第4話 魔法と冒険
あまり眠れなかった。というか健全な学生が見知らぬ女の子と同じ部屋で寝るほうが無理がある。これに関しては俺は悪くないよねぇ。
「おはよう。」
「おはよー・・・」
ユーリさんは朝に弱いのかまだ目をこすっている。
「じゃあ今日は小道具と魔法武器を試しに行こうか。」
話しているうちに目が覚めたのか水を飲みながらうなずいている。
「着替えるから出てて。」
「はいはい。」
今日は自分で部屋借りてくれよ・・・
「じゃあ行くわよ。」
昨日予約しておいたギルドの訓練場に入る。
「じゃ、魔法付与した武器試しましょう。」
片手剣に風の魔法を付与した。付与したのは『風刃』『加速』『風剣』だ。
風刃は魔力を込めて振ったら任意のタイミングで切れる刃を放つ。試してみたが切断する対象に直接刃を当ててからじゃないと切れない。うまく当たった時の崩し技だな。
加速は魔力を込めると剣身が加速する。ギリギリ制御できるが体が振り回される。逃げる時とここぞってときにしか使えないな。
風剣は風で剣の先に見えない剣を生成する。魔力を消費し続けるから取り回しが悪いけど接近戦での不意打ちに有効だな。
「うん。中々いいわね。」
「うん、『風刃』は不意打ちに使えるし、他のもタイミングの見極めが必要だけど使えそうだ。」
他にも水と氷で槍を、土と雷で剣を作った。
二属性なら魔法付与できるようだ。ただ付与した武器は壊れるまで効果が持続するから無闇に使えない。なので魔法の型の練習や攻撃系の技を覚えることにする。
次は小道具だな。
投げるように買った二束三文の安物ナイフには炎を付与してある。
俺の能力は魔力で作ったものに魔力を込めることで強化できるみたいだ。もちろん強くすればその分消費する魔力も増えるが。
なので俺は魔力を込めたナイフを投げると炎弾となって飛んでいく。これはかく乱と陽動に役に立ちそうだ。
「じゃあ魔法の練習始めるわよ。」
ユーリの合図で手のひらの上に火球を作る。まずは安定して出せるようにする。
数十分後・・・ 火球が出せなくなったので今日の訓練はお開きになった。
時刻は昼を回っている。午前中に練習しすぎたな・・・。今日はもう何もしたくない。
ギルドを出て宿に戻ろうとすると、ユーリが俺の袖を引っ張ってきた。
「どうしました?」
「手大丈夫?」
言われてみれば手首から掌にかけて全体的に痛い気がする。
「魔力腺をあまり使ってない人が急に魔法を使いすぎるとそうなるのよ。」
別に痛すぎるってこともないけど地味にズキズキして不快だ。
「はい、魔力ポーション、これ飲んで少し休んだら収まるわよ。」
「さすがに経験値が違うね。イテテ・・・」
飲んで少し時間がたつと手首の痛みが引いてきた。もう宿に戻っておとなしくしてよう。
しばらく本を読んでいると晩飯時になったので食堂に向かうとそこには既にユーリさんがいた。隣に座り夕食をとる。
「うまっ。」
「貴方何でもおいしそうに食べるわよね。」
「おいしいしね。それに食事は楽しんでするのが一番だ。」
「じゃあ食べさせてあげましょうか?」
「いや、それは遠慮しとくよ。」
何か怖いから。ユーリさんはからかうように笑っている。やめろよ、勘違いしちゃうだろ。
夕食を終えて部屋に戻るとベッドに寝転がった。ユーリさんは隣のベッドに座っている。部屋二つ借りるよりベッド二つある部屋のほうが安かった。
「ねぇ、貴方ってなんで冒険者になったの?」
「え?うーん・・・成り行きかな?」
「それだけ?もうちょっとなにかあるでしょ?」
ぶっちゃけマジに成り行きだ。異世界に飛ばされて常識なんてもんはないし知識もない、ものづくりとかは出来んこともないが時間がかかるから商売もできない。で、たまたま常人よりも力があるからそれを使って冒険者なったほうが効率がいい。
「その成り行きを教えなさいよ。」
まあそうなるよね。
「俺元々この辺の人間じゃないんだよね。」
「どこの辺なの?」
「わかんない、海で船釣りしてたら波に飲まれてね。気付いたらこの辺に居て今に至る感じ。」
まあ嘘だけど。どうせ信じてもらえないだろうし。
「へぇ・・・大変なのね。」
お?信じるんか?まあ助かるからいいや。
「だからこの辺の常識とかなくてさ、まあ今は生活できてるからいいんだけどね。」
「ふーん。」
「で、ユーリはなんで冒険者に?」
「ま、私も成り行きよ。家に居づらくなってね。」
まあ家庭の事情には深く突っ込まないで起こう。
「さ、寝ましょ。明日は起きたらすぐに出発よ。」
「はいはい。」
なんか主導権持ってかれた気がするけど・・・
初日はアレだったけどもう慣れたからか一緒の部屋でも普通に眠れそうだな。
次の日、日の出と共に目が覚めてしまった。
身支度を整え鞄の中に必要物品を詰め込む。今回の依頼終わったら整理しないとな。鞄の奥に向こうで詰め込んだのがごろごろしてたし。
「あら、早いのね。」
「誤差だろ、さっき起きたばっかだぞ俺。」
「ほら、朝ごはん食べて行くわよ。」
「あいよー。」
二人で朝食をとる。朝食はパンと野菜の入ったスープだった。野菜のスープはあんまりだった。水に肉と野菜を雑多にぶち込んで煮込んだ感じ。出汁取ってないだろアレ。
朝食を終えたのでさっさと出発することにする。朝が早かったからか宿を出るまでにほとんど人とすれ違わなかった。
町を出て森に入る。
「こうなると斥候が欲しいわね。」
「確かに、俺足遅いから斥候やろうにも難しいしな。」
「無駄にゴツイしね。痩せたら?」
「俺骨太いんだよ。あと筋肉の密度2から3倍くらいあるし。」
「そんなのどうやって知るのよ。」
「そりゃX線とか・・・」
「なによそれ。」
あ、そっかここの文化圏のレベルじゃまだないか。
「体の内側を見る技術だよ。」
「貴方の国よほど栄えてたのね。」
そんな感じで軽く会話しながらたまに会うはぐれモンスターを狩っていき2時間くらいか。
「大分深いところまできたわね。」
「うん、一旦休憩しよう。」
「そうね、さっき倒した魔猪の肉の魔素抜いて置いたから。」
魔素ってのは魔物の魔力に含まれる毒だ。経口摂取すると最悪死ぬ。この世界の人は基本的にできるらしい。教えてもらったけど難しかった。
「お、ラッキー鞄の奥に塩コショウ入ってる。」
中途半端なやつと一回しか使ってないやつと未開封のやつ。鞄の奥に突っ込んで見つからずに新しいの買ったなぁ。ミルで削るタイプの故障もあるし。
適当にパラパラ塩コショウをかけてスキレット的な奴で焼く。
できたものをユーリに出してユーリからパンをもらう。
「は?アンタこれ胡椒じゃない!?それに塩も!」
「え、うん。」
「こんな貴重なものをこんなに・・・」
あ、胡椒貴重なんだ。しまったな、配慮に欠けてた。
「まあまあ故郷からの遺産だよ。これから戦闘するんだ。これぐらい英気を養っても罰は当たらんだろ。」
この肉うま。脂が甘い。
「よし、行くか。」
休憩も終わり目的地に向けて歩を進める。
「お、アレじゃね?」
「そうね、じゃあ私が魔法で広範囲に攻撃して逃げ道ふさぐからアンタ取りこぼしお願い。」
「はいよ。」
ユーリが空に向かい魔法を放つ。炎の魔法が曲線を描き落ちていく。
「ぐおぉぉぉぉ!!!!」
お、当たり始めた。そろそろか。
剣を抜き魔法で加速して突っ込む。
数体のゴブリンの首を刎ねてから周りを確認する。一匹だけデケェゴブリンがいる。
「うーわ、何だあれ。」
「ゴブリンキングね。報告にはなかったけど・・・大丈夫?」
「やらなきゃ死ぬでしょ。」
「それもそうね。」
剣を握り直し、構える。俺が深呼吸をすると同時にゴブリンキングが突っ込んでくる。
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