§022 出立

 俺を加えた雑草部隊エルバのメンバーは、早速、『ゴザ奪還作戦』における作戦会議を敢行していた。


 その中、バイデンが俺に質問を投げかける。


「出立はどうするんだ? もう全然時間がないだろ」


「俺達の出立は三日後だ。それまでに皆の練度の確認をしておきたい」


「三日後?! さっきゴップから明朝に出立するよう命令が出てるって言ってなかったか?」


「本隊はな。だが、本隊は二〇〇〇人の大所帯だ。実は出立するだけでも相当の時間がかかるんだ。アクアリーブルの正門は狭いから、連隊の中で最も行軍速度の遅い歩兵を基準とすると、約一時間かかる計算になるんだ。そして、駐屯地での休憩時間とかも計算に入れると、ゴザに到着するのは早くても五日後。ただ、俺達は少数部隊のため馬での行軍が可能だ。ゴザまでならどんなに多く見積もっても二日あれば到着する。だから、俺達の出立は本隊に合わせることなく三日後でいいんだ」


「なるほどな」


「あと今回は念には念を入れて、荷物は先に送っておこうと思っている」


「え? 荷物を先に送っちゃうの?」


 俺の提案にクレアが疑問符を上げて首を傾げる。


「もちろん最低限の装備は帯同するが、それ以外のものは全て送る。荷物が重くなればなるほど馬の行軍スピードが落ちるからな。移動時間は体力も消耗するし、可能な限り時間は短くしたい」


「た、確かに」


「と言っても今の俺達には先行して荷物を届けられる人員がいるわけでもないので、アクアリーブル軍の本隊の荷物にそっと忍ばせるつもりだ。それなら本隊が到着すると同時に俺達の荷物も届いていることになるからな」


「おお! さすがリヒト! あたしバカだからそういうのはリヒトに全部任せるよ。皆もそれでいいよね?」


 満面の笑みを浮かべたクレアが皆に同意を求める。


「ええ、私は基本的に君の方針に従いますよ。あと、エインリキから最初『雑草部隊エルバと呼ぶな』という話があったと思いますが、それはもう忘れてもらって構いません。エインリキはどうにもこだわりが強いですが、先ほどクレアからも話があったとおり、私達は『雑草部隊エルバ』という部隊にそれなりに誇りを持っているつもりです。むしろ無用な気を遣わせてしまって申し訳ない」


 その言葉にエインリキは面白くない顔をしていたが、部隊名を呼称で呼べないのは指揮を採る者としては中々つらいところである。

 その点も考慮して、俺はファイエルの提案に頷く。


「わかった。それではそうさせてもらうよ。いろいろ気を遣ってくれてありがとう、ファイエル。ということで作戦会議は以上。当日は予定どおり俺が先陣を切る。戦闘は兵力が多い方が圧倒的に有利。この人数だと厳しい戦闘になることが予想されるが、俺は誰一人として死なせるつもりはない。だからどうか俺に力を貸してくれ」


「当ったり前でしょ、リヒト。あれだけ毎日リヒトと稽古をしていればあたしも前よりは格段に強くなってるはずだし、実戦がちょっと楽しみかも」


 そう言って勢いよく立ち上がるクレア。

 そんな彼女を見て、雑草部隊エルバの面々は不思議と嬉しそうな表情を浮かべてる。


「じゃあこれからは皆の練度を確認したい。クレアの実力はもう十分わかってるから、申し訳ないけど、俺のフォローをしてもらえると助かる」


「おっけー! 任せときなさい! クレアちゃんが秘書業務もできるところを見せてあげるわね!」


 そう言って豊満な双丘を強調するクレアとともに、俺は各部隊員の練度の確認に移った。

 そして、夕刻には全ての部隊員の練度の確認が終わった。


 ――結論から言うと、想像以上。


 皆、人身売買による孤児という話だったので正規の戦闘教育などは受けてないはずなのだが、それを感じさせる点など一切無く、全ての能力が平均以上。


 むしろ、あのアクアリーブル軍の兵士よりも剣術、魔力ともに格段に上の実力を誇っていることがわかった。


 ――これならきっと成功する。


 そんな印象を抱きつつ、三日後、俺を含めた雑草部隊エルバのメンバーはアクアリーブルを出立したのであった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る