第4話






 源氏の君とは母として文を交わしつつ、物語では紫の上と呼ばれる八歳の少女を御所に引き取り桐壺帝と自分の養女として育てていた。


 身元がはっきりしている少女を藤壺の宮が自分の娘に出来たのかというと、それには理由がある。


 夢に出てきた観音様は自分にこう告げた。


『帝とそなたとの間に産まれる筈だった娘は、そなたの兄の子供として生を受けた。そなたとて自分の娘が不幸な人生を歩むのは辛いであろう?故にその娘を引き取って育てるが良い』


 兄が正妻以外の女性との間に娘を儲けたという話を小耳に挟んでいたので、夢のお告げは真実だろうと思った藤壺の宮がその娘を自分の手元で育てたいと訴えたのだ。


 桐壺の更衣の次に愛おしいと思っている女性の頼みとはいえ、何でもかんでも聞き入れるのは帝として愚行以外の何物でもない。


 藤壺の宮の主張が真実かどうかを確かめる為、桐壺帝は調査した。


 結果


 兵部卿の宮には正妻以外の女性───按察使大納言の娘との間に子供を儲けていた。


 大納言の娘という女性は既にこの世を去っており、祖母である北山の尼君が養育しているのだという事が分かった。


 本来であれば内親王として育つはずだった我が子の哀れな境遇を知った桐壺帝は、北山の尼君に自分の娘として育てるので彼女を引き取りたいと話した。


 兵部卿の宮の北の方は孫の存在を快く思っていないし、仮に実の父親が引き取ったとしても正妻に頭が上がらない彼の事だ。幼い娘が虐げられていても見て見ぬ振りをするだろう。


 桐壺帝と今を時めく藤壺の宮の娘になれば孫の立場は確実なものになるし、良縁にも恵まれる。或いは尚侍として宮仕えする道もある。


 孫の未来の為、北山の尼君は桐壺帝の話を受け入れたのだった。






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