第16話 世界最強の騎士


「テメェは一体何者だ!」


再度同じ質問が投げかけられる。元々隠すつもりは無かった。言ったとしても大半が信じ無い。


「私の家は日本でそこそこ有名な家らしいです。ただし、職業が従魔士となった私は家から捨てられ、家名を名乗る事を禁じられています。なので、家名を言うのは控えさせて頂きます。聞きたいのはそう言う事では無いでしょうから」


「まぁな。そう言う話しは良く聞くからな、詳しくは聞かねぇよ。面倒ごとにも関わりあいたくねぇしよ。」


「それには同意見よ。職業で優劣を判断する事は何処にでもあるもの。学校でもそうでしょう?」


学校も職業でS~Fへとクラス分けして優劣をつけている。


「私も家を追い出されて良かったと思っていますので気にしないで下さい。ここから本題ですが、私は5歳の時に前世の記憶がよみがえりました。」


「前世の記憶だと??」


「そうです。信じられないのでしたら、ここでの話しは終わりなのですが?」


信じてもらえなければ話しをしてもしょうがない。


「そう言う話しなら納得がいきますわね。真甚くんは見た目は雫と同じ年なのに、全然そう見えなかったのよ。」


「私の方もようやく違和感が解消されましたわ。それで前世の話しをしてくれるのよね? それが今回の件につながると言うことよね?」


ずっと警戒していた萌衣のお母さんが、納得したとばかりに警戒をといて話しを聞く体勢になった。


「余り面白い話しでは無いですが、戦いに一生を費やした男のつまらない話しを聞いて下さい。男が物心がついた時にはスラムでゴミを漁って生きていました。一日一食さえままならず、ただ生きる事が難しい世界だった。でも、男に転機が訪れたのは5歳の時だった。有名な傭兵団が男を雇ったのだ。それは男にとって劇的な変化だった。戦場を駆け回り死体を漁り金になる物を回収した。勿論、戦場だから安全な場所など無く、回を重ねるごとに仲間は居なくなり補充されていった。でも、そんな環境でも男は満足していた。しっかりと飯が食えていたからだ。その男は2年程で劇的に成長して剣を持たされ戦場へと送られるようになった。男が初めて人を殺したは7歳の初陣だった。この頃には傭兵団は男に出来た初めての家族だった。男は何年も家族の為に戦場を駆け回り、10歳になる頃には戦場で《戦鬼》と呼ばれ恐れられた。だが、そんな生活は長くは続かなかった。男が11歳の時に傭兵団は男を残して全滅していた。男は家族を助けたいと最後の最後まで剣を振るい倒れた。気づけば戦場から遠く離れた場所で目を覚ました。聞いた話しによると、男は団長の手配により逃がされたと言う。男は絶望し後悔した。皆と一緒に死にたかったとね。」


・・・・・・


「えっ!? 終わり? その男の人はどうなったの?」


「気になります。」


話し疲れて一休憩入れたかったけど、そうも言ってられないようだ。


「それから男はあてもなく死に場所を探して世界をさまよった。何度も自害を考えた男だがその度に生かしてくれた団長の顔が浮かび自害は出来なかった。そんな時に偶然に大陸最大の国家の王族を助ける事になって、流れでその国家の騎士になった。ここで又も男に転機が訪れた。孤児だった俺は神託の儀を受けておらず、この時に初めて神から恩恵を頂いた。男の職業は『騎士帝』だったのだ。そして、男は20歳という若さで総騎士団長に任命された。ただ元孤児であり平民の男が貴族達から良く思われ無いのはわかっていた。男は総騎士団長と言う立場でありながら、数々の死地に追いやられ生還し続けた。そんな戦場を駆け抜け気づけば26歳となっており、職業も『龍騎士』へとクラスアップを果たして、男は《世界最強の騎士》と吟われるようになった。でも、そんな男にもついに終わりが訪れた。」


・・・


「その男の人、死んじゃったの?」


「嘘ですよね・・・」


ついつい、あいつらの事を思い出してしまった。


「その当時、世界は魔神の脅威にさらされていた。勇者率いる魔神討伐隊は苦戦を強いられながらも魔神の居城まで攻めいった。そこに召集されたのが、世界最強の騎士と呼ばれた男だった。魔神討伐隊は多大な犠牲を払いながらも男達を魔神の元まで送り届けた。ただ現実は非常で魔神の前に次々に仲間は倒れ、終いには男だけが戦場に立っていた。男は思った、こいつらを助けて死ぬなら団長も許してくれる。これでやっと死ねる。男は自身の命を贄に秘技『龍化』を発動して、最後に魔神の核を喰らって死んだ。これで皆の所に帰れると意識を手放して気づいたら、5歳の少年になっていた。記憶、経験、技量を全て引き継いでね。足りないと言えば、鍛え上げた強靭な肉体くらいだな? 男が歩いた28年と言う人生はこんな所です。」


つ・疲れたぁ~!!


「て~と、テメェはその男の全てを引き継いでいるから魔物を倒せたと言うことだな。」


「実際には身体が貧弱なので、1割も力は引き出せませんがそんな所です。」


「えっ!? ちょっと待ってよ! さっきの男の人の話しは真甚くんの事だったの?」


良くわからず聞いてたの!?


「難しいんだけど、男の人が輪廻転生して生まれ変わったのが真甚龍人かな?」


「えっと、真甚くんは世界最強の騎士だったと言うことですか!?」


「その記憶があるだけで私では無いかな? 今の俺は騎士では無く従魔士だからね。」


説明が難しいよ。俺であって俺では無い感じ。俺でも上手く説明出来ないしな。


「現実離れしていますが事実なのでしょうね。話しを聞く限り結婚もしていないのでしょう?」


「そう言う話しは沢山来ていましたが結婚はするつもりはありませんでしたね。」


「それはどうして? その役職だとお金には困らなかったでしょう?」


「敵が多すぎたんです。毎夜他国の暗殺者に襲われ、貴族からも命を狙われ、戦場では仲間の騎士からも狙われる始末でした。不幸になるのがわかっていて結婚は出来ません。それに家もお金も無かったですから結婚はどちらにしても無理でした。」


「お金が無い?」


「宿舎で飯が食べられるので、給金は全て孤児院に寄付してたんです。ほぼ戦場でしたのでお金は必要無かったんです。国から飯は支給されますしね。なら、必要な場所にと思いまして。」


「男はそれで良かったの? もっと良い人生を送れたのではなくて?」


「男はそう言う生き方しか知らなかったんです。でも

、そんな人生でもかけがえの無い友人が出来たんです。武神ゲイトリュート、魔導王アイラ、盗王アリス、剣聖キスリル、聖女セイラ、勇者ユリウス、最後に戦友であり親友を助けて逝けたんです。最高の人生でした。もう逢う事は無いと思いますが、逢ったら確実に説教されます。いや、説教で済まないかもです。」


大丈夫、流石に異世界まで来て逢う事は無い。無い・・よな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る