第8話 異常遭遇
「意外と強かだなローゼス。魔物とはいえ生き物だぞ?もうちょっと躊躇いがあるかと思ったが」
「わたくしが今まで何回下手人を追い返したと思ってますの。腕くらいならば自衛で斬ったことはあります——嫌な慣れ、ですわね」
ハイライトが消えていくローゼスに対し、慰めるようにポンッと背中を優しく叩いた。
あれから、森の中を歩き続け、ゴブリンが現れては心臓を一突き。ゴブリンが現れては心臓を一突きを繰り返しを軽く三桁程繰り返したところ、きゅるるるる~と可愛らしい音が聞こえた。
何事かと思えば、ローゼスが若干頬を赤くして、お腹を抑えていた。どうやら、そういうことらしい。
「………忘れてくださいまし」
「……まぁ、あれだけ動けば腹も減るか。昼ごはんにしよう」
「忘れてくださいまし!忘れてくださいましっ!」
ペシペシ、と背中を叩きながらルカの後を付いていくローゼス。ルカはカラカラと笑いながら、入口へと戻るのだった。
戻る際に現れるゴブリンは、ルカが一瞬にして斬り、行きよりも早い時間で入口まで戻ってきた。ルカ達が戻ってきたのを視認した馬は、どっこいせと立ち上がると、トコトコと二人の元に向かった。
「よしよし、荷物は無事か?」
「ひひん」
フンス、と鼻を鳴らしたあと、トコトコと荷物が置いてある場所まで行き、口で咥えてまたもや戻ってくる。
「今朝から思ってはいましたけど、賢いのですね」
「フリューゲルが魔法を掛けてるらしい。どんな魔法かは知らんが」
「ぶひん、ぶるぶる」
「おっと、はいはい。お前も腹減ったな。飯にしような」
手綱を引き、見晴らしのいい、近くに小川のある場所に移動して腰を下ろす。
「一応聞いとくけど、食べれないものとかないか?」
「ありませんわ。幼少期から、好き嫌いはしないように教え込まれましたから」
「………だよな。なら良かった────口に合うかは知らんが、遠慮なくどうぞ」
「────わぁ!」
荷物の正体は、ルカが今朝早起きして作ったサンドイッチだった。
「これ、全てルカさんが?」
「俺の同居人のフリューゲルは、魔女だしミステリアスだから完璧超人だと世間から思われているようだが────アイツ、私生活クソズボラだぞ」
一緒に過ごして早12年。元々、ルカは家事などは前世含めて全然できなかった人なのだが、フリューゲルがあまりにも私生活がズボラだっため、料理掃除洗濯などなど前世ではやる機会すらなかった家事をやらなければならなかった。
そうしないと、フリューゲルはおろか幼いルカはこのままだと死ぬと直感的に思ったため。
「俺が家事をやらないとな────すぐ、部屋が汚くなるし、飯も食おうとしないんだ」
「………そ、それは大変でしたわね……はむっ」
ハイライトが消えていくルカを横目に、パクリと一口。
「………美味しいですわ」
「なら良かった。人に食べさせるなんて、フリューゲル以外だと、ローゼスが初めてだからな」
「おい、準備は?」
「滞りなく。なんなら、すぐにでも放てますが」
「なら良し────ヤツをターゲットに放て」
「────ひひん?」
「────っ!!」
何かの気配を、馬とルカが同時にこちらへと向かってくる気配を感知。ルカはすぐに剣をとり、いつでも斬れる準備。馬は耳を引き絞り、まえかきをして威嚇をしていた。
ローゼスも、ハッキリとした気配は感じないものの、『何かが来る』という今までに襲われたなんとも悲しい経験から、臨戦態勢に。
「あれは────」
「オーガ、ですわね」
森の中から、木を薙ぎ倒すように出てきたのは、体躯がおよそ3mほどある『オーガ』という魔物だ。
赤い皮膚と、額からは立派な角が二本生えており、その体は筋骨隆々。筋肉が盾となり、生半可な攻撃は通さず、その筋力から繰り出される一撃は、一般人だったら風圧で体が引きちぎれるだろう。
「なぜこんな所に……!」
「考えんのは後だ。まずは動きを止める」
殺気を飛ばす。前回、ローゼスにやったようにルカは殺気だけでオーガに擬似的な死を経験させる。首、心臓、四肢と幻ながらも斬り落とされたオーガは、悲鳴を上げ動きを────
「……………………」
────止めるはずだった。
「ム?」
「ガァァァァァ!!!」
(確かに斬った。知性がなくとも、本能で死んだとは感じるはず……キナ臭いな)
「ぶるるん!」
「待て。流石にお前は相手にならんぞ」
「ひひん………」
馬が果敢に嘶き、戦闘態勢に入る。ただし、いくら賢いと言っても、身体能力の差で普通に負ける。
今のオーガからは、理性を感じない。ルカは、視線から誰を狙っているかを予想する。
(………まぁローゼスだよな。ということは、恐らくバックにいるのは
「飛べ」
ローゼスへと向かう進路へと立ち塞がり、突進してくるオーガを蹴っ飛ばす。
「えぇ………」
「フリューゲルに調べてもらおう。十中八九奴らの仕業だとは思うが」
ということで、サクッと殺して、体の一部分だけ持って帰ろうと、立ち上がりかけているオーガへ向かって剣を振り上げる。だがしかし、その腕をローゼスが掴んでとめた。
「待ってくださいまし。一度、どれだけ通用するか試させて貰えませんか?」
「……ハッキリ言うぞ。勝負にならない。君の実力では、あのオーガの筋肉を突き破れないぞ」
「えぇ、分かっております。ですから、どうしてもあなたが危険と判断したならば、止めてくださいな」
綺麗な碧色の瞳が、ルカを見つめる。
「………はぁ、分かった。一度決めたことは、テコでも曲げないもんな」
「えぇ。わたくしのことを分かってくれているようで、何よりですわ」
「無理と思ったら、すぐに引くんだぞ」
「お任せくださいませ」
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