第10話 裏切り者
「ふむ……」
「どうだ、フリューゲル」
「完全に黒だ。ほんのりとだが、精神支配の魔法の痕跡を感じる」
その後、特訓を早めに切り上げて帰った二人。今日は部屋から出ないようにローゼスにしっかりと言い聞かせたルカ。明日何故かおで迎えをしないといけなくなってしまったが、大人しくさせるにはそれも必要経費と自分に言い聞かせた。
学園が休みとなれば、普段フリューゲルがいるのは家なので、帰宅して直ぐにオーガから切り取った角を調べるように頼んだ。
結果は真っ黒。想像通り、これを仕掛けたのは
「しかし、魔法か……」
「これで、奴らには魔女の支援があることが判明したな。薄々気づいてはいたが、中々厄介だな」
「知っているやつか?」
「いや、この魔力は知らないな。そもそも、私みたいに暇だからと人前に出ている方が珍しいんだ」
本来、魔女というのは自分にしか興味がなく、研究のために一生を費やす人種だ。そのため、人前に姿を表さず、誰も寄り付かない絶海の孤島や、森の奥や、山の頂上とかに住んでいるケースが殆どだ。
「少し、個人的に私の方でも調べておこう。わざわざ戦争を起こそうとしているヤツらに付いているんだ。ろくな奴では無いだろうな」
「あぁ、あとついでに二つほど頼み事がある」
「ふむ」
ズイ、とフリューゲルが隣に座っているルカへと詰め寄る。
「ルカ、お前は少し私という存在を甘くみているんじゃないか?魔女は本来、気まぐれで気安く頼み事なんて聞かないような────」
「普段、誰がお前の面倒を見ていると思っている」
「────なんだ?お前の頼みなら、快く引き受けてやろう」
手のひらくるっくるである。
「明日、俺とローゼスは授業を休む。彼女の近くに潜む、お邪魔虫を炙り出さないといけないのでね」
「ふむ……まぁそれならいいだろう。公休扱いにしてやる。それで?」
「ローゼスの執事の捜索を頼みたい」
テロ組織の奴らが、正直に居場所を吐くとは思えない。既に手遅れの場合も考えて、フリューゲルの力を借りておきたい。
そうしておけば、ルカは明日捕縛だけに力を入れることが出来る。
「いいだろう。他ならぬお前の頼みだからな」
「さっき、魔女がどうたらとか言いかけてたくせに?」
「ばかもの。あんなのは冗談だよ」
とん、とフリューゲルはルカの胸を突く。
「お前の頼みなら、どんなものでも引き受けてやる。気に入った弱み、というやつだ」
パチン、とお茶目にウインクをかますのだった。
「おはようございますルカさん。お出迎え、ありがとうございます」
「……うん、昨日はちゃんと大人しくしていたようで何より」
次の日、約束通りローゼスが住んでいる寮まで出迎えをしたルカ。元気そうな姿を見て、昨日の疲れが全然残っていないこと確認した。
「歩きながら聞いてくれ。決して、オーバーな反応はするな。奴らに勘づかれる」
「分かりました」
さりげなく、ローゼスの半歩前を歩き、いつでも対処できるように警戒を行う。今のところ、こちらを見るような視線は無し。
「今日、フリューゲルに頼み込んで俺とローゼスは公休扱いにしてもらった。潜んでいる奴を炙り出す」
「……分かりました。授業を休むのは少し心苦しいですが」
「念の為に、学園の中に入るが、入ったあとはこれを使う」
「それは……巻物?」
ローゼスにしか見えないように、懐から緑色の巻物を取り出したルカ。
「スクロールと言って、フリューゲルの魔法がこの中に保存されている……らしい。詳しい理論は知らんが、これで透明になって、使用人寮へと突撃するぞ」
貴族や王族は、執事やメイドを連れてこの学園に入学する人もいる。
ローゼスもそうだが、大抵は親が一人暮らしを心配して、自分がいけない代わりに、使用人らに身の回りの世話をさせる。例えば、授業中の部屋の掃除をしたり、休日にはご飯を作ったり。
(ふぅー、今日で執事の真似事も終わりか。キツかったぜー)
ローゼスの執事にすり替わっていた、
(あの男、バケモン過ぎだろ。ぶっちゃけ撤退とか無視して戦いてぇが、暴れられないように精神縛られてるしな、早いうちに、マダムにこの魔法を解いて────)
「あら、どこに行こうと言うのかしら?」
「………っ!お、お嬢様!?」
荷物をまとめていた構成員に、フリューゲルの魔法で隠れていたローゼスが声を掛ける。
「ど、どうしたのでしょう?この時間帯は授業中────」
「下手な芝居はよしなさいな。単刀直入に聞くわ。
「………………」
「正体を表しなさい。あなた、元の執事をどこへやったの」
「………はぁー、バレちまったら……仕方ねぇな!」
「!」
執事服を脱ぎさり、全身をローブで隠した男と対峙する。柄へと手を伸ばす。
「おっと!戦う気なんて俺でも残念だがないぜ!あのバケモンが居ないうちに、撤退を────」
「させると思ったか?ド三流」
「────あ?」
スパン、と煙幕玉を振り落とそうとしていた右手が斬られる。ギリギリまで隠れていたルカが、逃がさないように首に鞘付き剣を当てた。
「吐け。彼女の従者をどこにやった」
「…………チッ」
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