第4話 ゲーム知識が無いと、アイテムもゴミも大して変わらない

 さっきまでそこに居たはずの黒い恐竜と骸骨の騎士。

 その死体が忽然と消えていた。

 幻覚だった……? いや、そんなはずない。

 感じる痛みも、流れる血も、傷も紛れもない現実だ。

 それに骸骨の騎士が着ていた鎧や剣はそのままだ。

 まるで中身だけが忽然と消えてしまったかのよう。

 どういう事? 分からない。分からないことだらけだ。


「みゃぁ」

「ん……?」


 ハルさんの声がした。

 足元を見れば、ハルさんが前足で何かを転がしていた。

 こぶし大ほどの大きさの青く透き通った綺麗な石だ。

 宝石……? いや、そんなわけないか。ただの綺麗な石だろう。

 でもこんなものいったいどこに?


「ふみゃー」


 ハルさんは前足でぺしぺしと転がしながら、それを私の元まで持ってきた。

 どう? ほめてーと言う感じの表情だったので、頭をなでてあげる。


「うん、偉いねー、ハルさん」

「みゃぁ~♪」


 すると嬉しそうに目を細めた。

 こんな時でもハルさんはのんきだなぁ。癒されるよ。


「でもこれなんだろ?」


 手に持ってみると、予想以上に軽かった。

 でもなんだか異様な存在感を放っているようにも感じる。


「……とりあえずポケットに入れとこうかな」


 正直言えば、さっさと捨ててしまいたかった。

 でも何故か捨ててはいけない気がしたのだ。


「みゃぁっ」

「ん? どうしたの?」


 ハルさんが駆ける。

 骸骨の騎士の着ていた鎧のすぐそばだ。

 そこにも同じような綺麗な石が転がっていた。

 こっちは先程と違って燃えるような真っ赤な赤色をしている。


「突然消えた化け物の死体……、残された綺麗な石……」


 うーん、|あの子(・・・)だったら、まるでゲームみたいだなって感想を言いそうね。

 というか、私も同じように思っちゃった。

 血は争えないなあぁ。


「てか、これ、凄い剣ね……」


 でも私は石ころよりも地面に突き刺さった剣の方が気になった。

 あの骸骨の騎士が使っていたモノだ。

 どうやら黒い恐竜のボディープレスを免れていたらしく、潰される事無く地面に突き刺さったままになっていた。


「見てるだけで呪われそうな感じがするわ……」


 地面に突き刺さった剣は実に禍々しい存在感を放っていた。

 西洋風のデザインの両刃の剣で、刃が全体的に黒く、柄頭の部分に宝石のような物が付いている。

 なによりそのサイズが圧倒的だ。私の身長を軽々超える程の長さを誇っている。

 そりゃそうだよね。あんなデカい骸骨の騎士が振り回してたんだもの。

 刃の部分には黒い獣の血がべっとりと付いていた。

 うわぁー、気持ち悪い……。

 絶対触りたくないわね、こんな怪しげな武器。

 

「――って、そんな事、考えてる場合じゃない! 早くどこかに逃げないと!」


 とりあえずどこに逃げればいいだろう?

 人が集まってそうな場所だと、一番近いのは市民館かな?

 いや、近所の小学校の方がみんな集まってそう。

 こんな異常事態だ。きっと自衛隊とかもすぐに動き出してるはず。

 早くどこかに避難して救援を待たないと。

 ハルさんも無事に確保できたし、善は急げだ。


「さあ、ハルさん、行くよっ」

「みゃぁー。にゃっ!」


 ハルさんを抱きかかえようとすると、ハルさんは前足と後ろ足を器用に使って、赤い石を抱きかかえた。


「……そんなに気に入ったの、それ?」

「みゃあ!」


 うん! とハルさんは赤い石を掴んで離そうとしない。

 そんな綺麗に光るだけの石ころの何が良いんだろうか?

 ……まあ、仕方ないか。こうなったらハルさんって頑固だし。

 大して重くもないし問題ないだろう。

 私はもう一個の青い宝石をポケットに入れ、ハルさんを抱きかかえた。

 

「よし、それじゃあ行こう、ハルさん」

「みゃぁー」


 私とハルさんは避難所へと急いだ。

 避難所に行けばきっと大丈夫だ。

 この時の私はそう思っていた。

 

 ――でも、その考えは甘かったのだと、このすぐ後に思い知らされることになる。


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