第2話 若すぎる死
私の内気な友人、荻原真一は彼なりに努力はしたらしい。露木愛の熱烈なる求愛になんとか応えようとしたようだ。実は彼も露木愛に一目惚れしていたのだ。しかし残念ながらやはり上手くいかない。メールやLINEには反応してどうにか返信したが、それは彼女にとって満足のいくものではなかった。「真一さんに会いたい」と願う天下の美女露木愛。
私は世話のやける友人に半ば呆れながら、彼女を食事にでも誘えとアドバイスした。ところがあまり酒も飲めない朴念仁の真一はなかなか行動に移れなかった。私は気長に待つよう露木愛に伝えたが、憔悴しきった彼女は涙を浮かべ黙ってしまう。彼女の願いはただ一つ、荻原真一に会うことだった。
私は気の毒に感じながらも、彼女の情念にはいささか困惑した。とにかく荻原真一という男に会いたいという一念に取りつかれているようなのだ。
荻原真一とて立派な大人である。しかし如何せん女性に対しての経験がなさ過ぎた。男の私から見ても彼はなかなかの美男子でいわゆるイケメンなのだが、これが逆に災いしてしまったようだ。女性から見ると近づきがたい存在と写ってしまうらしい。おまけに彼の内気な性格も手伝ってしまい女性との交際には至らなかったのである。
私は、露木愛と荻原真一の関係についてもどかしい思いをしながらも、見守っていくつもりだった。彼女の一途な熱い想いをさっさと受け止めろと考える一方、何か不吉な危うさを感じていた。露木愛の病的な美しさと異常なまでの思慕の感情。荻原真一の優柔不断さがさらに彼女の恋の炎を燃え上がらせたのだ。
なぜか私は不思議な胸騒ぎを覚えた。
私の不安は的中してしまった。何と露木愛が自宅で倒れ入院したのだ。しかも意識不明の重体となり集中治療室に運び込まれた。医師も首をかしげる原因不明の高熱が続き予断を許さぬ状況となった。
病室は面会謝絶のため私も見舞うことができなかった。せめて荻原真一に会わせてやりたかったがそれもかなわぬ。私は祈るような気持ちだった。
実は彼女、一時的に意識が戻ったのだが、発した言葉は「真一さんに会いたい」だったそうだ。しかし残念にも再び昏睡状態に陥り危険な状況になってしまった。医師にも原因が分からずお手上げだったようだ。もはや私も荻原真一もどうすることもできない。私がもう少し早く二人を会わせてやれば良かったのかもしれない。
とにかく皆一刻も早い回復を願った。その暁には真一の首に縄をつけてでも露木愛に会わせるつもりだったし、真一自身彼女とデートでも何でもすると誓っていた。
しかし、しかしながら状況は好転せず、最悪の事態を招くことになった。
その日、露木愛は静かに息をひきとった。私たちの願いはかなわず彼女は旅立ってしまったのである。あまりにも若い、若すぎる。誰もが信じられない悲運だった。
だが彼女はこの世に強い未練を残していた。そして悲劇と怪異の幕が上がり、露木愛と荻原真一の物語は恐怖の展開を迎える。暗黒の深淵から忍び寄る狂気は筆舌に尽くしがたい事件を巻き起こした。
私は今でも信じられない。荻原真一を襲ったあのようなおぞましい現象は本当に現実だったのか。露木愛の想像を絶する異常な情念。あまりにも哀しく怖ろしい愛の執念。私は思う。彼らは果たして幸せになったのだろうか。
さて露木愛の葬儀はつつがなく終了したが、これは異様きわまりない出来事の始まりであった……。
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