第15話 説明

流されるがまま雫さんの家に連れてこられた。雫さんのお父さんともめていると知らない女性が部屋に入って来た。どうやら、その女性は雫さんのお母さんのようだった。


「ふ~ん、そういう事ね。それで貴方はうちの娘の事はどう思っているのかしら?」


「大切な友達です。」


「恋愛感情は無いと?」


「正直・・わかりません。ただ雫さんも萌衣さんもまだ10歳です。詳しくは言えませんが、出会った切っ掛けが切っ掛けです。雫さんが私に向ける感情はもしかすれば勘違いと言う可能性も多いにあります。なのでお互いに知る必要があると私は思っています。」


そんなに早く決めなくても良いんじゃないと言うのが俺の意見。だって、この先に別な人を好きになるかも知れない。


「面白いわね、貴方。名前を聞いても宜しくて?」


「私は真甚龍人です。雫さんのクラスメートです。」


「真甚くん、遅くなったけど、雫を助けてくれてありがとうね。」


「いえ、私は何も・」


「真甚くんは隠しているようですが、状況から言って先の件で雫と萌衣ちゃんを助けたのは君でしょう。被害にあった男子生徒の話しも聴取されています。それに、の学生では手に負えない魔物が居た痕跡も多く見つかっています。そして娘達の態度から解決したのが真甚くんであると確信しています。迷宮への入出記録からも裏付けが取れています。それを踏まえて私達は今回の件は公表を致しません。」


完全にバレてるけど、元々隠すつもりで行動していなかったから痕跡が残っていたとしても可笑しくない。そもそも、そんな時間も余裕も無かった。助けることしか考えられなかった。


「その通りです。偶然にあの場に居合わせました。ただ私も力不足で二人には怖い思いをさせてしまいました。あの魔物を倒せたのも奇跡でした。」


「真甚くんが謝る必要は無いわよ。そもそも私達の反対を押しきって冒険者になると冒険者の学校へ行ったのですもの。Sランク職業だと調子に乗ったのが原因なのです。雫、反省しなさい!」


「お母様、ごめんなさい。」


「でもそれは雫さんのせいだけではありません。確かに雫さんは優秀な職業を得て少し慢心していたかもしれない。ただ今回は迷宮が異常だった。学校で習った迷宮の情報が役に立たず、魔物も学校の生徒ではどうしようもない魔物が多くいた。これは迷宮を管理する側に問題があったと私は思います。」


そもそも、ゴブリンしか出ない迷宮だからこそ生徒が入れるのだ。それが前提から覆された。これでは生徒達が幾ら対策しようと意味が無い。


「それは冒険者組合でも大きな問題になっているわね。誰の責任だって、罪を擦り付けているわね。」


そういう所は前世と変わらないんだな。


コンコン!


「失礼します。お客様が御見えになっております。」


「私が呼んだお客様です。ここへ案内して下さい。」


直ぐに二人の男女が部屋に入ってきた。男性の方から強いプレッシャーがのしかかる。相当に強いな。


「お父様!? 何故ここに!?」


萌衣さんから驚きの言葉が飛んできた。二人は用意された椅子に座り、今までの話しの説明をしようと聞いていた。


「テメェは一体何者だ! テメェもわかってんだろ自分の異常さによう。娘の事もあったから、調査には俺も加わった。あの残留した魔力だけで鳥肌がたったわ! 彼処で何があった!」


今更、隠し事をしてもしょうがないな。


「あの日あった事は全てお話します。まず私は国立札幌冒険者学校1年F組の真甚龍人、職業は『従魔士』です。あの日は自分のスキルを試しにあの迷宮に行ってました。探索して直ぐにゴブリンの多さに異常を感じましたが、脅威に感じなかった為に奥へ進みました。そこで200を越えるゴブリンが集落を造っていました。」


「おい、あの集落もお前だったのか!?」


「スキルの試し撃ちで殲滅しました。気になると思いますが詳しくは後で説明させて下さい。それで、丁度殲滅し終えた時に悲鳴が聞こえたんです。その場所があの洞穴でした。その洞穴からは背筋が凍りそうな死の気配が漂っていて足が震える程でした。ただ、あの悲鳴が私を突き動かした。」


「その悲鳴は私達かも?」


「洞穴に無理やり連れていかれる時に叫んだと思います。その声を聞いて助けに来てくれたんですね。」


「洞穴の中には、ゴブリンシャーマン、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキングが数体と台座に禍しい黒い卵のような物が置いてありました。その卵を見た瞬間この卵は絶対にうかさせてはいけないと思いましたが手遅れでした。男子生徒は私の従魔に回収させて避難させましたが二人の避難が間に合わないまま、あの魔物が産まれてしまった。」


今思い出しただけでも背筋が凍る。


「あの時は怖くて動けなくてごめんなさい。」


「私達が動けていれば、逃げることも出来たのにごめんなさい。」


「あれはしょうがないよ。それに、どちらにしても逃げられ無かったと思う。あの時は二人が逃げる数分を稼げれば良いかなくらいに思っていたしね。直ぐにぼこぼこにされて殺されそうになったしね。」


『えっ!?』


「死ぬ気だったのか!?」


「あの時まではそうだったかも知れません。目を覚ました時に私の従魔が命がけで私を守っている姿を見るまではね。この時まで自分の事が他人ごとだったんです。死んだら死んだでしょうがない。二人を守れたらそれで良い。本気でそう思っていた。そしたら、殺されそうな従魔を見た瞬間、プチンって何かが切れたんです。従魔を殺そうとする魔物、そうそうに生を諦めた私自身になのか、多分後者でしょう。そして、この時初めてこの世界に私と言う存在が確立した瞬間でもあった。死にもの狂いで戦い、槍を魔物の核へと突きたてた。」


あの日の出来事は語り終えた。


「黒い卵から産まれた魔物か? 聞いた事がねぇな。」


「魔物の種類はわかりませんが《災王》と呼ばれる魔物だと言うのはわかっています。」


「なぁ!? 冗談だろ! 災王をテメェが倒したって言うのかよ・・・」


「良くわかりませんが、多分そうです。倒した時に称号『災王を討伐せし者』を獲得したので間違い無いと思います。ただ勝てたのは、あの魔物が産まれたばかりだからです。成長して経験を積んでいたらお手上げです。」


これは本当。前世の身体であれば倒せると思うけども、この身体ではまだ無理だ。


「最初に戻るが、テメェは何者だ!」

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