第10話 英雄の領域だったことを知る

 俺は大まかにゲニーたちと何があったのか教えた。

 言葉にするのはすごくつらいけど、言葉にしなきゃいつまで経っても何も変わらない。


 すべてを伝えるとテラはただ呆然とこちらを見つめ、ゆっくりと前を向いた。



「それは大変だったね」


「同情するなよ。これは全部、俺が使えない、弱かったのだが原因なんだからな」



 俺が強化魔法しか使えなくて、役立たず、だからゲニーたちのパーティーを抜けることになった。その理由は正当で納得のできるもので、反論する余地もない。


 全部、俺が悪いんだ。



「でも、今日のレインを見た感じ、そこまで弱いようには見えなかった。強化魔法も洗練されていたし、立ち回りもよかった」


「あれはここ最近よくなったんだよ。ゲニーたちのパーティーにいたときは、強化してもあそこまで俊敏に動けなかったし、ほんと、ここ最近なんだよ」



 そうだ、ここ最近、やけに強化魔法の調子がいいんだ、びっくりするぐらいに。


 なんなら、1日経つごとに調子がさらに良くなっているような気がする。今日なんて、オークの頭蓋を簡単に貫通させることができたし。


 本当に神の存在を信じてしまうほど、今の俺は調子がいい。いや、よすぎるんだ。



「そうなんだ。不思議なこともあるんだね。でも、レインのこと知れてよかった」


「そうですか…………」



 満足そうな表情を浮かべるテラは静かに笑った。



「でも、これでわかった。レインは気まずかったんだね」



 その言葉に俺は目を丸くし、そして気づいた。



「…………そうか、気まずかったのか」



 ゲニー、ライラ、ルリカ、シェルミー、みんな同じ村の出身で幼馴染。いつも一緒にいた大切な友達、親友で仲間で、同じパーティーメンバーだった。


 なのに、俺が弱いから、迷惑をかけるから、命にかかわるからという理由が、一種の壁を感じていたんだ。


 すべては俺が不甲斐ないから。



「なんか、スッキリした。ありがとう、テラ」


「パーティーメンバーとして当然だよ」



 テラとは会って間もないが、ふと思う。


 テラってこんなに笑ってたっけ?というか、少し表情とか口調が柔らかくなったような。


 ふと思った疑問、俺はつい、それを口にしてしまった。



「…………なんか、テラって人に対して態度変えるタイプ?」


「急に何?」


「いや、なんか、昨日と態度が違うような気がして、何というか母性を感じる」


「…………そう?いつも通りのつもりだけど。あ、でも私、人と一緒にいないときは基本、無口だから。それが関係しているかも?」


「あ、なるほど」



 たしかに、思い返してみると…………いや、そこまで無口ではなかったような。まあ、俺に心を開いてくれたってことで納得しよう。



「そういえば、ちょっと気になっていたことがあるんだが、テラって今のステータスってどんな感じなんだ?」


「気になる?」


「だって、六つ星冒険者のステータス、気にならないわけがない、だろ?」



 六つ星冒険者は世界で500人いるかどうかだ。気にならないほうがおかしい。



「それじゃあ、レインのステータスを見せてくれたら、見せてあげてもいい」


「俺のステータスを見ても、しょうがないぞ?」


「そうやって自分を下げるの、レインのよくないところ」


「はいはい」



 そして、俺とテラはお互いにステータスを見せ合った。



名前;テラ・シルフィー

六つ星冒険者

レベル:68

スキル:魔力感知、魔力増強、詠唱破棄、並列思考、精霊眼、万能機、魔法補助

魔法:火魔法5、水魔法5、風魔法5、氷魔法5、土魔法5、光魔法5、闇魔法5、雷魔法5、強化魔法3、探知魔法6

・ステータス

 力:20

 魔力:4519(魔力増強による補正+5000)

 素早さ:505

 器用さ:1945

 賢さ:1519



 絶句せざる終えなかった。


 なにこのスキルと魔法の数、見たことないんだけど、というか魔力量化け物だろ。


 レベルは最大99、ステータス数値も9999が限界値だ。なのに、魔力量は素で4519に加え、スキル魔力増強による補正+5000されている。


 ほぼ限界値で、まさに魔法使いになるべくして生まれたと言っていいだろう。


 ただ一つだけ疑問に思うのが意外と熟練度が平均的ということ。


 六つ星冒険者となれば、熟練度は9、10が普通だと思っていたから、さらに驚かされた。なにせ、熟練度5であんな強力な魔法を打てるんだ。魔法使いって恐ろしい。


 一通り見た後、俺と同じように冒険者カードを眺めるテラだが、俺と同じように少し驚いている様子だった。



「驚くよな。なにせ、俺とテラのステータスじゃ、天と地の差だからな。まあ、力だけは勝ってるけど、魔法使いに力のステータスなんていらないし」


「レイン、聞いていい?」


「うん?なんだよ…………」


「この強化魔法の熟練度9って本当?」


「おいおい冒険者カードは自分で加工するができないんだぞ?そのカードに書いてあることがすべてだって、なんでそんなこと聞くんだよ?」



 テラはゆっくりとこちらを向いた。



「だって熟練度を9まで上げるなんてほぼ不可能に近いから」


「…………はぃ?」


「だって熟練度っていうのはその魔法をどこまで極めているかを示す数値で、英雄を除いて、現在の最高熟練度の数値は8なんだよ?私だって、探知魔法の熟練度6が最高値で」


「待て待て!何の話をしているんだ?俺には何が何だかさっぱりなんだが」


「だから、強化魔法の熟練度の数値が現在の最高熟練度の数値を超えてるって話だよ」



 真剣な表情、真剣な口調で言うテラ。


 つまり、俺の強化魔法の熟練度9がおかしいってことか?



「熟練度9はもう英雄の領域、どうやってここまで」


「…………まあ、でも俺には強化魔法しかないからな。偶然に偶然が重なってそこまで上がったんじゃないか?」


「それ、本気で言ってる?」


「ああ、それに俺がやってきたことなんてたかが知れてるし、どうやって?って言われても、頭をかしげることしかできないし、でもそうか英雄の領域か、それはいいことを聞いたな」



 冷静に聞いているが実は少しうれしかったりする。

 俺の強化魔法が英雄の領域だった。それはつまり、兄さんに近づいたということ。



「やっぱり、レインは変だ」


「おお、悪口か?」


「いい意味で、でも本当に驚いた。熟練度9なんて見たの、師匠のステータス以来」


「うん?師匠?」


「あ、なんでもない。はい、返す」



 お互いに冒険者カードを返した後、テラはベットから立ち上がった。



「それじゃあ、また明日。おやすみ、レイン」


「ああ、おやすみ、テラ」



 テラが部屋を出た後、俺は灯りを消してベットで横になった。


 今日はすごく自分自身を見つめなおす日だったと思う。

 

 本当にテラと出会えて、パーティーを組めてよかったな…………それに俺の強化魔法がテラが言う限り英雄の領域だと知れたことも。


 とはいえ、まだ半信半疑。遺跡の探索、調査を終えたら、少し調べてみよう。



「まだまだ俺の知らないことがたくさんだな」



 こうして、レイン、そしてテラは明日に向けて体を休めるのであった。






 

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