第22話 口裏合わせ

疲労困憊していた彼女達と会話しながら休憩していると、朱音が冒険者を引き連れて戻って来た。その中には


「手伝いに来たよ!(ました!)」


雫さんと萌衣さんの姿もあった。


「龍人、呼ばれて来てやったがこれは酷い状況だな。朱音さんから説明を受けたが、初級迷宮でスタンビート何てあり得ないだろう!?」


「無理言って来て頂いてすいません。スタンビートはどうやら人為的に起こされたもののようです。」


「人為的だと!?」


「誰かが何処かの迷宮から転移で初級迷宮へ魔物を送っているようです。そして、送られた魔物がスタンビートを引き起こしたのが今回の経緯です。」


「何故そこまで言いきれる!? それに転移って、そんな芸当を誰が出来るんだ!? 証拠でもあるのか?」


「蓮司さん、私は従魔士ですよ。今回の原因となった魔物は私の従魔にしています。私は従魔と意志疎通が可能なのです。従魔から話は聞いています。それに朱音の時も同様でしたので、何かの目的で暗躍している者が居るのは間違い無いです。それと、転移ですが誰かの能力では無く魔道具の可能性が高いと思います。」


今回の件で誰かの能力で転移した可能性は低くなった。何せ『魔力妨害』を受けた状態で転移魔法を使うのは至難の技だ。それなら転移の魔道具を使用した可能性が高い。前世にあったんだよな。魔力嵐のエリアでも無事に転移出来る魔道具。凄く高価だったけど。


「魔法がどうだとか良くわからんが、今回の件が人為的なのは間違い無いんだな。」


「それは間違い無いです。多分ですがゴブリンの森、蟲壺の森、今回の件は同じ者の犯行ですね。」


「何が目的だ?」


初級迷宮ばかりに仕掛けられている。初級迷宮で無いと駄目な理由。初級迷宮は基本的に冒険者学校の低学年が良く探索に出る。そうすると目的は・・・


「冒険者学校の生徒を処分する為ですかね? 今年は特にSランクの職業に就いている生徒が多いと聞きます。何者かにとって、それが不都合だったとしたらどうですかね? まぁ、あくまで予想ですけどね。」


「憶測に過ぎねぇが、ゴブリンの森の件を考えると否定も出来ねぇな。龍人が居なかったらSランク職業持ちの5人が死んでいたからな。それにしても、困ったもんだ。証拠が無いんじゃ下手に迷宮を閉鎖出来ねぇ。それに転移なって使われれば事前の対策も出来やしねぇじゃねぇかよ。」


「転移で魔物が送られて来てると言っても誰も信用出来ないでしょうしね。ただ、初級迷宮には出ないはずの魔物が現れてスタンビートが起こったことは報告しないと不味いですよね? その報告を聞いて判断するのは私達では無く冒険者組合と冒険者学校のお偉いさん方です。」


「スタンビートを俺のクランで殲滅した事にするんだな?」


「それでお願いします。蓮司さんなら萌衣さんに付き合って迷宮にたまたま来ていたらスタンビートに遭遇して対処した事にすれば問題は無いでしょ? 私達が報告するより、蓮司さんが報告した方が信じて貰えると思います。それプラス、あの大量のドロップ品を持って行けば信じるしか無いでしょうしね。」


「元凶の魔物は消えたことにするか?」


「魔物はナイトメアホースと言う巨大な黒い馬の魔物でした。なので巨大な白い馬の魔物で追い詰めたら消えたと報告しましょう。これで、転移をにおわせておくのも良さそうですね。」


「ああ、なるほど。転移したではなく、一瞬で魔物が消えたという事象があったことを認識して貰うんだな。」


「転移したと言っても信じてくれないのなら、魔物が消えて別の迷宮に移動しているかも知れないと注意喚起が出来る。」


間違った情報では無いので問題は無いだろう。後は


「美月さん達も申し訳ないのですが、口裏を合わせて欲しいです。ドロップ品は後日になりますがお金でお支払い致します。」


「クラン〈豪傑の集い〉のクランマスターの獅童蓮司様と親しげに話す君には興味ありますが、お金は入らないです。命を助けて頂き、その上安全に魔物を倒せてレベルを上げさせて頂きました。それで十分ですよ。強いて言うなら訓練をつけて欲しいです。」


彼女達は現在スランプ中らしい? なので更に強くなる為に訓練をつけて欲しいのだと言う。


「それなら龍人のクランに入れてやりゃ良いじゃねぇか。龍人のところは3人だけだろ? 同盟を結んでいる立場としては人員を増やして欲しいわけよ。今回の件もそうだが、最近は色々ときな臭いからな。」


「いやいや、クランと言ってもまだ正式に申請は出していませんし、メンバーも3人しか居ません。流石にこんな状態のクランには誘えませんよ。それにですね、私はまだ10歳ですよ? そこは焦らずにやって行きますよ。」


「えっ!? 龍人君はクランを立ち上げるつもりなの!? それに既に〈豪傑の集い〉と同盟を結んでいると聞こえたのですが?」


「知られてはいないが同盟を結んでいるのは本当だぞ。今はこんなだけど将来性は保証出来るからな。何てたって龍人がクランマスターだから間違い無い。今のうちに加入しておくのがオススメだぞ。」


蓮司さんがいつの間にか俺のクランの勧誘を始めた。急いでメンバーを集めるつもりは無いけど、蓮司さんが美月さんに俺のクランへの加入を薦めているのを見て嬉しく思えた。


「それならメンバーと話し合って、前向きに検討させて頂きますね。」


話し合いを終えて、ドロップ品回収組に合流した後に皆で迷宮を出た。案の定、今回の件も大問題となり冒険者組合と冒険者学校は様々な対応に追われる事となった。

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