第11話 つかの間の日常

「もう一度聞きます。あなた、元の執事をどこにやったの?」


「ハッ、そう簡単に教えると思うか?お嬢さんよ」


「別にいいたくなければいいぞ。裏ではフリューゲルが動いてるし、見つかるのも時間の問題だ。その時はお前の首が今ここで飛ぶだけだが」


「おいおい、そりゃちょっと勘弁だぜ?俺はまだまだこの世界を堪能してないんだ。最後が精神を支配されたままってのも嫌だぜ?俺は」


 死ぬんなら、戦いの中で死にてぇぜ。と首に剣を当てられているのに余裕の態度を崩さない男。その事に疑問を覚えながらも、ゆっくりと剣を首に沈み込ませていく。


「待て待て!言う言う!だから殺そうとするのはやめろ!」


「早くしろ。俺と、ローゼスの気が変わらないうちにな」


「だが条件がある。俺をここから逃がすことだ」


「飲むと思うか?」


「いいや、飲むさ。そうじゃないと、そこの大事なお嬢さんの執事が死ぬぜ?」


「なっ!?」


「…………」


 どういう事だ?という意味を込めてルカが首を叩く。


「あの執事には、マダムから呪いが掛けられている。俺が死ぬと、それが発動してあの男も死ぬようになっている」


「あ、あなたっ……!」


「俺たちは、戦いと金の為ならばどんな手段もとるテロ組織だぜ?その位は余裕でするさ」


「……………仕方ないか」


 人質を取られているのなら仕方がない。魔女が掛けた呪いということであるならば、フリューゲルとて解呪するのは難しい。発見の報告を待ってもいいが、執事の様態も気になる。ルカはゆっくりと剣を下ろした。


「へへっ、話が分かる剣士で良かったぜ。執事がいる場所は、この学園敷地内にある倉庫だ。確か、スコップとか置いてあったからそこら辺探せばいるんでねーの?じゃあな、次会うときは本気で殺りあおーな」


「約束しろよ。ちゃんと呪いは解除しておけ────でないと、すぐにでもお前らのアジトに潜り込んで殲滅してやるからな」


「うお怖……いや、本気でできそうな気がするからマジで怖ぇな……」


 最後にボソッと何かを言いながら、窓から退散していく男。連絡を取るために『通信機』なるものを事前に受け取っていたルカ。フリューゲルへ連絡を飛ばす。


「フリューゲル、情報が来たぞ。倉庫だそうだ。恐らく、校庭近くの小屋だ」


『なるほど、了解した。すぐに行く』


「……セテスは大丈夫でしょうか」


「大丈夫、というのを信じるしかないだろう。嘘だったら今から追いかけて斬る」


 まだ、男の気配は追えている。今からならば、充分に追いついて斬ることは可能だ。


「とりあえず、これで当分安全だろう。監視も俺がいるから迂闊には行わないはずだ」


「でしたらいいのですけれど………」







 その後、フリューゲルがローゼスの執事を無事に見つけた。死なないようにされていたとはいえ、拘束されていたので、随分体が弱っていたこともあり、フィルヴィス家へ療養のために帰っていった。


 念の為に、そのままルカは夜までローゼスの部屋で護衛をしていたが、何も起きなかったため、一旦の落ち着きは見せた。と考えても良さそうである。


「………ルカ、授業中なのだから、寝てはダメよ」


「フリューゲルから許可は貰っている。気にするな」


「それはそれで気になるのですけど……」


 次の日、普通に授業に出た二人。今まで無関係だった二人が、急に授業中に話し────あまつには、親しげにローゼスが名前で呼んでいることから更に注目を集める。またまたぁ、と寝ているルカを見ていたアーノルドも、これには「ほぅ」と驚いていた。


 ちなみに、名前呼びになっているのは、ローゼスからそう呼びたいと言われたからだ。どういうことかはルカには全く見当もつかなかったが、別に呼び方になんらこだわりのないので許可した。


「もう、戦う時はあんなにかっこいいですのに、どうして普段はこんな────」


「ん?今何か聞き逃せないような言葉が聞こえたような」


「殿下はお黙りくださいませ」


「おぐっ!?」


「……何してんだお前」


「くっ……しっかりと見えないようにやってたか……」


 ルカ視点だと、急に腹を抑えてうずくまったように見えた。ちゃっかりしてる、と思いながらもまぁ無神経だったかと心の中で反省。


 もう乙女心には踏み込まないようにしよう。


「退屈でしたら、わたくしに稽古を付けませんか?修行の一貫ということで」


「却下」


「なぜですの」


「依頼は依頼だ。それは仕方ないとしても、君にはできるだけ綺麗なままでいて欲しいからだ。あまり、その剣を汚すべきではない」


「……へ、あぁ……そういう意味ですの……」


(こ、この人は一々言い方が心臓に悪いですわ!)


「へぇ、君が剣を教えているのは本当だったんだ?なら、僕にもどうだい?彼女がダメなら────」


「はぁ?寝言は寝て言えなんちゃって王子。お前が覚える意味ねぇだろうがよ」


「なんちゃっては辞めてくれないか????」


「……むぅ」


 仲が良さそうに話す二人を見て、なんとなく胸がもやもやっとするローゼス。


「もう殿下!ルカはわたくしの師匠なのです!あまり親しくしないでくださいませ!」


「なぜ!?僕とルカは友達だよ!このくらい話してもいいじゃないか!」


「……………………え、俺とお前って友達だったの?」


「それはそれで酷くないかい!?」

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