第14話 竜が現る
ネスタ遺跡の探索、調査が始まって約2時間が経過した。
「退屈だな、あんちゃん」
「おい、気を抜くな。いつ魔物が襲ってくるからわからないんだぞ」
「と言ってもよ。ただ真っ直ぐ歩いているだけだし、これじゃあ俺の筋肉が輝かない!!」
「ダンク、お前なぁ…………テラやナルさんを見習えよ」
2時間、ただまっすぐ進むだけで特に進捗なし。その間ずっと後ろを警戒しているナルさんと探知魔法で周囲を確認するテラ。
この二人がいるからこそ、俺とダンクは楽ができている。
「しかしだな、俺たちができることといえば、周りを見渡すぐらいしかないだろ!!」
「だから、いちいち筋肉を見せびらかすかな。暑苦しいんだよ」
「そこまで言わなくてもいいだろ、あんちゃん」
とはいえ、もう2時間ぐらいまっすぐ歩いているのに何もないはおかしい。特に曲道もなく、扉もなく、ただ前に進んでいるだけ。
果たして、この先には何かあるのだろうか?
そう思ってしまう。
さらに奥へと進んでいくも特に共鳴石からの反応はなく、前のほうでは不穏な声がかすかに聞こえてくる。
「距離が離れすぎて、よく聞こえないな」
「盗み聞きは関しないぜ、あんちゃん」
「冒険者の心情を知るのは大事だぞ。心の乱れは
さらに奥へと進んでいき、ついに足が止まった。
どうやら、扉を見つけたらしい。
そして、冒険者たちはアダルの指示のもと、扉の前に集合した。
「探知魔法の結果、この奥には魔物がいることが分かった。よって私を先頭に突撃し、殲滅する。魔物の魔力量からみてもオーク程度らしいので、そこまで緊張する必要はない。しかし、遺跡内だ。何が起こるからわからない。冒険者の志を持つものとして、気を引き締めろ!!」
アダルの言葉に、ほとんどの冒険者が顔つきが変わる。
一瞬にして冒険者の心を戦闘態勢にさせる。
これが三つ星冒険者アダルの力か。
「ああいう冒険者がきっと冒険者として大きくなるんだろうな」
「…………レイン?」
横目で心配そうに見つめる。
「なんでもない。それよりも俺たちも気を引き締めよう。アダルの言う通り、何が起こるかわからないんだからな」
「その通りだ、あんちゃん!気を引き締めないとな、がははははははははっ!!!」
「うるさい、ダンク。依頼に集中して」
「集中しているぞ、ナルちゃん!!」
気を引き締めないとなって言っておきながら、傍から見ればそうは見えない。
でも、いいパーティーだな、と思った。
「そろそろみたいぜ、あんちゃん」
「ああ、そうみたいだ」
ゆっくりと開かれる扉。
その先に何があるのか。
俺は少しだけワクワクしていた。だって、未探索の遺跡内の道で、その奥には閉ざされた扉がある。これほど、冒険者がワクワクする要素はない。
「なぁ、テラ」
「なに?」
「冒険者っていいな」
「そうだね」
アダルを先頭に扉の奥へと進み、足を踏み入れると、そこは真っ暗だった。
すぐに魔法使いたちが灯りを灯したが、それでも周囲を見渡せる程度で、とても全体を見ることはできなかった。
「真っ暗じゃないか!!」
「もうツッコミいれないからな」
「不気味…………」
「たしかに、不気味だな」
ナルさんの言う通り、不気味な空間だ。
言うなれば、何もないから不気味で、道中何もなかったからこそ、さらに不気味に感じる。
「…………誰かに見られているような気がする」
「誰かに?」
見た感じ、魔物はいない。テラの探知魔法にも引っかかっていないみたいだし。
「レイン、気を付けて何か変」
「わかってる。テラも探知魔法が反応したらすぐに知らせろ」
「わかってる」
アダルを先頭に、そしてその後ろにゲニーたちが続く。
その時だった。
ゴンっ!と揺れた。
「今の揺れは…………」
何か、嫌な予感がする。
俺はふと後ろを振り向き、灯りを後ろに持ってくると、なぜか来た道の扉が閉ざされていた。
最後に扉を通ったのは俺たちで、しっかりと扉は開けてあったはずだ。
どうして、閉まっている?
