第44話 決戦を眺める

私達は龍人くんが向かった場所以外のテロリスト全員を拘束した。朱音さんが糸で拘束しているので逃げるのは不可能である。捕らえられたテロリストは何か叫んでいるようだけど、口まで防がれているため言葉にはならない。


「どうやら全て無力化に成功したようですね。」


「そうだね。救助はオジサン達に任せたしね。私は龍人くんのところに向かうよ。私が行っても役には立たないかもだけど応援はしたいからね。」


「戦闘音が聴こえると言うことは、まだ戦っているって事だよね?」


「ここに居ても出来ることは無いですから、皆で向かいましょう。」


救助に私達が参加すると色々と問題が起きそうなのである。それに、ここには大勢の人が集まっているので人手は十分なのである。一緒に戦かったオジサンが後は任せてくれと言われ待機している状況なのだ。


全員で上の階へ向かうと、至るところに魔物の死体が転がっていた。きっと、龍人くんと火凜さんが倒していったのだろう。


「やっぱり、龍人くんは凄いね。身体の調子が悪いはずなのにね。」


感嘆しながらも、イベントホールの前にたどり着いた。魔物は1体も現れることは無かった。


「これ結界だよね?」


「結界で中の人は出て来られないみたいですね。」


「もしかして、入れない・・事は無さそうですね。入れるけど、出て来ない結界のようです。」


「私から入るね!」


止める暇も無く雫は中に入って行く。溜め息を漏らしながら私も後に続いた。


結界内に入って真っ先に目に入ったのが氷の壁であった。本当に綺麗でした。


「あっ!? もう龍人くんが戦ってるよ!」


「少し遅かったですね。やはりこの結界は入る事はできても出られないようですね。」


「本当だ!? でも良いんじゃない? 下はオジサン達に任せて来たんだしね。」


「どちらにしろ建物からは出られない訳ですから、何処にいようと余り変わらないです。」


「御嬢!? 何故ここに・・・」


声をかけられた方に顔を向けると見知った顔があった。父のクランの初期メンバーで物心つく頃から私を可愛いがってくれた人だった。


「源治さん!? どうして、ここに!? 怪我まで負って・・・」


「蔵田知事の護衛任務で巻き込まれて不甲斐なくも龍坊に助けられてこのありさまです。部下も何名か殺られてしまいました。」


「そうですか。貴方だけでも助かって良かったです。まだ、解決した訳では無いですが。」


氷の壁の向こうでは、今まさに戦いが行われている。下で現れた魔物とは比べられないほど強力な魔物が猛威を振るっていた。


龍人くんで無ければ戦いにすら成らなかったです。戦いを見守っていると、5名の女の子がこちらを見ているのに気がついた。確か彼女達は・・


「あの! 君があの少年の婚約者と言うのは本当ですか?」


目が合ったのが切っ掛けとなったのか、彼女達がやって来て龍人くんの事を聞いてきた。


「えっ? そうですが、それが何か?」


「そうなんだ。」


「あぁ、龍人くんを好きになっちゃったんだね。私達と一緒だね。私も龍人くんの婚約者の二階堂雫だよ。宜しくね。」


雫が何かを察したようで、会話に乱入してくる。


「いや・・私達は少年に命を助けられて」


「わかるよ。私達も一緒だしね。それに格好いいしね。」


雫の話を聞いて、彼女達が何を気にしていたのかがわかった。


「雫、まだ気になる程度のようですからこれ以上は止めておきましょう。」


「フフフ、そうだね・・」


ズドドーーン!!!!


戦いが動いたようです。拮抗した戦いだと思っていたけど、龍人くんが魔物の一撃をもらって吹き飛び壁に激突していた。


「あの時以来始めて見るかも!?」


「そうですね。攻撃をまともに受ける姿はあの時以来です!?」


「私達は初めてかも!?」


いつの間にか結界を潜ってやって来た美月さん達が驚いていた。それくらい珍しい事であった。


「そう言えば調子が悪いって言ってましたがそのせいでしょうか?」


「それも有るが、相手の強いのも理由のうちだな。この前まで入っていた上級迷宮の魔物より強いな。」


「ランクで言えばAは越えていそうですね?」


「それってヤバいんじゃ。助けに」


「止めた方が良い。主はどうやら仲間にするつもりのようだからね。私達が助けに入ることは望んでいないようです。」


「そうなのじゃ。それに戦いは始まったばかりなのだ。」


どうやら龍人くんはあの魔物達を従魔にするつもりらしい。


ガタッ!


龍人くんが瓦礫の山から何も無かったように出て来た。そして・・・


「フフ、龍人くんが楽しそうだ♪」


「大丈夫そうですね。」


「あんな無邪気に笑う龍人くんは初めてですね。」


「そう言えば、あの時も」


ゴブリンの森で助けられた時もこんな顔をしていました。


ドキン!


胸が高鳴った。あの時の感情が再熱する。


「ああ! この感じはあの時に似ているかも! 皆、気を確かにね。こうなった龍人くんは魅せるんだよ!」


そうなのです。私達もこれで・・・


ダン! ズウゥーーン!!!!


今度は魔物が殴られ押し返される。龍人くんの雰囲気が変わった気がした。


「厄介な魔物のようじゃな。物理耐性に魔法を吸収する能力持ち。倒すのに苦労する魔物じゃ。」


龍人くんが放った黒い雷が魔物に取り込まれた。こんな魔物をどうやって倒すつもりだろうか?


戦闘が激化していく。

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