幽霊のお友達
※文字書きワードパレットのお題「6.トリクル・トリクル:紫陽花、宝石、歩く」フォロワーさんからリクエスト頂いて書いたお話です。リクエストありがとうございました。
◇◆◇◆
雨が降ると、庭先に子供の幽霊が現れる。黄色い長靴と黄色い傘、お下げ髪の可愛らしい女の子。
今日もパラパラ雨が降り出すのと同時に女の子がふわりと現れて、ぴょこんと一つ跳ねる。ぴょんぴょんと跳ねるたびに、まだ地面にはできていないはずの水たまりから水がはね、辺りを濡らしたかと思うとすっと消えてしまう。
幽霊は、一歩も歩くことなく両足でぴょんぴょんと庭の奥に行き、くるりとこちらに向き直った。
それからまたぴょん、と飛んで、それから何かに気づいたように顔を横に向ける。
視線の先にあったのは、今を盛りと咲いた紫陽花のある一角だった。
幽霊の視線の先で、紫陽花ががさがさと揺れている。
がさがさ、がさがさ、揺れたそこから、ぴょん、と影が飛び出した。黒猫だ。
その猫は、強くなってきた雨など気にも留めていないのか、紫陽花の葉っぱに溜まった水をちょいちょいと触ってみたり、花をふんふんと嗅いでみたりしている。
幽霊の姿が一瞬だけぶれたと思ったら、次にはっきりと見えた時にはまるで宝石みたいに目を輝かせていて、そのまま猫に向かってそろりと一歩を踏み出した。
一歩、二歩、三歩と近づく幽霊に、猫がふと顔を上げる。
なぁん、と一声鳴いて、ぴたりと動きを止めた幽霊に向かってトコトコと歩き始めた。
猫はゆっくりと幽霊に近づいて、ちょいちょい、と長靴をつつく。どうやら、猫にも女の子の姿が見えているので間違いないらしい。
目も口も丸くして固まっていた幽霊は、おそるおそる、という風に人差し指を差し出した。
気づいた猫が、差し出された指をふんふんと嗅いだ後、ぺろりと舐める。
ぴゃっ、と手を引いた幽霊は、自分の指と猫とを交互に見たあと、声が聞こえないことが不思議なくらい楽しそうにきゃっきゃと笑い出した。
幽霊は、存外猫の扱いが上手なようだった。
ちょんちょんと鼻をつつき、猫が前足を上げるとさっと引く。
スカートの端をひらひらと振って、うまい具合にじゃれついてくる体をよける。
幽霊はそれはそれは楽しそうに、黒猫と遊んでいた。
ぴょんと飛びかかってきた猫の体を器用に避けた幽霊は、口を「あ」の形に開いて顔を上げ、ほんの少しだけ残念そうな顔になった後、差し込んだ光に消えてしまった。
幽霊が消えたことがよく分からないのか、黒猫はきょとんと辺りを見回して、しばらく地面を掻いてみたり、ふんふんと辺りのにおいを嗅いだりしていたが、やがて気が済んだのか、とことことこちらにやってきて、ちょんと座った。
ドア越しに目が合う。黒猫が、にゃあんと一声鳴く。
しばらくそのまま見つめあっていたけれど、最後には私が根負けして、カラカラと扉を開いた。
こうして、私に家族ができた。
雨が降ると、庭先に子供の幽霊が現れる。黄色い長靴と黄色い傘、お下げ髪の可愛らしい女の子。
水たまりをはねるように歩くのが好きで、踊るのが好きで、花をつついてみるのが好きで。どうやら、猫と戯れることも大好きらしい。
幽霊がまた現れて、君と遊んでくれるかどうかは、まだ分からないね。
雨の幽霊 須堂さくら @timesand
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