花のごとく、風のごとく(四)
「それで、今後のことですが」
謝罪と儀礼的なやりとりが一段落したところで、おもむろに
「まず、兄君の身柄は、このまま我らが預からせていただきます。どのような処遇となるかは……」
言葉を濁す舅に、静蘭は「はい」と再び平伏した。
「当家の罪の重さは承知しております」
県令の地位にありながら、私欲のために賊と通じ、味方を売った。その罪はおよそ許されることではない。兄への処罰はもとより、累は黄氏全体に及ぶだろう。
「わたくしのご処分も、どうぞいかようにも」
「まあ、そう話を急ぎなさるな」
頭をあげてくれと身ぶりで示す舅の右腕に、白い布が巻かれている。莫軍の襲撃を受けた際に、矢傷を負ったのだと静蘭は聞いていた。重傷を負い、敗走したと見せかけて、別の一隊と息を合わせて敵を挟撃、殲滅したのだと、昨夜の若者は淡々と語っていたものである。
「たしかに、本来ならばあなたも捕らえてしかるべきでしょう。ですが、こたびは事がちと複雑でしてな。ことに――」
すうと細められた舅の両眼に、獰猛な光が一瞬よぎる。
「泰州総兵閣下とは、いろいろと話をせねばならぬでしょうしなあ」
頬をゆがめて笑う舅の前で、静蘭は黙って目を伏せた。夫に刃物を突きつけられ、兄が明かした官名。あれが狂乱のあまり口走った偽りではなかったことを、静蘭はあらためて確信した。
決して、と静蘭は己に言い聞かせた。これは決して口外してはならぬことだと。連城のみならず泰州全土を揺るがしかねない、途方もない企みに対し、この舅はいずれしかるべき決着をつけるだろう。その日まで、静蘭はこの秘密を胸のうちにおさめておくつもりだった。
なに、もとより得意なのだ。目を閉ざし、耳をふさぎ、言葉の代わりに微笑みで唇を封じることは。
「要するに、いまはあまり騒ぎにしたくないのです。我らが黄家の方々を一斉に処断しようものなら、否応なしに世間の目も集まりましょう。今後の交渉のためにも、ご当主は我らの手元に置かせていただくが、あなたに関しては……」
舅は曖昧に笑ってあごをなでた。
「失礼ながら、どうしたらよいものか、持て余しておりまして」
そこで、と舅は心もち身を乗り出した。悪だくみを持ちかけるように、にいと口の端をつりあげる。
「ここはひとつ、行方をくらませてはもらえませぬか」
「え……」
思いもよらぬ申し出に、静蘭はあっけにとられて舅を見つめた。
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