第12話 土曜日3
セリナさんが電話で警察と救急を呼んだ。
カナコは滑り台の上で放心状態から抜けだせないようだ。
電話を終えたセリナさんが滑り台の階段を登りカナコの様子を見に行った。
手摺に捕まり階段に足をかけ、振り返り私に向かって「ちゃんと息してるし怪我もなさそう。大丈夫」と言って、また降りてきた。
私とセリナさんは公園のベンチに座って警察と救急を待つ事にした。
「実はさ。今日除霊のデビュー戦だったのよ。お祖母ちゃんにデビューの時は私が付き添うからって言われたのに一人でやっちゃった。帰ったら怒られるだろうな」
そう言って悪戯っぽくセリナさんは笑った。
初めて会った時の親しみやすさが戻っていた。
「今日私が実行するって分かってたんですか?」
「昨日部室であなたの頭を押さえた時にこっそり髪の毛を一本抜いて貰ったの。ごめんね。髪の毛の持ち主の動きを追える力も私持ってるのね。それであなたが公園に行ってることが分かったから急いで飛んできたってわけ」
そう言うとセリナさんはカバンの中からビニールの小袋を取り出した。その中に髪の毛が一本入っていた。
私はそれを見て唖然とするしかなかった。
私はセリナさんに手のひらでずっと転がされていたのかもしれない。
「それにしても、もう少し到着するのが遅かったらカナコさん危なかったわ」
「本当にすいません」
私は頭を下げた。そうしたら急激に自分のした事が恥ずかしくなって、罪悪感も湧いてきた。
カナコは本当は生きて帰りたかったのだ。私も薄々気づいていた。それなのに、馬鹿みたいな考えから脱する事が出来なかった。そしてカナコの命を危険な目にさらしてしまったのだ。本当に私は馬鹿だった。
「あなた自身も悪い物に取り込まれそうになってたのかもね。見えない何かに導かれてるかもって前に言ったでしょ。きっと悪霊があなたを導いてた可能性が高い。だからある程度は仕方ないよ」
それでもそれに抗えなかったのは、きっと私の弱さのせいだ。
「この街は最近あの世とこの世の境が曖昧になってきてるみたいなの。お祖母ちゃんが言ってた」
私は木曜日に会った妹、本当のユズハの幽霊に会った事を思い出した。あの世との境界が曖昧だから出てきたのだろうか。
「何か理由があるんですか曖昧になってることに」
「理由はお祖母ちゃんが調査中」
「そうですか……」
知らず知らずのうちに、私の住む街が得体の知れない恐ろしい場所に変わっていたみたいだった。嘘みたいに何も変わらない風景を私はずっと見ていたのに。信じられない。でもセリナさんが言うと説得力があった。とても信じられないが、きっとセリナさんの言う通りなのだろう。
「セリナさん見えてたんですか首の伸びたバケモノの事。初めて会った時、幽霊とかオバケは、はっきりとは見えないって言ってたじゃないですか?」
「あれは嘘。ご都合主義でごめんね。本当は結構はっきり見えるの。あなたをあんまり怖がらせるといけないと思ってさ」
セリナさんはバツが悪そうにそう言って苦笑いした。
そうこうしていると、サイレンの音が遠くからこちらに向かって来るのが聞こえた。
「何もかも正直に話すんだよ」
セリナさんはそう言って私の手を優しく握った。
私は頷いた。
「お祖父ちゃん生きてるかな?」
私のその呟きにセリナさんは「それも正直に話すんだよ」と優しく言った。
セリナさんは全てお見通しなのだ。
パトカーと救急車が公園にやってきた。
救急隊員が滑り台のカナコに駆け寄る。
警察が私とセリナさんの所へやって来た。
私は全てを正直に話した。
無線で警察官の一人がお祖父ちゃんのお屋敷に向かってほしいという事を誰かに伝えていた。
私はパトカーに乗って警察に行くことになった。
救急隊に抱えられてカナコは滑り台から下ろされ、ストレッチャーに乗せられ救急車まで運ばれた。
警察官に促されパトカーに乗り込もうとする私をセリナさんが呼び止めた。
セリナさんが私に向かって手を振った。
そして笑顔で、明るくこう言った。
「じゃあね。またいつか会おうね」
私は黙って会釈して、そのままパトカーに乗り込んだ。
〈第一章『一緒に死のう』おわり〉
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