第14話 事故現場

 開業から2日が経過した。


「今日は暇ですねぇ」


 看護師のアリアが言った。


「私たちが暇なのはいいことですよ」


 医者に頼らなくてもいいのは、この街に病気や怪我をした人がいないということである。

それは、とてもいいことだろう。


「でも、こうも静かだと何かあるのではと考えてしまいますね」


 嵐の前の静けさという言葉もあるくらいである。


「院長、そんなこと言ったら本当に何か起きてしまいますよ」


 事務長を任せているイリスが優しい声で言った。


「ラースさん! 居らっしゃいますか?」


 クレインが慌てた様子で入って来た。


「はい、居ますよ」


 ラースは診察室から顔を出す。


「どうかしましたか? そんなに慌てて」


 走って来たのだろう。

額には汗が滲んでいる。


「緊急事態です! 隣街と繋ぐトンネルが崩落しました」

「え!? 事故ですか?」

「まだ原因は分かっていませんが、怪我人が多数出ています。医者と看護師の人手が足りません。ラースさんの専門外ということは分かっていますが、手を貸して頂けないでしょうか?」

「もちろんです」


 こんな時のためにラースは王国が発行している医師国家資格を取得している。


 ラースはイリスとアリアに視線を向ける。


「私も行きます! お手伝いできると思いますので」

「では、今日は臨時休診ということにしましょう」

「ありがとうございます! では、行きましょう!」


 休診にして病院を出ると、そこには馬車が停車していた。


「乗ってください」

「はい」


 ラースは、クレインの手を借りて馬車へと乗り込んだ。


 御者が馬に鞭を入れると馬車はゆっくりと進んで行く。

スムーズに街を抜けて行き、事故現場のトンネルへと到着した。


 そこは、砂埃で視界が悪い。

それでも、辺境伯の騎士たちによって続々と救出されて行く。


 医療用のテントが作られて居る。


「重症者はうちの病院でも受け入れましょう!」

「分かりました!」

「アリアさん、補助に付いて下さい。トリアージを始めます」

「了解です」


 自力で歩ける人は自分で医療テントへと向かう。

そこでは治癒師たちが治療に当たっている。


「医師のラースと言います。どこか痛いですか?」

「腕が……」

「ちょっとみますね」


《医療魔法・スキャン》


 腕の骨が折れているのを見て取れる。


「今、腕の骨が折れてしまっています。ここで固定しますね」


 ラースは当て木を添えて骨折箇所を固定する。


「クレインさん、まだ取り残されてる人が居ますか?」

「はい、まだ30人ほどはいると思います」

「結構いますね。重傷者はうちでも受け入れますんで、言ってください」

「それは助かります」


 ラースの病院はまだ病床に余裕がある。

近隣の病院の中では受け入れられる方であろう。


 その時、危惧していた第二の被害が起こってしまった。

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