第11話 冒険神話ルシアス、そして覗き見

「テラにはまだ言ってなかったけど、2日後、遺跡の探索、調査の依頼がある。というわけで今日と明日はその準備をする」


「…………聞いてないけど」


「だって、パーティーを組むなんて思わなかったし、唐突のことだったから」



 今、俺とテラは宿の食堂で朝食を取りながら、今後の予定について話していた。



「わかった。それで遺跡ってどこの?」


「そりゃあ、あそこしかないだろ」


「あそこ?」


「まさか、知らないのか?」


「だって私がここに来たの、つい最近だよ?知るわけない」


「かなり有名な遺跡なんだけどな。まあ、いいだろう。なら教えてやる。俺たちが探索、調査する遺跡は遥か昔、六英雄と邪竜ファブニールが戦った場所とされる場所、だ」



 ネスタ遺跡、少し前までこの街の観光名所だった遺跡だ。

 それはもうすごく有名で、常に人だかりができるほど、だが少し前に新しい道が見つかり、急遽、封鎖、安全と新たな発見を期待して依頼が発行された。



「それって、もしかして」


「ああ、三大冒険神話の一つ、ルシアスに出てくる決戦の地と思われている場所だ」



 三大冒険神話というのは冒険者を主人公にした有名物語を指しており、冒険者の半分ぐらいはその物語たちの影響で冒険者になったという人たちが多い。


 その中の一つである冒険神話ルシアスは六英雄と呼ばれる六人の英雄と邪竜ファブニールが戦うお話で、最後は主人公である冒険者ルシアスが六英雄以上の力を発揮し、邪竜ファブニールの封印するという結末。


 三大冒険神話の中では、人気が一番下だが主人公ルシアスの冒険者としてこころざしや在り方、その真っ直ぐな性格が人気で、憧れのまとになっている。


 その舞台になったといわれているのが今回、探索、調査するネスタ遺跡なのだ。



「それはワクワクする」


「だよな。でもあまり期待できないけどな」


「どうしてなの?」


「ネスタ遺跡は50年前に大探索が行われて、ほとんど隅々まで調べられているんだ。優秀な魔法使いも雇ってな。だから見つかった道もあまり期待できない。それこそ何もありませんでした、で終わるかもしれないし、まあ多分、ほとんどの冒険者が経験目的だと思う」



 それにこう言った新しい道が発見されて、再探索、調査をされることは遺跡ではよくあることで、そのほとんどが特に何もなく終えている。


 つまり、事例のことを考えれば、今回も特に何もない可能性が高いということだ。


 でもある程度の報酬は手に入るし、経験は力になるから俺にとってはメリットしかない。それに万が一、貴重なものを見つければ、それはもう大儲け、凄腕の冒険者でもない限り、この依頼はメリットだらけなのだ。



「そうなんだ。でも冒険神話ルシアスのファンとしてワクワクが止まらないよ」


「やっぱり、ファンか。実は俺もファンなんだよ。いいよ、ルシアス。冒険者の鏡だ」


「え、私は別にルシアスのことなんてどうでもいい。それより邪竜ファブニールだよ。黒いうろこに竜ってかっこいいよね」


「そ、そっちかい」



 思わず、立ちあがってツッコミしてしまう俺は少し恥ずかしくなり、スッと座った。



「でもめずらしいな、邪竜ファブニールが好きだなんて」


「そう?かっこいいほうがよくない?」


「ルシアスだって十分かっこいいだろ」


「でも、邪竜ファブニールを倒せてないし、悪く言うなら言葉だけ?」


「それ以上やめろ。俺の中のルシアスがおかしくなる」



 たしかに、そう言った意見は数多くある。それに、三大冒険神話の中で人気が一番下な理由もそこにあり、他二つは主人公が勝利しており、冒険神話ルシアスだけ、封印という勝ち方をしている。



「ああ、もうやめだ、この話は!とにかく、今日は遺跡の探索、調査の下準備だ」


「下準備って何するの?」


「いろいろだ。というわけでだ、しばらく付き合ってもらうぞ、テラ」


「どこまでもついていくよ、レイン」



 テラは真っ直ぐと俺を見つめ、静かに笑った。


 本当に調子が狂うな。


 こうして、俺は今日1日、テラを連れまわしながら、下準備をするのだった。



□■□



 一通り下準備を終えた頃にはもう太陽が沈み始めていた。



「あとは明日、予約したアイテムを受け取るだけだ」


「つ、疲れたぁ…………」


「おい、大丈夫か?」



 道端で足をたたむテラ。

 たかが1日、歩き回っただけなのに、すごく疲れていそうだった。


 足腰が弱いのか?まあ、魔法使いはあまり運動しないって聞くし、もう少し配慮するべきだったな。



「大丈夫…………じゃない。足が痛い、腰が痛い」


「しょうがないな。おんぶしてやるから」


「でも、荷物が………」


「こう見えても鍛えてるから安心しろ。それに荷物って言ってもそこまで多くないしな」



 俺は荷物を両手にかけ、後ろを向き、おんぶする姿勢を取った。



「ほら、遠慮するなって」


「そ、それじゃあ遠慮なく」



 テラをおんぶすると想像以上に軽かった。


 これ、ライラよりも軽いぞ。ちゃんと食べてるのか?



「お、重くない?」 


「全然、重くない。それより早く宿に行くぞ。これは少し目立ちすぎる」



 視線を集めるのも無理はない。なにせ、エルフってだけでこの街では珍しいんだから。


 サッと宿に戻ると、テラはなぜか俺の部屋のベットで仰向けになった。



「自分の部屋があるだろ」


「足すら動かしたくない」



 どうやら、想像以上に疲れているようだ。



「ご飯はどうするんだよ」


「動けるようになったら、食べる」


「それじゃあ、俺は先に食べるぞ」


「わかった。ふぅ…………」



 どんだけ疲れてるんだよ。別にいいけどさ。


 今回、泊まる宿は食堂がないため、外で食べるのだが。



「力店に行くか、ほかのお店に行くか。う~ん、悩ましい」



 最近、外食が多いし、できれば安く済ませたいな。

 俺はどこで食べるか、いろいろなお店を見て回った。


 そんな時。



「どうして、わかってくれないんだ!!」



 街の通りで、叫び声が聞こえてきた。

 近寄ってみると、そこにはゲニーとライラがいた。



「ゲニー!?それにライラも」



 俺は咄嗟に物陰に隠れた。



「ゲニーのほうこそ、どうして相談もせずに決めたの!!もう知らない!!」


「ちょっ、待ってくれ、ライラっ!!」



 踵を返し、走り出すライラをゲニーはすぐに追いかけて行った。



「な、なにがあったんだ?」



 何やらもめている様子だったけど。

 それに、ライラがあんなに感情的になるなんて…………。



「のぞき見は関心しないっすよ、レインくん」


「そうそう、覗き見なんて変態くんがすることだよ」


「うん?」



 後ろを振り向くとそこには、ルリカ、シェルミーが立っていた。



 

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