「みんな、落ち着くんだ!冷静に心を保ち、周囲を警戒しろ!!」
アダルの声に冒険者たちは円を作り、周囲を警戒した。
「…………警戒を怠るなよ!いて!?な、なんだ?」
アダルは警戒しながら前に歩いていると、何か硬い壁にぶつかった。
「だ、大丈夫ですか、アダルさん」
「あ、ああ大丈夫だ。それより一体何にぶつかって」
視線をゆっくりと上にあげる。すると、一つ粒の赤い光が見えた。
「な、なんだ…………」
その瞬間、赤い閃光がブレスとなってアダルが率いるパーティーを襲い、一瞬にして即死、視界が鮮明になる。
最初に視界に写ったのはアダルが率いていたパーティーの無残な姿、何より下半身を失ったアダルの姿に冒険者たちは言葉を失った。
「な、なにが起こったんだ」
「あんちゃん、前を見ろ!!」
「前?…………んっ!?」
視線を前に向けた。
そこには、俺たち冒険者を見下す大きな竜がいた。
「り、竜?」
真っ黒な鱗、そこにいるだけで体が重くなり、一部の冒険者は絶望で満ち足りた表情を浮かべながら、その場で倒れ伏した。
「き、聞いてないぞ。こ、こんな話、聞いてないぞ!!まさか、あの女、俺をだま…………」
アダルが叫んでいると、二回目のブレスが襲い掛かり、
それが二回目の絶望、その光景に冒険者たちはパニック状態へと陥れられた。
「に、逃げろ!!」
一人の冒険者の叫び声が伝播し、次々と扉へと走り出すが、その扉は閉まっている。
「ど、どうする、あんちゃん」
「…………転移結晶だ。転移結晶で今すぐ、撤退するんだ」
「でも、転移結晶はアダルが持っているはずだろ?でもアダルは」
そうか、転移結晶はアダルが…………てことはもう。
その時、一人の男が声を上げる。
「冷静になってください!!」
ゲニーだった。
「転移結晶は僕が持っています。すぐに僕の方へ!!」
どうして、ゲニーが転移結晶を………いや、今はそんなこと、どうでもいい。
転移結晶をさえあれば、ここから脱出できる。
「俺たちもすぐにゲニーたちのところへ行く、走れ!!」
俺とテラ、そしてダンクとナルはゲニーたちのもとへ走る。
それは他冒険者も同じだ。
だが、そう簡単に近づけまいと竜は3回目のブレスを群がる冒険者たちに放った。
「んっ!?止まれ!!」
俺はすぐに気づき、足を止めたが、ほかの冒険者はゲニーたちが率いるパーティー、そして先頭にいた一部のパーティーを除き、すべてを飲み込んだ。
「あ、あぶねぇ。あんちゃんが言ってくれなかったら、今ごろ」
「不穏なこと言わない。それより、どうする?」
ナルさんは冷静に俺に問いかけてきた。
「どうするも何も、一番最悪な展開で、どうしようもできない」
竜が放ったブレスはゲニーたちが率いるパーティーと俺たちを分断するように放たれた。つまり、もう一度あそこを通れば、犠牲になった冒険者たちと同じ道をたどることになる。
「…………レイン、あの竜、こっちを見てる」
「そうみたいだな」
だが攻撃は仕掛けてこない。
もしかしたら、攻撃するトリガー、条件があるかもしれないが、今、ゲニーたちと合流しようとするのは危険すぎる。
その時だった。
「ごめん、レイン」
ボソッと呟きながらゲニーが転移結晶を握りしめる。
「一人でも多く生き残らなきゃいけないんだ」
「ちょっ、ゲニー何を!!」
「ダメっすよ!ゲニーくん!!」
「ゲニー、やめてっ!!」
ライラを含め、ゲニーのパーティーメンバーが気づき、止めようとするがもう遅かった。
「…………たくさん死んだ。これ以上、リスクを背負えないっ!!!」
覚悟を決めた表情を浮かべながら、ゲニーは転移結晶を砕いたのだった。
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