吸収し、高密度の魔力が圧縮された刀身を形成された。
これこそ、聖騎士の証、聖剣ヴァルゼール。この聖剣は大気に存在する魔力を集めることができ、集めた魔力は持ち主が自由自在に操作できる。
「ザルド聖騎士が聖剣を!?」
「しかし、許可は得られていないはず」
「まさか、こんな街を守るために、寿命を!?」
ティルミナ聖教の騎士はみな、将来、聖騎士になるために日々努力している。ゆえに詳しいのは当たり前だ。
だからこそ、ザルド聖騎士が判断した行いに理解できない者もいれば、騎士道を貫く彼の姿に感動する者もいる。
「スキル、
聖剣の力とスキルの力を合わせ、ザルド聖騎士は聖剣を振るい目の前の魔物を一掃した。
その光景はまさに彗星のごとく美しく、ティルミナ聖教の騎士や冒険者たちを魅了し、操られているゴブリンやワイルドウルフ、オークは恐怖を覚えるほどだった。
「怖気る必要はない!!!戦えっ!決して、街に魔物を入れさせるなっ!!!!」
ザルド聖騎士の勇敢な背中に、再び闘志を燃やすティルミナ聖教の騎士、冒険者たちは一致団結するように叫び、武器を持って守るのではなく魔物に突撃した。
そんな中、息を整える。
5年は使ったか…………だが、そのおかげでみんなの火がついたのはたしか、いけるぞ、これなら。
「ダンク、思った以上の数だ」
「こりゃあ、骨が折れるな、がははははははっ!!」
家の屋根で敵全体を観察するダンクとナル。
「…………やっぱり、聖女の考えることは歪で不愉快、反吐が出る」
「そう言うなって、聖女も求めてるんだろうよ、運命ってやつを」
「くだらない。…………とにかく、加勢する」
「そうだな」
家の屋根から飛び降り、魔物たちの前で着地する二人は武器を手に取り、加勢するのであった。
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