§033 本陣へ

 俺は前方にアクアリーブル軍の部隊を認めた。


 あれはアクアリーブル軍の最後尾。

 敵の騎馬部隊の数は残り五〇騎を切っている。

 つまり、この戦闘にも終わりが見えてきたということだ。


 その結果に、俺は心の底から安堵した。


 俺が最も懸念していたこと。


 それは――強大な魔力持ちの存在だ。


 先日の野営地で感じた強大な魔力。

 もし、彼の者がこの戦場に混ざっていた場合、戦況は一変すると思っていたからだ。


 でも、それは杞憂に終わったようだ。

 後方の騎馬部隊は粗方片付けた。

 まだ残党は残っているが、見たところ強大な魔力持ちはいない。

 一掃するのも時間の問題だろう。


 これで後方の憂いは排すことができた。

 雑草部隊エルバの実力もあり、騎馬部隊の殲滅に要した時間は一時間程度。

 これならアクアリーブル軍の本隊もそこまで甚大な被害は生じていないだろう。


 あとは、開戦時点で一〇〇〇人ほどあった兵数差をどうするかだが……そればかりは少数精鋭の雑草部隊エルバには荷が重い。


 となると……。


 俺は戦闘に興じる雑草部隊エルバのメンバーに目を向ける。


 ファイエルは非常にバランス感覚がいい。

 特に魔力操作はメンバーの中でも群を抜いており、いずれは【放ち】を使いこなせるであろう逸材だ。


 バイデンは見た目どおりのパワー型。

 ほとんど魔力を込めていない剣が重量級の破壊力を持っている。

 魔力消費が少ない分、持久力もあり、今後タフな戦いを強いられることがあっても彼なら難なくこなしてくれるだろう。


 エインリキは少し特殊。

 持ち前の身軽さを生かしたトリッキーな戦闘を行う暗殺者に近いタイプだ。

 戦闘で必要なのは突破力だけではない。隠密性を活かした敵の背後を取る技術は今後の戦いに大いに役立つだろう。


 という感じに総じて戦闘能力の高い雑草部隊エルバ


 しかし、やはりクレアの実力だけは別格だ。


 彼女が剣を振れば、相手は防ぐ暇もなく、倒れていく。

 あまりにも剣閃が速すぎて正確に視認はできていないが、おそらくほとんど魔力を込めていないのではないだろうか。

 それであの実力はアリシアの若い頃を彷彿させるほどだ。


 序盤は少し固さを見せていたクレアだったが、よくわからない後から動きは格段に良くなった。


 彼女自身も調子の良さに気付いているようで、その表情はとても活き活きしている。


 ――クレアがいれば、もしかしたら指揮官クラスの者を引っ張り出せるかもしれない。


 そう思うに至った俺はファイエルに声をかける。


「ファイエル! 後方の指揮を任せられるか!」


 そんな俺の声に一瞬視線を向けたファイエル。

 そして、すぐさま俺の意図を察したのか微かに微笑んだ。


「大丈夫です。リヒトくんは指揮官騎を落としてください。クレアを頼みましたよ」


 当初の隊列は俺が先頭、雑草部隊エルバのメンバーがその後ろで横一線に並ぶというものだった。

 しかし、中盤からなぜかクレアは俺の隣をキープしていた。

 そんな状況もあってか、ファイエルは俺とクレアが更に先行して本陣に向かうことを汲み取ってくれたようだ。


 ファイエルは本当に周りがよく見えている。

 彼になら後方の指揮を任せられる。


「よし、ファイエル! 後方は任せた!」


 そう叫ぶと同時に、俺は横に並んで剣を振るうクレアに目を向ける。


「クレア! 君は俺と一緒に来てくれ! 後方はファイエル達に任せて、俺達は本陣を叩く!」


「了解っ! いよいよ本番だね!」


 周辺の敵を横薙ぎに一閃したクレアは、舌なめずりをするように笑う。


 そんなクレアは自信に満ち溢れており、並び立つパートナーとして申し分ないほどの気迫を纏っていた。


 目指すはこの作戦を立案したであろう指揮官クラスの首。


 これだけ大掛かりなブラフを張ってくる敵だ。

 来たるアクアリーブル戦の前に消しておければ御の字だ。


「よし! 行くぞ!」


 そうして俺達は指揮官クラスが待つであろうゴザの村方面に馬を走らせた。


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