第8話 守り神

フェンリルの治療を終えると、私は立ち上がった。


「クレインさん、終わりました」

「もう、フェンリルは大丈夫なんですか?」

「はい、あとはフェンリルさんの免疫力に任せておけば問題ありません」


 神獣であるフェンリルは、他の動物よりも回復が早いと言われている。

免疫力を高める薬を打ったので、もう大丈夫だろう。


『そなた、には救われた。感謝する』


 それは、フェンリルの声だ。


「いいえ、これが私の仕事ですから」

「フェンリルと、話せるのですか?」


 クレインが驚いた表情を浮かべている。


「神獣というのは、絆を育めば意思疎通できるものなんですよ」


 魔獣より高位な存在である神獣は、意思疎通が可能な動物なのである。


『お母さんを助けてくれてありがとう』


 フェンリルの後ろから、子供のフェンリルが現れた。


「あなたは、あの時の……」


 それは、この前助けた子供のフェンリルであった。


『我が身だけでなく、息子の命まで救ってくれたそなたには、感謝しきれない』

「お気になさらずに。また様子を見にきますから、この街の人たちを守ってくださいね」

『うむ、任せよ』


 その時、フェンリルの子供がラースの肩にピョンっと飛び乗った。


「どうしたの? 一緒に来たいのですか?」


 そう尋ねると、勢いよく尻尾を振る。

どうやら、気に入られてしまったみたいだ。


 ラースはフェンリルの方へと視線を向ける。


『構わぬ。我が息子が選んだ主人だ。連れて行ってやってほしい』

「分かりました。一緒に行こう」

『ありがとう』


 その様子をクレインはただ見つめていた。


「この子、一緒に来たいみたい何ですけど連れて行ってもいいですか?」

「ラースさんなら問題ないでしょう。父上も納得してくれるはずです」

「いいってよ。じゃあ、また来ますね」


 そう言うと、ラースたちは来た道を引き返して行く。


「魔物が落ち着いていますね」

「はい、どうやら暴走は収まったみたいです」


 守り神であるフェンリルが回復したことにより、森の魔物の暴走が収まったようである。


「あなたは、本当にすごい人です」

「いえ、今回はクレインさんたちが居てくれたおかげです。それに、お祖父様には遠く及びませんよ」

「ラースさんがそこまで言うお祖父様にやっぱり会ってみたかったですね」


 しかし、それは今となっては叶わぬ願い。


 祖父は生前、まだ幼かったラースの魔法を見て言ったことがある。


「ラース、お前はきっと俺を超える医者になるだろう」


 当時は、そう言われて嬉しかった。

憧れだった祖父を超えることができるなんて。


 でも、同じ職に就いた今だから祖父の凄さを感じる。

世界的権威とまで言われた祖父を超える日は来るのだろうか。


 ラースは超えられないとまで思った存在だ。

しかし、それはラースが思っているだけで超える日はそう遠くないのであった。

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