第9話 治療を終えて
フェンリルの治療を終えて、ラースたちは街へと戻る。
「私は、父上に報告して参ります」
「私も行っていいですか? 少し、気になることがありまして」
「もちろんです。一緒に行きましょう」
オーランド家に戻ったラースは、辺境伯に報告へ行く。
「では、魔物の暴走は収束したという事だな」
「はい、確かに確認して参りました」
フェンリルが完全に復活した今、魔物たちは落ち着いてくれている。
「では、領民たちの緊急避難指示を解こう」
「私からも一つよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。今回の一件の立役者だ。話してくれ」
「あのフェンリルですが、傷の状態から見て人為的につけられたものだと思います」
魔物によって付けられた傷と、剣などの人工物で傷つけられた場合にはその傷跡に大きな違いが生まれる。
これは、実際に何度も目にして来た。
あのフェンリルの傷は、確かに剣によるものと見て矛盾しない。
「それは本当かね?」
「はい、片手剣のような剣で傷つけられた可能性が高いかと思います」
「ラースさんは動物の専門家だ。そのあなたが言うなら間違いないだろう。こちらで調査してみよう」
「ありがとうございます」
辺境伯は早速、調査の手続きをしてくれた。
「その子はどうしたのだね?」
ラースの肩に乗っているフェンリルの子供を見て、辺境伯が言った。
「この子は私が助けたフェンリルの子供です。一緒に来たがっていたので連れて来たんですが、まずかったですか?」
「本当に、あなたには驚かされるな。フェンリルの子供が人間に懐くなど聞いたことがない」
一般的に、神獣を使役することは出来ない。
よほどの高位な魔術師や召喚術師であれば話は別だが、基本的には不可能だ。
「ラースさんは専門家だ。そのあなたが育てるというのには何も問題はあるまい」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらの方だ。来て早々に問題を解決してくれてありがとう」
そう言って、辺境伯は頭を下げた。
「頭を上げてください。私は、医師として困っている人を見逃せなかったんです」
「立派に育ったな。まるで、昔のベルベット氏を見ているようだ」
辺境伯は目を細めて懐かしむように言う。
「生前は、祖父がお世話になったと聞いております」
ラースの祖父と辺境伯は、同じ学院の同期で仲が良かったと聞いている。
卒業してからも、定期的に会っていたらしい。
「お世話になったのはこちらだよ。彼はすごい獣医学者だったからね」
「そう、でしたね。祖父のことは尊敬しています」
「長旅で疲れている所、申し訳なかった。今日は休んでくれ。今回の報酬についてはまた明日にでも話そう」
「お気遣いありがとうございます」
ラースはオーランド家の従者によって部屋へと案内された。
「こちらが、ラース様が本日からお使いになるお部屋でございます」
「ありがとう」
「何かありましたら、私どもにお申し付けください」
そう言うと、従者は粛々と一礼してその場を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます