第5話






(これで若紫の立場は安泰になったからいいとして問題は・・・・・・)


「藤壺の女御。私は貴女を母としてだけではなく、一人の女性として恋い慕っているのです。恋の道化となった私を哀れと思し召すのであれば、どうか御簾の中に・・・」


(お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ ?)


 源氏の君の訴えを聞いた藤壺の宮は頭を抱える。


 脳と下半身が直結しているこの男は自分を受け入れろと言っているのだ。


「源氏の君・・・」


 不幸な女製造機に対する怒りを何とか抑えて優しく声を掛けた藤壺の宮は、女の恐ろしさを教えるべく御簾の向こうから姿を現す。


「藤壺の女御・・・」


 自分を受け入れてくれると感極まった源氏の君が、目の前で柔らかく微笑んでいる藤壺の宮に腕を伸ばして抱き寄せようとしたその時───。


「〇べしっ!」


 藤壺の宮の目が光ったかと思うと、某世紀末救世主がよく使うあの技で源氏の君をフルボッコにして沈めてしまう。


「藤壺の女御様!?」


 源氏の君の悲鳴が耳に入ったのか、命婦をはじめとする女房達が二人の元に駆けつけてきた。


「これは一体・・・!?」


 怒り狂っている藤壺の宮とボロボロになった源氏の君を交互に見た女房達は、何があったのかを何となく察する。


「藤壺!源氏の君!」


 最愛の息子の悲鳴が耳に入ったのか、飛香舎まで駆けつけた桐壺帝に女房達が話す。


 幼い頃に母親を失った事で母の愛情に飢えているのだと思った桐壺帝は、兄の子供を自分の娘として引き取って育てている藤壺の宮の母性を見込んで源氏の君の母親代わりを頼んだのだ。


 それが仇になるなんて夢にも思っていなかった・・・。


 桐壺帝は藤壺の宮によってボロボロになってしまった愛息子を心底呆れ果てた表情を浮かべて冷たい目で見下ろす。


 だが、桐壺帝にとって源氏の君は亡き桐壺の更衣と同じくらいに愛しい存在である。


 今回の事は不問にする故、当分は流行り病に罹ってしまったという理由で宮中に出仕しないようにと桐壺帝が倒れている源氏の君に命令を下すのだった。









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