ハシボソガラス(イソヒヨドリの町でー3)

佐藤宇佳子

【プロローグ】

 とろりと赤い陽光がレースのカーテンを透かして部屋の中をぼんやり照らしている。ベッドの上に体を投げ出すように横たわった青年が見るともなしに天井の木目をなぞっている。ふと右手を伸ばすと、ベッドのみやをさぐり、写真立てを取る。

 悠然と背筋を伸ばして微笑む大柄な少年、茫洋としたまなざしの小柄な少年、そして彼らの間ではじけるような笑みを浮かべる三つ編みの少女。三人とも白い弓道着を着て黒い袴をはき、胸の前で賞状を掲げている。当然のように、逃げ出したそうに、誇らしげに。

 如月のしんとした部屋を満たす物憂い赤光しゃっこうが写真に閉じ込められた無垢な一瞬からの時のながれをいやおうでも感じさせる。

 しばらく無言で写真を見つめていた青年は、大きくため息をつくとベッドの上に写真立てを伏せ、目を閉じる。

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