第2話 どうやらモンスターが町に現れたらしい
いつもの帰り道は、想像以上の悪路になっていた。
至る所に生え続ける巨大な木のせいで、道幅は狭まり、舗装されたアスファルトはひび割れ、地面がむき出しとなり、場所によっては道が完全に塞がれている箇所すらあった。
回り道を余儀なくされ、更に木の根がボコボコと地面を隆起させ、進みにくい事この上ない。
いつもなら自転車で数分の道のりが、なんて遠いのだ。
「ハァ……ハァ……ハルさん……」
大丈夫だろうか?
無事だろうか?
この木のせいで、倒壊でもしていたら大変だ。
運動不足のせいか、息切れがひどいし、脇腹がすごく痛い。
「お願い……無事でいて……」
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
叫び声が、怒声が、泣き声が、車のクラクションが、色んな音が絶えず鳴り響く。
何度も逃げ惑う人々とすれ違いながら、アパートまであともうちょっとのところまできた。
「ハァ……ハァ……」
肩で息をしながら、私は進む。
途中で自転車が使えなくなり、やむなく自分の足で走らなければいけなかった。
もう足がパンパンだ。
でもあと少し。あと少しなんだ。
「おいアンタ、どこに行こうとしてるんだ! そっちにいくんじゃねぇ!」
すると突然私は肩を掴まれた。
背の高い男性だ。
「え……、あの?」
「ほら、こっちにこい! そっちに行くんじゃねぇ!」
「痛っ、やめて下さい! いや! 離して!」
想像以上に強くつかまれ、私は無我夢中で抵抗した。
だが男性も振りほどこうとする私を離そうとしない。
「そっちは危険なんだ! 化け物が居るんだよ! いいから、おい――がッ!?」
「あっ……」
偶然、私の手が男の鼻に当たったらしい。
それもかなり強く当たったのか、反射的に男の掴む力が緩んだ。
その隙に、私は男の手を振り払い、一気に駆けだした。
「くそっ! 忠告はしたからな!」
鼻を押さえながら遠ざかってゆく男性。
何のことを言っているのか、まるで意味が分からなかった。
むしろ、もう少しで辿り着くところを邪魔されて、ひどく不快な気分にすらなった。
ハルさんの事で頭が一杯だった私には、彼が何を言っているのか、理解する余裕がなかったのだ。
「あー、もうっ! 急いでるってのに!」
走る、走る、走る。
アパートまであともう少し。
すると今度は巨大な地鳴りと共に、奇妙な音が聞こえてきた。
それは何かを切り裂くような風切り音と、巨大な何かがぶつかり合うような炸裂音。
「……」
背筋がぞくぞくした。
走って体が熱いはずなのに、寒気が止まらない。
さっきまで走って息苦しかったのに、今は別の意味で息が苦しい。
心臓が鷲掴みにされているような奇妙な感覚。
この感覚は一体何なのだろうか?
そして、たどり着いた先で、私は先程の男性の言葉の意味を理解する。
「……何、あれ……?」
アパートの目の前にある駐車場。
そこの停車してあった車は軒並み破壊されていた。
周囲には瓦礫の山が出来上がり、ガソリンに引火したのか、数か所で火の手があっている。
そして、その中心で――
「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「シャァァァァアアアアアアアアアッ!」
体長十メートルはあろうかとう巨大な黒い恐竜と、鎧を纏い巨大な大剣と盾を装備した骸骨が死闘を繰り広げていたのだ。
それは紛れもない、私たちの世界には存在しない異物――モンスターと呼ばれる存在であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます