元パーティメンバーに贈る花言葉
赤ひげ
1章 別れと出会い
第1話 凱旋
「クロム……もしかして討伐の手柄一緒に受け取ろうなんて思ってないよな? あ~あとあのガラクタ置き場のゴミも捨てるなりしておいてくれな?」
「さすがにそれは図々しいというものです。クロム様にも恥という感覚が備わっているのなら人知れず去ってくれると思うので心配はしていませんが……」
「――ってか、いつまで付いてくるの~? もう厄災も倒したんだし~人形作家という名の荷物持ちとか~もういらないっしょ?」
「それじゃ……クロム。お世話になった……のかな……? ん~まぁ、どちらでもいいけど……さよなら……」
パーティメンバーとの最後の会話だ。
素直な気持ちを言わせてもらえば……理解ができなかった。
いや――理解をしたくなかった。
国は厄災と恐れられた魔物を退治するために、討伐者を募集した。
何百ものパーティが結成され、ボクたちもその中の一つだった。
名をあげたい。
討伐報酬で儲けたい。
散った仲間の復讐をしたい。
想いは様々だけど、各々が秘めた目的のために組んだ仲間たちだったはずだ。
いくつものパーティが厄災に挑み蹂躙されたのか。
もう数えることができないほどの屍の山が築かれた頃。
ボクたちはついに厄災の討伐を達成した。
後は王都に堂々の凱旋を果たし、あわよくば歴史に名を刻むことさえ可能な偉業を達成したはずだったんだ。
そこでまさか……追放されるなんてね。
討伐までそんな素振りを一切見せることもないすごいやつらだよ。
討伐後にじょじょに本性が現れたのか、報酬の分配が惜しくなったのか……結局、凱旋を果たす前にサヨナラだ。
討伐者よりも演者のほうが向いてるんじゃないか?
――というか、それなら途中で追放してくれよ……
いや……それなら最初から……――声を掛けてくるなよッ!
「くっそ……なんだよあいつら……しかもボクは荷物持ちじゃないッ! 『人形作家』だ!」
思い出すだけで頭の中がぐつぐつと茹っていることを衝動と共に自覚する。
表面上だけじゃなく信頼できると思っていたのはどうやらボクだけだったみたいだ……
そもそも、それなら『人形』の整備代を払えよ……安い道具を使ってるわけじゃないんだぞ……仲間だと思ってたから……今までの蓄えから……
それも計算の内……か。
「ダメだダメだ……もう気分を切り替えろ……ッ!」
引きずってもボクに得はない。
むしろここからボクが這い上がって有名になることが……――やつらへの復讐にもなるんだ。
あえてボクは言葉にした上で自分の頬を何度も叩き、そう自分に言い聞かせた。
それに戦っても勝てないしね……
強い人形でも作れれば話は別だけど。
あいつらはもう国に戻って英雄扱いだろう。
でも……ボクにだって考えがある。
ボクたちは妖魔の支配地域に入るために、国から認可されたパーティだった。
そして。
認可されたパーティは結成したメンバー全員の名が記される。
ボクが死んだ、とかいい加減なことを報告したところでボクはボク自身を証明することができる以上、無意味な行為だ。
元々ボクは人形作りの盛んな国へ行くために、この厄災討伐パーティに加わったんだ。
他の国へ渡るには信頼を証明しなければいけないからね。
どこの国だって身分が怪しいやつを表立って受け入れてくれるわけもない。
でも、今なら……厄災と呼ばれた妖魔を退治した。という揺るがない信頼があれば引く手あまた……とは言わないけど迎え入れてもらえるはずだ。
王に仕えてる人形作家も国外から来て成り上がった人だと聞いたことがある。やっぱり色々な国を巡って知識を吸収しながら自分にあった土地を探すべきだ。
だから。
ボクはこの功績で、国を出る。
そして旅先の国で……――成り上がってみせる。
「やっと……王都が見えてきた……な……長かったぁ~……もうパレードとかしてるのかなぁ……」
あいつらと別れて十日以上経っている。
追放後にしばらくあてもなく彷徨っていたこともあって、凱旋のタイミングがかなり遅れたことは分かってる。
前衛の『ジーク』や『リア』、攻撃系の法術家『チケ』とか防御系の法術家『モネ』……ようは後衛職。
その中でもボクは職業上、体力は一番あった。
補助系の法術家という括りとはいえ、人形作家として体力は必要不可欠だからだ。
とは言っても、さすがにジークたちよりも四、五日は遅れてると思う。
「いや――気にするな……これからの功績で後悔させてやればいいんだ……! むしろボクの人形作家としての目標――『竜』を造形して見返してやれば……ッ!」
とりあえずそれまでは顔を合わせるのも嫌だし、こっそり王都に帰ろうと思う。
ボクがここまでして王都に帰っているのは二つの理由がある。
一つ目はもちろん討伐の証明をもらうためだ。これがないと国から正式に出ることができない。
そしてもう一つボクにとって一番大切な……人形作家として作った作品たちを引き取らないといけないためだ。
ジークのやつ、ガラクタとか言いやがって……そりゃ巨匠たちの傑作に比べれば……いや、まだ店売りと同じくらいだけど、いや、ちょっとまだ店売りの基準にも達していないかもだけど……言い方ってものがあるだろ。
「あんまり通りたくないけど……南門から行くか……」
王都の南側は負の側面が詰まった地域だ。
言うなればスラム街。
言うなればゴミ捨て場。
罪を犯した者が逃げ込む場所であり、王都の法に背いて処罰された者が裁かれた末に辿り着く場所でもある。
過去にも王都転覆を企てた一味が、全員揃って首を括られて吊り下げられていた。
その光景を見てから数週間、肉を食べることができなかったほどには衝撃的だったこともはっきり覚えている。
南門から入ったとはいえ、王都じたいもっと賑やかな雰囲気かと思っていたけど、そうでもない。
むしろずっと早くジークたちが到着してもう賑やかな時期は過ぎてしまったのだろうか。
「よし……後はこのゴミ山を迂回すればすぐ……?」
人だかりを目に留めてしまった。
あれは新しく処罰された者を見に集まった野次馬の群れだとすぐに理解できる。
怖いもの見たさという好奇心で見るようなものじゃない。ということはたしかなんだけど……遠目から見るくらいなら。
少しだけ。ほんの少しだけ人だかりの先に視線を向けて見た。
その行動が正しかったのか――
それとも間違いだったのか――
「………………?」
新しく処罰された者たちは、斬首とされたのだろう。
煌びやかな装飾が施された台の上にその首を晒している。
スラムでありながらその装飾を盗む者がいないことからも、王都の力が暗に示されているような気がした。
首だけという状況を除けば、眠っていると見間違えるほどに綺麗な顔をしている。
もしかしたら長く晒すために加工も施しているのかもしれない。
そんなことを無意味に考えてしまうほどに――
頭は空白を刻む隙間がないほどに、ありとあらゆる可能性を探していた。
それでも――
ジークたちが
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