第12話 人員確保

病院を開業するにあたり、まだまだ必要なことはあった。

それは、病院で働いてくれる人員を確保することである。


「事務と経理、それから看護師なども居てくれたらありがたいのですが」

「そのことならちょうどいい人物がいる。すでに準備はできているよ」


 さすがはバーロン辺境伯、仕事が出来過ぎて恐ろしいくらいである。


「おい、入ってくれ」


 バーロンがそう言うと、燕尾服を来た壮年の男性が入って来た。


「ご無沙汰しております。ラースお嬢様」

「久しぶりですね。イリスさん」


 イリスさんはバーロンの右腕として、長年このオーランド領の発展に貢献して来た。

いわば、影の立役者である。


「彼にラースさんの病院の事務と経理を任たらどうだろうか?」

「よろしいんですか? イリスさんはバーロン卿の右腕とまで呼ばれた方ですよね」

「本人の強い希望でな。叶えてやって欲しい」

「願っても無いことです」


 イリスさんがいればこんなに心強いことは無い。

彼の優秀さはよく分かっている。


「老い先短いこの人生、あなたのような人に捧げてもいい。そう思ったのです。どうかこのイリスをお使い頂けたらと思います」

「もちろんです。事務長としてうちに来てください」


 事務長となると、事務業務全般を統括する事務方のトップということである。

イリスさんなら信頼も置けるし、十分にやってくれるだろう。


「かしこまりました。よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ラースはイリスさんと握手を交わした。


「看護師の方なんだがな、この人とかどうだろう?」


 バーロンが資料を渡してくれた。


「主に出産で病院を辞めざるを得なかった人に声をかけた。子育ても落ち着き、そろそろ復帰してもいい頃だと思ってな」

「さすがです。やはり、目のつけるところが違いますね」


 女性の看護師は、出産をすると仕事をやめなければならない。

そうなると、なかなか復帰することができないのである。


「問題ありません。この方にお願いしたいと思います」

「分かった。伝えておこう」

「何から何まですみません」

「いや、気にするな。あなたは、我がオーランド領を救ってくれたのだから、これくらいはさせてくれ」


 これで、必要な人材は確保することができた。

後は開院を待つのみである。



 ♢



 1週間後。

ラースクリニック開院当日である。


 ラースは白衣に身を包み、医師であることを証明する腕章をつけていた。


 イリスさんもスリーピーススーツを綺麗に着こなしている。


「改めまして、院長のラース・ナイゲールです。今日からよろしくお願いします」


 スタッフたちに挨拶をする。

看護師も無事に採用することができた。


「はい、お願い致します」

「それでは、いつ患者さんが来てもいいように準備しておきましょう」


 午前11時。

ラースクリニック開院。

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