第13話 気管虚脱

 ラースクリニックは、領主である辺境伯のお墨付きということで、初日から多くの患者さんが来場した。

この街には、病院はあるが獣医院はここしかない。


 おのずと、獣医に診てもらいたい人はここに集まるのである。


「うちの子、呼吸がぜえぜえしてて、あんまり眠れてもいないよう何です。それで心配で」

「それはいつくらいからですか?」

「一昨日くらいからです」

「分かりました。ちょっと診てみますね」


《医療魔法・スキャン》


「これは……」

「先生、何か分かったんですか?」

「胸部気管虚脱という病気ですね」


 気管虚脱とは、空気の通り道である気管が途中で潰れてしまい、呼吸ができなくなってしまう病気である。

高齢の犬などには多く見られる症状だ。


 手術をすれば完治させることはできるだろう。


「このまま帰してしまったら、急変して亡くなってしまう可能性もあります。なので、今日は入院して酸素を吸わせて改善を試みましょう」

「分かりました。先生にお任せ致します」


 ラースは酸素マスクを用意して吸わせる。


《医療魔法・調剤》


 さらに、気管を広げる薬を錬成した。


「今から、気管を広げる薬をこの子に打ちますね」


 注射器で薬を投与する。


「ちょっと痛いけど頑張るよー」


 この子は、ラースが医療ミスをした瞬間に死んでしまう。

絶対にミスは許され無い。


 何かできることはないかと探してあげる。

その心を忘れないことが大切なのである。


「では、先生うちの子をよろしくお願い致します」

「はい、分かりました」


 ラースは患者さんのペットの犬を預かる。

さらにそこから、より呼吸がしやすいように酸素濃度が高い部屋へといれた。


「これで、様子見ですね。気管が広がってくれるといいんですけど」


 気管が広がらなかったら、そのまま手術ということになってしまう。

今は、改善することを祈るしかない。


「そうですね。よくなることを信じましょう」


 それから、ラースは20人近くの患者を診察した。



 ♢


 6時間後。

ラースは再び気管虚脱の犬の様子を見る。


《医療魔法・スキャン》


「よかった。改善してますね」


 医療魔法で様子を見ると、潰れていた気管が開いているのが確認できた。

高濃度の酸素と、薬がうまい事作用してくれたのだろう。


「これで、とりあえずは安心ですね」


 ラースは飼い主にペットを返す。


「先生、本当にありがとうございました」

「いえ、お大事になさってくださいね。また心配なことがあったらいつでも来てください」

「はい、お世話になりました」


 ペットは話すことができない。

だからこそ、飼い主は不安になってしまうのだ。

ペットは家族。


 その不安を取り除いてあげることも、医師であるラースの仕事なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る