第7話 郊外トレーニング

(……ちょっとでも期待したわたくしが、バカみたいではありませんの)


 ルカとの約束した週末前日の夜。ぷくー、と誰が見てる訳でもないのに、あざとく頬を膨らませ、ベッドへと横になる。


(べ、別に……あの瞬間だけで好きになった訳ではありません。そこまでチョロくなった覚えはわたくしありませんことよ。……でも、今まで出会ってきたどの殿方よりも、気になっていることは本当)


 過去を見渡しても、学園中の男を見渡しても、現在ローゼスが一番関心があるのはルカだろう。それだけは胸を張って言える。助けられた日のことは、目を閉じると昨日の事のように思い出すことができるし、ほのかに鼓動が早まる。


(……わたくし、どうなってしまうのでしょうか)


 ゆっくりと目を閉じる。明日は、ルカとの郊外トレーニングだ。ちょ~~~っとローゼスが想像していたお誘いより、どことなく血なまぐさいが、それでも楽しみなものは楽しみである。


「おはようございます師匠。良い朝ですね」


「ん、おはようローゼス。ほーら、よしよし」


 次の日、十分な睡眠と、ちょっとしたお洒落もして集合場所へとやってきたローゼス。今日のルカ達のように、国の外に出るような用事がある生徒たちのために、学園は十分に人に懐いた馬が何頭か飼育されている。


 馬小屋には、既にルカがおり、今日騎乗予定の馬を優しく撫でていた。


「ぶひん」


「……わたくし、馬に乗ったことがないのですが、大丈夫でしょうか」


「そうなのか?ちょっと意外だ」


 ルカ的には、前世の友人による影響も含め、普通に乗馬の方法も教えて貰っているものだと思っていた。


「えぇ。馬に乗るより、自分の身を守るのに精一杯でしたから」


「よし、この話はやめよう」


 流石のルカでも、この話題が地雷だと言うのは分かったので、話をぶった斬ることに。べチン、と馬が軽くルカを小突いたので、よしよしと撫でる。


「それじゃ、行こうか。ローゼスは俺の前に」


「分かりましたわ」


 よろしく、と声をかけてジャンプをしてそのまま跨るルカ。ローゼスへと右手を伸ばし、しっかりと手を握ったのを確認し、ローゼスのジャンプに合わせて、左手をお腹へと添える。


「んっ……」


「くすぐったいと思うけど、ガマンな。手は手綱を握って……そう……OK。背中ももっと俺に預けて……よし、意外と揺れるから、ちょっと心構えもしておいてくれ。出発するぞ」


 足で軽く横腹辺りを押すと、合図を認識した馬が嘶いてから軽く走り出した。


「改めて今日の予定を確認するぞ。ちゃんとお付きの人には知らせているか?」


「え、えぇ。執事には今日のことは予め伝えているから、起きて慌てることはないと思いますわ」


「ならよし────今日主に相手をするのはゴブリンだ」


 今回、ローゼスの特訓相手として選ばれた魔物は、小さくはあるが、大体人間と同じ身体構造をしている『ゴブリン』である。


 斬りやすい、弱い、バカと三拍子揃ったこの魔物は、下手をすれば子供でも倒せるくらい弱い。


「急所を斬る、という感覚を掴むため……でしたわよね?」


「あぁ。身体構造が人間に酷似しているゴブリンは、今回最適と言えるだろう。斬って斬って、とりあえずは型も使っていいから、一撃で殺すことに重点を置こう」


 馬を走らせること30分、特にアクシデントも起こることなく、近辺の森にたどり着いた。


 この辺は、強い魔物がでることはなく、いるとしても先程言っていたゴブリンや、スライムといった雑魚ばかり。人はそんなに行き来しない国近くではあるが、様々な権力者たちの子供たちが多く集まる場所なので、頻繁にたくさんの国が合同で警備を行っている。


 手綱を引っ張って馬を止める。先にルカが降りてから、念の為に支えながらローゼスを馬の背から降ろす。


「よしよし。いい子だから、俺らが戻ってくるまで動かないようにな」


「ひひん」


 こくん、と頷くとそのまま森の入口脇まで歩いていき座り込んでから目を閉じる。どうやら少し遅い二度寝としゃれこむようだ。


「それじゃあ行こう。最初は俺が見本を見せるよ」


「分かりましたわ」


 そうして、二人は森の中へと足を進めていくのだった。


「お、早速か」


「ギャッ、ギャッ」


「ギギギ」


 歩くこと五分。早速二匹のゴブリンが現れた。


「いいかローゼス。まず君は、心臓を突き刺すことからやろう」


「………あの、ルカさん。、付けたまんまですの?」


「問題ない」


「えぇ……ですわ」


 腰から剣を抜く(鞘は付いたまま)ルカ。踏み込み、ゴブリンへと一気に肉薄すると、そのまま心臓を一突き。


 肉を突き破る感触が伝わり、心臓を確実に貫いたと確信。仲間を傷つけられ、激昂して飛びかかってきたゴブリンを冷静に躱して、そのまま背中から心臓を一突き。


 グシャッ、と音を響かせながら剣を引き抜いて血振り。鞘を付けたまま肉を切り裂いた事に驚きながらも、流れるように殺したルカへ、拍手を送る。


「お見事」


「とりあえずこんなものか………突きという動きは、人体に対して強力なため、あまり型の技に使われることはない。これだったら、君の赤ちゃんレベルの剣技も多少はマシになるだろう」


「赤ちゃんレベルはほっといて下さいまし!!」


「あぁ、それと君はちゃんと鞘から抜くように」


「そんなことルカさんしかしませんわよ!?」

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