第50話 暁鐘
国王からの呼び出しを受けた翌日、ラースは王宮を訪れていた。
応接間に通されてしばらく待つ。
再び王宮の扉が開かれて、国王陛下が入ってきた。
「急に呼び出してすまんね。ラースくんが王都でまた危ないことに首を突っ込んでいると聞いてな」
「勝手にマスハス財務官を使ってすみません」
「いや、それはいいんだ。あの詐欺組織の壊滅の裏には君がいるんだろう?」
ローラン陛下は全てを知っているという様子だった。
「陛下に隠し事はできませんね」
「本来なら私がやらないといけない事をラースくんに押し付けてしまったね」
そう言ってローラン陛下は軽く頭を下げた。
その口ぶりから察するに、国も手を焼いていたということだろう。
「いえ、私のことも利用しようとしていましたし、動物をあんな風に扱う人たちは許せませんから」
「それでも、君たち獣医師会が尽力してくれたおかげであの組織は壊滅に追い込むことが出来た。私からも褒賞を出そうと思うのだが、何か希望はあるか?」
「そんな、見返りが欲しくてやったわけじゃないので」
「本当に、君はベルベットそっくりだな」
そう言って陛下は懐かしむように笑みを浮かべた。
「あいつも、ワシが何か褒賞を与えようとする度に同じことを言っていたわ」
「お祖父様らしいですね」
「しかし、何もしないわけにはいかん。ナイゲール伯爵家を侯爵家へと陞爵しようと考えている」
「え、ナイゲール家が!?」
ラースは驚きに声を上げた。
伯爵から上がるということはそう滅多にあるわけではない。
「ベルベットやラース、君たちの功績を考えたら遅すぎるくらいだ」
「ありがとうございます。きっとお父様も喜びます」
陛下としてなかなか粋な計らいだと思う。
ラースが金や名誉では揺らがないのを知ってのことだろう。
実家の陞爵ならラースも文句は言わないと踏んでのことだろう。
「それと、これは別件なんだが、オーランドに帰る前に教会本部を尋ねてくれるか?」
「教会ですか? それはまたどうして?」
「聖女様がラースに会いたがっているとのことだ」
陛下は懐から紹介状を机の上に置いた。
聖女はこの国の象徴のような存在である。
女神の信託を受けて、聖女は多くの人の命を救うことを仕事としている。
ラースとは同じ信念を持っている人間ということには間違いないだろう。
「分かりました。オーランドに帰る前に教会へと寄っていきます」
「そうしてくれ」
そう言うと、ラースは王宮を後にして実家へともどった。
すると、父が走ってきた。
「ラース!!」
「お父様、そんなに慌ててどうしたんですか?」
「ナイゲール伯爵家が侯爵家になるそうだ!」
「らしいですね」
どうやら、家にも陛下からの正式なお達しがあったらしい。
「ラースのおかげだ。ナイゲール家を侯爵家へにしてくれてありがとう!」
父は涙目になっている。
よほど嬉しかったのだろう。
「私だけの力ではありません。お祖父様やお父様の力あってのことですよ。侯爵」
ナイゲール伯爵家は侯爵家へと陞爵したのであった。
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