第51話 聖女様

 ナイゲール家が侯爵家へとなった翌日。

ラースはクレインと共に教会本部へと向かっていた。


「教会、久しぶりに来ました」


 クレインは教会の大きな建物を見上げて言った。


「あんまり来る機会ありませんからね」


 教会は国から独立した機関である。

だから、国家であっても教会には安易に手を出すことはできないのである。


「でも、なんの用なんですかね。聖女様がラースさんに用があるなんて」


 聖女が個人を呼び出すということなど、聞いたことが無い。


「大丈夫ですよ。誰かを救いたいって思いは医者も聖女様も一緒なはずですから」


 教会のシスターに陛下からもらった紹介状を提示した。


「ラース様たちですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 ラースたちは教会の応接間へと通された。


「お待ちしておりました。ラース先生」


 そこには、綺麗な銀髪を腰の位置まで伸ばした少女がいた。

可愛いというよりは綺麗と形容するのがだろうか。


 それはまるで天使様のようである。


「あなたが、白銀の聖女様……」


 その美しい銀髪から世間では“白銀の聖女“と呼ばれている。


「ええ、確かに世間ではそう呼ばれていますね。アナスタシアと申します」

「初めまして。ラース・ナイゲールです」

「はじめまして」


 そう言ってアナスタシアはニコリと笑う。


「まあ、とりあえずお座りください」

「失礼します」


 ラースたちはソファーへと腰を下ろす。


「急なお呼び出しになってしまい、申し訳ございません。ラース先生はすぐにオーランドへ帰ってしまうとお聞きしましたので」

「いえ、構いません。それで、私にどういったご用件でしょう? 治療の依頼ってわけでもなさそうですよね?」


 聖女様でも治せない病があるとすれば、それはラースでも治せるかは分からない。

最も、ラースと聖女では治療へのアプローチが違うようではある。


 ラースは医療魔法という特別な魔法を使うが、聖女は聖力という力で治癒魔法の領域である。


「ええ、今日ラース先生を呼んだのは治療の依頼ではありません」

「では、何を?」

「先日、女神様から神託がありました。ラース先生、あなたに女神の加護授けるようにと」

「聖女の加護……」


 聞いたことがある。

ローラン王国が信仰する女神は治癒の神だと言われている。

その加護を授かった者は過去に多くの命を救ってきた。


「なぜ、私なのでしょうか?」

「それは、私にも分かりません。ただ、誰かを救いたい、守りたいという想いが強い人ほど選ばれやすいと言われています」

 

 ラースは女神に選ばれた存在になったのだった。

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