第20話 氾濫

ウルフの群れを討伐して直ぐに迷宮の奥から凄い速さで近づいて来る複数の魔物の反応を捉えた。その魔物は真っ直ぐこちらへ向かって来ているようで追い付かれるのは時間の問題だった。


「急いで撤退して下さい! どうやら、今回の元凶がこちらに向かって来ているようです。これは速い魔物ですね・・・私が時間を稼ぎますので、迷宮の外へ急いで下さい!!」


ウルフに襲われて疲れきった様子の面々に撤退を指示する。この魔物の感じからすると初級迷宮で出て来る魔物から逸脱している。ウルフとは違い、巻き込まれれば怪我では済まない。


「私達の班以外は速やかに撤退して下さい! 早く!! 文句は一切受付ません!!」


ウルフに先陣をきって戦っていたグループ以外の生徒が我先にと入口の方へと駆け出していった。その中には納得いかないと残ろうとする者もいたが問答無用で撤退させていた。


「貴女方も撤退していただいて良かったのですが?」


「自身の命は自身で守りますのでお構い無く。それより来ましたわよ。」


「そのようですね。」


前方を見ると先程の群れとは比較出来ない程の魔物の群れが押し寄せていた。原因は一目瞭然である。後方から迫る脅威から逃げているのだ。


「す・スタンビート!!?」


スタンビートとは魔物の大氾濫とも呼ばれ、大量の魔物が押し寄せてくる現象のようだ。このまま行くと魔物が迷宮から溢れて大変な事態に陥る。


「魔物は大したこと無さそうだけど、数が多過ぎます。・・・しょうが無いかな? 皆さんは俺の後ろへ、それと今から見ることは内密にお願いします。黒金、白雪、朱音。」


俺の前方に3体の魔物が佇む。その異様な魔物達に後ろの彼女達は畏縮してしまった。


「前の魔物は私の従魔です。なので、敵では無いので攻撃しないで下さい。白雪、遠距離攻撃で数を減らすぞ。ある程度減ったら私は元凶を対処する。そのタイミングで白雪はポーションで回復しながら後方へ移動、黒金と朱音は前衛にチェンジして中衛を貴女達冒険者に任せます。宜しいでしょうか?」


確認の意味を込めて問いかける。


「フフフ、わかりました。お付き合い致しましょう。」


リーダーと思われる女性が代表して返答する。他のメンバーもやる気のようで頼もしい。


「白雪、開幕早々に盛大にくらわせてやろう」


《氷魔王槍×1000》


空中に赤紫の槍と純白の槍が空を彩る。その槍は次々に敵へと飛来して撃ち抜き凍らせる。瞬く間に魔物の氷像で埋め尽くされる。


【ーーレベルが上がりました。】


【ーー条件を満たしました。スキル『従魔融合』を習得しました。】


レベルが50になった所で新たなスキルを習得出来たとようだ。


「それじゃ、後は頼むよ。《英雄の誓いマイロード》!!」


生成した槍を構えて、閃光を発して魔物の群れを凪ぎ払いながら突っ切っていく。閃光が通った跡は屍となった魔物で埋め尽くされていた。




私は少年が無数の氷の槍を敵陣に放ち、直ぐに閃光となり魔物の群れへ突っ込んで行くのをただただ見ている事しか出来なかった。


「主殿は困ったものですね。我らをおいて自ら先陣を行くのですから。」


「ギャガギャガ」


「それはわかっております。」


えっ!? 目の前で大きな蜘蛛の魔物が綺麗な女性の姿に変化したのだけど!?


「そう驚かないで下さい。ただ『人化』で人間に姿を変えているだけです。意志疎通が出来ねば連携が取りずらいでしょう? 予定通り、妾と黒金殿で前衛を勤めます。貴女達は動きを止めた安全な魔物を中心に仕留めて下さい。白雪殿は戦場に『雪華』を降らせ補助をお願いします。」


朱音と名乗る女性は盾と大剣を構えたゴブリン? と前に進んでいった。


2体の従魔に続いて、私達も隊列を組んで前進する。


魔物の氷像は次々に崩れ落ちて、魔物共々塵となって消えて大量のドロップアイテムを残して消えていった。ドロップアイテムを回収する余裕は無いのでそのままだ。


「来ます!」


氷像が消えた奥から獣系の魔物が飛び出してきた。それと同時に華の形をした雪が降り注ぐ。


幻想的でキレイだった。


「振れた箇所が凍るのですか!?」


明らかに魔物の動きが悪くなっている。良く観察すると雪の華が振れた箇所が白く凍っているように見えた。


「白雪殿の雪は敵を凍らせます。動けない魔物は貴女達で対処して下さい。」


そこからは戦いでは無く蹂躙だった。黒金と呼ばれているゴブリンは数多の魔物を意に返さずに盾で弾き、大剣で凪ぎ払い前進していく。朱音さんは蜘蛛の糸で魔物を切断、拘束して次々に魔物を無力化していく。私達は辛うじて生きている魔物に止めをさしながら二人の後を追う。



「従魔士って、不遇職の筈よね?」


「従魔士は珍しい職業だけど、役に立たないと言われてる。」


「私は少年が従魔士だと言うのを疑っていました。あの動きは正に武人でありました。」


「従魔のかたも戦い方が上手いであります!」


魔物が武術を私達以上に扱えているのですから恐怖でしかありません。人間にとって数少ないアドバンテージが無くなってしまいます。


「学年のAクラスでトップとなり、自惚れていた訳ではありませんけど勘違いしていたようです。よりいっそう気合いを入れねば冒険者としてやっていけませんね。」


「それには賛成だけど、闇雲にやっても駄目だと思う。先生に相談しても意味が無かったしね。」


3体の従魔の強さを目の当たりにして、どうしても焦ってしまう。次第に魔物の勢いは無くなっていき、その先に想像しえない光景を目の当たりにした。

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