8話


 ある日、柴田が突然、仙台へ転勤となったと言い出した。

「1年ということなんだ。どうする、君もいくかい?」まるで一人で行きたがっているような口ぶりだった。

「そうね・・・・・」彼女は考えた。

「まだ子供もできないし、独身生活に戻れる最後のチャンスかもしれない」

 それは柴田の胸中と一致していたのだった。

 結局、二人は柴田が1年仙台へ単身赴任をするということで、意見はあっさり一致したのだった。


 1か月に1回は帰ってくるという、条件付きだったが、彼女はそんな条件はどうでもよかった。

 仙台の転勤には部下の初美も一緒だった。

 もう一人、若い男がいたが、柴田は、それが誰なのか、知らなかった。名前すら聞いたことがなかったのだった。


 ある日、柴田は会社で初美に声をかけた。

「どうだい、仙台にもそろそろなれただろう」

「でも、一人暮らしは初めてですから」初美は、はにかむ様に言った。

 彼女は新卒だった。ビキニの似合いそうな、スタイルのいい、洋画的な美人だった。

 柴田が笑いながら言った。

「すぐに、いい人が見つかるよ。会社にだって、若いのがいっぱいいるじゃないか」

「結婚は、もう少し後かなと思ってます」少し照れたように初美は言った。

 そんな初美を、柴田は、かわいらしくも、美しくも感じていた。

 その日、初美は少し、二日酔いを感じながら、朝食をとっていた。

 昨日、初美は、友人の同僚、幸子と飲みに出て行ったのだった。


 初美は居酒屋で幸子が言った言葉を思い出していた。

「初美、柴田課長に、声をかけてみたら?」

幸子が言ったのだった。

「柴田課長に・・・。悪くないかもしれないな・・・。」初美は思った。

 そして、ある日、事務所の中は、残業で残っていた、初美と柴田の二人だけだった。

 それを見た初美は、「今日だ・・・」、そう思ったのだった。

 事務所にある段ボールあれを利用して課長と二人で倉庫に入ろう。

「そうすれば後は・・・。」初美は思った。

 そして、初美は柴田に声をかけた。

「課長、すいません。事務所の段ボール運ぶの手伝ってくれませんか」

 初美が切なげな声で言った。

「これから運ぶのかい?」柴田が面倒くさそうに聞いた。

「今日中にやる様に言われてるんです」初美がより切なげに言った。

 柴田はやれやれと思いながら、腰を上げた。

「何所へ運ぶんだい」

「地下の倉庫です」


 そして、段ボールを手分けして、二人で持ち、地下の倉庫へ向かった。

 柴田は、初美が企んでいる事に気づきもしなかった。

 そしてエレベータに乗り二人で地下に向かった。

 初美が地下の倉庫のカギを、ガチャリと開け、二人で中に入っていった。

 二人で手分けして、段ボールを所定の場所に置き

「これで終わりかい」柴田が聞くと

「いいえ、これからなんです」

 初美は倉庫のドアを、閉め再びガチャリと音のするようにカギをかけた。

「何をするんだ」柴田は驚いて初美に言った。

「これからなんです、課長」


 そう言って柴田を真直ぐに力強く見つめた。

 そのまなざしは柴田に静かに語りかけてくるようだった。

「お願い課長、私を抱いて」

 初美はしっかりとした口調で言った。


 柴田は驚いて何も言えなかった。

 彼は思った。そして迷った、確かにこの子の若さは輝いている。

 女性として一番輝いている時期にあるのかもしれない。

 彼はそう思い、迷い、そして思った。

「簡単なことだ、抱きしめてあげればいいのだ、彼女の求めるままに。」


 その時の、彼の胸中に圭子はいなかった。

 そして、柴田は目をつむり、ゆっくりと彼女に近づき、彼女をあたかく抱きしめた。

 柴田は言った。

「高田さん、二人だけの秘密だよ」そう言って、柴田は、彼女を力強く、抱きしめた。

 彼女は、柔らかかった。

 その柔らかさは柴田にとって懐かしく、新鮮な、柔らかさだった。

 二人は激しく口づけると、無造作に衣類を脱いだ。

 結局、二人は時々、外で会い、喜びを分かち合う中になったのだった。

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