第15話 お前ら、俺に命を預けられるか?

 転移結晶は砕くことで発動する。



「ごめん、本当に……………………」



 光の粒子がゲニーたちのパーティーを含め、生き残った冒険者を囲み、そのまま転移した。



「最悪…………」


「まさか、こうなるとはな」



 冷静さを保つダンク、ナル。そんな中、テラは俺の隣に立ち、声をかける。



「レイン、どうする?」


「…………」


「レイン?」



 どうして、ゲニーはあそこで転移結晶を?あそこならもう少し動きをみて判断してから転移結晶を使うべきだ。


 いや、そもそもあんな状況で冷静に判断できるわけがないか。…………それにあの時、ゲニーはどうして、笑っていたんだ。



「レイン!」


「んっ!?」


「大丈夫?」


「…………だ、大丈夫だ」



 ふと竜のほうへと視線を移した。すると竜はゆっくりと瞳を閉じ、そのまま動かなくなった。


 眠ったのか?



「どうやら、あの漆黒の竜は眠ったみたいだ。しばらくは大丈夫だと思う」



 でも、これからどうする?命は助かったけど、入り口は塞がっているから出られないし、道らしき道もない。


 詰みだ。



「とりあえず、座ろう。できる限り体力は温存しないと」



 俺たちは近くの壁に寄りかかり、できる限り体力を温存する行動をした。



「さてさて、どうしたものか」


「ダンク、あまり大きい声を出さない。あの竜が起きたら、次こそ死だ」


「でもなぁ、どちらにせよ、このままでは餓死しちまう。これでは俺の筋肉が悲鳴を上げて、”タンパク質がほしい!”と歌いながら竜に突っ込んでしまう!!」


「だから声を抑えて。あと勝手に突っ込まないで、死にたいの?」


「ナルちゃんに殺されるのなら、この筋肉も本望だろうな!!」



 この状況の中、俺は二人に感心した。

 なぜなら、この状況でまったく心を乱していないからだ。


 普通の冒険者なら絶対に発狂しているのに、どうして冷静なんだ。



「テラは大丈夫か?」


「うん、大丈夫。レインこそ、無理してない?」


「俺は…………ちょっときついかな」



 兄さんならこんな状況でも冷静に行動する。だからこんなところで心を乱すわけにはいかない。


 でも、正直、心の底から叫びたい。この恐怖を、不安をすべてぶちまけて、夢であってほしいと願ってしまう。


 だって俺は死にたくない。


 兄さんの背中はまだまだ全然遠くて、追いつけてなくて、隣に立つことすらできてなくて、冒険者としても半人前で、やりたいこともまだ全然できてない。


 冒険者としての冒険もまだ、何も…………。



「怖いのは当たり前だよ、レイン」



 俺の隣に座り、頭をやさしくなでた。



「何のつもりだよ」


「勇気づけようとか思って、ほら男の子は女の子に撫でられると勇気がつくって、それにルシアスもそうだったし」



 この状況でも冷静なテラ、ホッとした。



「…………テラは強いな。さすが六つ星冒険者だ」


「そんなことない。それよりこれからのことを考えないと」


「これからか」



 出る方法はもう一つしかない。

 それはあの漆黒の竜を倒すこと。

 でも竜は最低でも五つ星冒険者が討伐するレベルの魔物だ。しかも、見た目からして上位竜である可能性が大きい。


 この場には六つ星冒険者と四つ星冒険者がいるけど、犠牲をゼロにすることはできないし、勝算はほぼゼロだ。



「竜を倒す!それしかないだろ!あんちゃん!!」


「そりゃあ、そうだが…………」


「何を怖がっているんだ!冒険者なんていうのは死と隣り合わせだ。ここで死んだらそこまでの人生だったってことだ。それに冒険者なら冒険者らしく挑戦しないとな!がははははははははっ!」


「…………ダンク」


「ダンクの言う通り、戦う準備はできてる」



 ダンクもナルさんも戦う準備ができていたことに俺は驚きを隠せない。


 たしかに、冒険者なら冒険者らしく挑戦しないとな。


 だが、無策で戦うのは無謀だ。そんなこと兄さんは絶対にしない。なにか、あるはずだ。1パーセントでも勝つ方法が。


 俺は漆黒の竜を見た。下から上へ、下から上へ、竜の全体を見渡した時、気づいた。



「…………これは」



 傷だ。所々じゃない、鱗が真っ黒でよく見えないけど、深い傷から浅い傷がたしかにある。


 そうか、竜が動かないのもしかして…………。


 少しだけ不自然に思っていた。なぜ、ブレスで殺そうとするのか、どうして動かないか。理由は簡単、負傷しているから。だから、動かない。


 まだ疑問があるけど、今は喜ぼう。


 なぜなら、勝つ道が俺たちにあるのだから。



「おお!あんちゃん!いい顔つきにだな!何か思いついたのか?」


「…………なぁ、お前ら、俺に命を預けられるか?」



 その言葉にナルさんは俺に顔を近づけ、聞いてくる。



「勝算はあるの?」



 所詮は二つ星冒険者の言葉。四つ星冒険者にとっては軽い言葉に聞こえるかもしれない。でも、ここで怖気ついてはダメだ。



「ある。だけど、これを遂行するには俺を信用してもらう必要がある」



 ナルさんは何かを確かめるかのようにこちらを力強く睨みつけてくる。



「まあまあ、ナルちゃん。そうピリピリしない!ここはひとつあんちゃんの案に乗って命を預けようじゃないか!!」


「ダンク、この人たちと会ったのつい数時間前。どうして、そう簡単に命を預けられる」


「そりゃあ、あんちゃんが命を預け足りうるからだ。それともナルちゃんはこの状況でも竜に勝つ策があるのか?」


「ダンクのくせに、生意気。でもたしかに策はない」


「なら、ここはひとつ乗ろうぜ!冒険者としてな!!」



 弾ける筋肉を前にして虫けらのような目でダンクを睨みつけた。



「…………レインだっけ、わかった。あなたに私の命を預ける。だから、その策を教えなさい」


「わ、わかった、ナルさん」


「ナルでいい。さん付けは虫が走る」


「ありがとう、ダンク、ナル」


「もちろん、私も預ける、レイン」



 みんな、俺に命を預けてくれた。ならこれに応えなくちゃいない。

 兄さんだったら100%応えるはずだ。



「この時、この瞬間だけ、俺たちはパーティーだ。それを踏まえて、俺の策を聞いてもらおうか」



 こうして、俺、テラ、ダンク、ナルと一緒に竜退治が始まったのだった。

 

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